旅人マリーシャたびびとまりーしゃ
平川真梨子。旅のコラムニスト。バックパッカー歴12年、125ヵ国訪問。地球5周分くらいの旅。2014年より『旅人マリーシャの世界一周紀行』を連載。
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「世界一周して結局どこの国が一番良かった?」
これは私が一番よく聞かれる質問だが、必ず答えているのはスペインとメキシコ(あとハワイ)。
地中海やカリブ海などの超絶美しい海、美食の街サンセバスチャンや無形文化遺産の伝統料理、未完の建築サグラダ・ファミリアや古代遺跡チチェン・イッツァ、ユニークなお祭りと人々の陽気さなど、とにかく魅力にあふれた旅先で、住んでみたいとも思う国だった。
また偶然にもそれらの国では、現地在住の日本人女性との縁があった。遊牧民のように世界を移動する旅人の私は、いつかは自分の居心地の良い場所を見つけて定住してみたいと思っていたが、彼女たちはまさにそれを実現し、さらには好きなことを生業にして暮らすという憧れのライフスタイルを歩んでいた。
以前、当コラムにも登場した彼女たちだが今はどうしているのだろうか。パンデミック後は生活や心境の変化などがあったのだろうか、近況を伺ってみた。
2019年、私がスペインを周遊していた時のこと。聖地巡礼路の途中にある小さな街エステーリャ(エステージャ)へ着くと、ちょうどお祭りが開催されていた。
青空の下、白い服に赤いスカーフを巻いた伝統的な衣装の人々が、昼間からワインを飲み、歌や踊りを楽しんでいる。その様子を私が興味津々に見ていると、
「お前日本人か? この街にもなんと日本人が住んでいるぞ! 呼んでくるから待ってろ!」
通りすがりのセニョール(おじさん)に紹介されたのは、この街に住む唯一の日本人のあお木たかこさん。まさに『こんなところに日本人!』だった。
一週間も続くというお祭りでお疲れのところ、彼女は私を地元の仲間だけが集まるソサエティやミニ牛追いまつり(本場はパンプローナで行なわれる「サン・フェルミン祭」)など色々なイベントに案内してくれた。やっぱり現地の人との交流は旅の醍醐味である。
たかこさんの仕事はイラストレーターで、青森県から上京し油絵やデザインを学び、絵本出版やギャラリー装飾などを数年手掛けた後、本格的に仕事をするようになったそう。
彼女の描く絵は猫や鳥などの動物や自然や楽器、生活の道具や風景などをモチーフにした優しい作風で、見るものをほっこりとさせる癒し系だ。(あお木さんについての過去記事はコチラ)
スペインに住むようになったのは、第2の人生を別の環境で始めてみようと放浪の旅をした先がたまたまスペインだったから。マドリードに住んでいたが、聖地巡礼でエステーリャを訪れた時からこの街での交流が始まったそう。
「ここにいたらそんなにお金がかからないし、お金中心の生活じゃないので、ゆったり暮らす方を選んでしまいますね。
本当の豊かさ、幸福感は物質だけでは得られないと思っているので。ここで暮らすようになってそれがわかりました」
当時そう話していた彼女は今も同じ場所で暮らしていて、スペイン生活は15年目となる。
「最近はイラストレーターの仕事をあまりしなくなり、自分の好きな絵を描き続けていました」
普段はシリアルの箱の裏やノートに落書きをしたりしながら、食事をするように日々絵を描いている彼女。世の中の変化にあまり影響されることはなく、マイペースにやりたいことをコツコツと続けていたら、2021年に世界最大の絵本のイラストコンクール「ボローニャ国際絵本原画展」に入選したという。
翌年はファイナリストとなり、2023年は世界9ヵか国から4345件と過去最多の応募数の中また入選、今年もファイナリストに名前が挙がっている。
4年連続の快挙に本人も驚いているそうだが、その輝かしい記録は作品を見れば納得。かわいらしいイラストや色彩はもちろん、自然体で媚びていない、好きなことを貫く彼女の生き方が絵の中に素直に映し出されている。
また世界が注目するこのコンクールでは多様性が重視されるそうだが、"スペインの日常風景の中で生活する動物たちの世界を日本人が描いている"ことにはまさにそれがある。国際色豊かな本展で、日本人作品が選ばれるのは(勝手に)誇らしい気持ちになる。
「入選以来、ますます絵に集中する生活になりました」
トークイベントやグループ展など日本での活動も増え忙しくなったというたかこさんだが、将来の理想の暮らしをたずねてみると、
「これからは畑のある田舎の一軒家で暮らしたいと思っています。食べる野菜は自分で育て、時々ワークショップを開きたいなと思っています」
と、基本はやはりスローライフ。またスペイン以外にも気になる国があるか聞いてみた。
「住みたいわけではないですが行ってみたい国はエジプト、ギリシャ、ハワイ、トルコのカッパドキアなど、遺跡のある国です」
ピラミッドやスフィンクス、パルテノン神殿、常夏のワイキキビーチ、カッパドキアの奇岩群をすり抜ける気球など、たかこさんの絵のタッチで描かれる世界の風景はどんなだろうか。旅人の私としては自分が訪れ肉眼で見てきたものが、素敵なイラストで表現されるとしたら楽しみで仕方がない。
「El mundo es un panuelo (世界は1枚のハンカチ)」
これは彼女が教えてくれたスペインのことわざで「世界は狭い」という意味だが、私がスペインの小さな街にフラリと訪れ、そこで唯一の日本人である彼女と出会ったことはそれだったと思う。
ボローニャ展の入選者作品は日本でも毎年展示が行なわれているので、私はまたいつか彼女や彼女のイラストに会えるだろう。
第2の人生にと選んだ土地で穏やかに暮らし、息をするようにひたすら絵を描いていたら、世界最大規模のコンクールに入選していたというたかこさん。今後の活躍にも目が離せません!
あお木たかこさんのインスタグラム【https://www.instagram.com/illust.takako.jp/】
*次回、メキシコでダイビングインストラクターをしていた日本人女性のその後...、へ続く!(2月22日更新予定)
平川真梨子。旅のコラムニスト。バックパッカー歴12年、125ヵ国訪問。地球5周分くらいの旅。2014年より『旅人マリーシャの世界一周紀行』を連載。
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