『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は市川紗椰が名作アクションパズルゲーム『レミングス』の音楽について語る。
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ひたすら前に進んじゃう緑の髪の生き物・レミングに指示を与えながらゴールに導く、名作アクションパズルゲーム『レミングス』。指示に失敗するとあっけなくレミングが大量に死ぬこのゲームで遊んだことのある方も少なくないはずです。
日本ではサンソフトから発売されたスーパーファミコン版が有名だそうですが、1991年の開発以来あらゆるゲーム機から出ており、私は子供の頃にPC版でよく遊んでました。クリアするためにレミングを一部犠牲にする場面が多々あったので、大勢を救うために数匹を容赦なく爆発させてましたね。今思えば、倫理学の「トロッコ問題」に次々と直面するようなヘビーなゲームですが、当時は「頭を使う」と学校の先生も推奨するほどでした。
最近、『レミングス』の初期の音楽を聴き直す機会があり、狂気にしびれました。曲は著作権フリーの音楽がベース。音はレトロゲーム特有のピコピコ音。誰もが知る童謡や賛美歌、クラシックなどを編曲し、オリジナルパートでつなげたりしていますが、仕上がりが独特すぎ。
例えば、モーツァルトの『トルコ行進曲』。「ダバダバダ~」でもおなじみのメロディに、ズンチャズンチャッな四つ打ちのリズム隊でスタート。ちょっとしたら、まさかのタイミングで転調。『サザエさん』のBGMチックなオリジナルメロディを挟み、また転調。転調に転調を繰り返す、世にもクレイジーなアレンジです。
ほかにも、童謡『ロンドン橋落ちた』の伴奏はニューウエーブっぽい爽やかなシンセベース。そこにジャズキーボードのようなリフが乗ってきて、ダサいのかカッコいいのか、自分の感性を疑いたくなります。
オッフェンバックの『フレンチカンカン』(運動会などでよく聞くあれ)にはやりすぎなドラム。めちゃくちゃ愉快な曲なのに、サタンから逃げたり、マグマに落ちたりするステージで流れるバランスも素晴らしい。『Twang』と名づけられた曲もオススメ。
これはイギリスの数え歌+ショパンの『葬送行進曲』+ワーグナーの『結婚行進曲』からなる、生と死の定番曲マッシュアップ。最初の数え歌には、甲子園の応援を彷ほう彿ふつとさせるような「ジャン! ジャン! ジャンジャンジャン!」なスネアドラム。そこに葬送行進曲のメロディが裏打ちのリズムとともに登場。無理やり転調したら結婚式のテーマ。なぜかここでハーモニーが少し不穏になり、メロディは1オクターブ行ったり来たりを繰り返し。
3和音でこんなカオスを生み出せるなんて、感動ものです。しかもクリアするまで同じ曲を鬼リピートで聴かないといけないので、狂気倍増。むしゃくしゃが募り、レミングへの優しさもなくなります。
ちなみに、もともとはビートルズや映画『007』シリーズのテーマなどのポップスを、リミックスしてBGMに使う予定だったそうです。著作権侵害になることに気づき、著作権フリー音楽に切り替え、たった1週間で作り直したとか。
「もっと早く気づけよ」「にしてもなぜこのアレンジ」など、気になる点が満載。リークされた初代BGMを聴きましたが、最終形ほどのインパクトはないので、結果的に良かったのかも。
●市川紗椰
1987年2月14日生まれ。米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。シリーズで唯一、奥行き要素を取り入れた『3Dレミングス』は怖すぎた。公式Instagram【@sayaichikawa.official】