友清 哲ともきよさとし
ルポライター、編集者。1974年生まれ、神奈川県横浜市出身。編集プロダクションを経て、1999年よりフリーライターとして独立。2001年から「このミステリーがすごい!」の編集に携わり、エンターテインメントの評論活動を行なう。17年には父親をテーマにしたアンソロジー『I Love Father』に参加し、小説家デビュー。『物語で知る日本酒と酒蔵』『日本クラフトビール紀行』など著書多数。
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うな丼、うな重といえば高級料理。そんな時代はもうおしまい? お手頃な価格でうなぎが食べられるチェーン店が急増中。その勢い、まさにうなぎ上り! しかし、絶滅が危惧されているうなぎがなぜ今ブームに?
首都圏や東海圏を中心にうなぎ店のチェーンが激増している。例えば、うな丼が1杯590円から食べられる「名代(なだい) 宇奈とと」は現在、海外を含めて102店舗を展開中。これはコロナ禍が始まった4年前の7倍超というすさまじい成長スピードだ。
また、「うなぎ四代目菊川」や「炭焼うな富士」など、ひつまぶしの本場・名古屋から東京に進出するケースも増えている。
うなぎといえば2013年に環境省がニホンウナギを絶滅危惧種に指定するなど、食材として希少な印象が強いが、なぜここにきてこれほどの盛り上がりを見せているのか? その背景をフードジャーナリストのはんつ遠藤氏に聞いた。
「このブームを後押ししているのは、ひとえに中国の技術向上が大きいでしょう。かつての中国産うなぎはゴムのような食感で評価が低かったのですが、最近では加工技術が向上。中国で生産して加工し、冷凍して輸入すればキッチンで調理するだけでふっくらと仕上げられるようになったのです」
うなぎには蒸してから焼き上げる関東風と、蒸さずに焼く関西風の地焼きがある。興味深いのは、国内全91店舗の「名代 宇奈とと」や全89店舗の「鰻(うなぎ)の成瀬」など、多店舗展開を重視するチェーンには関東風が多いことだ。ここにひとつのカギがある。
「関西風の地焼きとは、腹開きにして数匹を金串で打ち、白焼きにしてからタレをつけて焼く手法ですが、この加工を施すと身が硬くなってしまうため、輸入うなぎには適しません。そこで関東風の加工に着目し、技術的なイノベーションが起きたことで、これほどの安定供給が可能になりました。
その立役者は『名代 宇奈とと』で、関東風でふっくらと仕上げる技術を確立したことが今のブームにつながっているといえます」(はんつ氏)
イチから炭焼きでかば焼きを仕上げようと思えば本来、訓練された職人が一定数必要になり、多店舗展開が難しくなる。しかし「名代 宇奈とと」や「鰻の成瀬」では、加工の段階で技術的な課題をクリアし、大規模なフランチャイズ展開に成功したのだとはんつ氏は語る。
「こうしたフランチャイズビジネスは今、飲食業界をはじめさまざまな分野で人気を集めています。職人育成という労働集約型のモデルに頼らず、儲ける仕組みを開発して展開するやり方は、深刻な労働力不足にさいなまれる現状にマッチしているのでしょう」
これも現在のうなぎブームの重要な要因のひとつだ。
「その点で見逃せないのが『鰻の成瀬』で、うなぎを機械に入れてボタンを押すだけで焼き上がる自動調理システムを確立することで、人件費を安く抑えています。これによりFL比率(売り上げに対する食材原価や人件費の割合)60%という健全経営を実現し、フランチャイズ展開を加速させています」
ここからは、実際にめぼしいうなぎチェーンに足を運んでみた。
この市場は大まかに600円以下でうな丼を提供する価格破壊系と2000円程度のお手頃系、そして4000~5000円前後の高級系の3路線に分かれている。
まず、価格破壊系において驚かされるのは、とにかくそのコスパの良さ。高級メニューであったうなぎに牛丼感覚で手を伸ばすことができ、それでいて価格以上の満足度が得られるのだからありがたい。「名代 宇奈とと」にしても「うな泰(やす)」にしても、ランチタイムには外国人観光客を含めて大行列をなしていた。
「名代 宇奈とと」広報部はこう言う。
「弊社では養殖の中国産うなぎを、提携する国内の協力工場から一括で大量に仕入れることで、低価格での提供を実現しています。昨今、円安などもありさまざまなコストが高騰しているのは事実ですが、お客さまにおいしいうなぎを気軽に食べていただきたいとの思いから、価格据え置きで販売しております」
続いて足を運んだのは「鰻の成瀬 神保町店」。以前はラーメン店だったテナントにオープンしたこともあり、店内は全席カウンター。その上、水やお茶はセルフサービス、会計は現金のみと、型破りなスタイルのお店だ。
「その分、安くいいうなぎを提供したい」という経営哲学にたがわぬ内容で、うなぎを4分の3尾使ったうな重が2200円で食べられる。ひとり客がカウンターで高品質の料理を安く食べられるということで、「いきなり!ステーキ」やひとり焼き肉専門店「焼肉ライク」をほうふつとさせた。
高級店の中でも、記者が最も感動したのは「うなぎ四代目菊川」。20年に東京に進出した名古屋の名店で、一尾を丸ごと焼き上げるスタイルで知られる。約90年続くうなぎ卸問屋が運営する店ということもあって、うなぎの脂の乗りが段違い。5280円と決して安くはないが、職人の技術と良質な素材がふんだんに味わえるお店だった。
さて、うなぎチェーン市場は今後どうなっていくのか。再びはんつ遠藤氏に見解を求めた。
「今後は関西風の市場拡大がさらなる盛り上がりのポイントになるのではないでしょうか。先述のように、関東風のふっくらとしたうなぎがポピュラーになりましたから、それに消費者が慣れると今度は焦げ感がうなぎに求められるようになるはず。この調理加工の技術が進めば、うなぎ市場はまだまだ発展すると思いますよ」
実際、チェーン店ではないが、1925円でうな重(並)を提供する東京・武蔵小山の「うなぎ亭 智(とも)」など、関西風の名店は都内にも多数存在している。今後、こうしたスタイルが増えていけば、今以上の盛り上がりが期待できそうだ。
「また、今回はうな丼に注目して考察していますが、うなぎといえばうな重やひつまぶしにも一定の需要があります。特にひつまぶしは、最初はそのままうな丼のように食べ、次に薬味と合わせて味わって、最後にだし汁をかけて平らげるといった、独特の楽しみ方がありますからね」
さらに言えば、ダブルや特増しといったオプションを用意する「名代 宇奈とと」のように、牛丼に見られる特盛り路線にも伸び代がありそうだ。かつて贅沢(ぜいたく)品だったうなぎは身近な食べ物となりつつある。さらなる発展に期待だ!
*価格は税込で、店舗によって異なる場合があります。出店エリアのうち、中心地域は☆で示しました
ルポライター、編集者。1974年生まれ、神奈川県横浜市出身。編集プロダクションを経て、1999年よりフリーライターとして独立。2001年から「このミステリーがすごい!」の編集に携わり、エンターテインメントの評論活動を行なう。17年には父親をテーマにしたアンソロジー『I Love Father』に参加し、小説家デビュー。『物語で知る日本酒と酒蔵』『日本クラフトビール紀行』など著書多数。
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