ある日、あるとき、ある場所で食べた食事が、その日の気分や体調にあまりにもぴたりとハマることが、ごくまれにある。

それは、飲み食いが好きな僕にとって大げさでなく無上の喜びだし、ベストな選択ができたことに対し、「自分って天才?」と、心密かに脳内でガッツポーズをとってしまう瞬間でもある。

そんな"ハマりメシ"を求め、今日もメシを食い、酒を飲むのです。

* * *

ありがたいことに、たまにお声がけいただいてはゲスト出演させてもらっているTBSラジオの人気番組「アフター6ジャンクション」。最近リニューアルされて「アフター6ジャンクション2」となり、放送時間が夜の10時から11時55分という、なかなかに深い時間帯に移動した。ふだんの僕ならば完全に寝ているころだけど、毎度番組に呼んでもらうたびに楽しみにしている。赤坂の街へ早めに行って街を徘徊し、ひとりで軽く前飲みする楽しみは、むしろやりやすくなった。

それに、こういう機会でもないと訪れることのない赤坂という街の懐は僕の浅はかな想像よりもずっと深く、そのハイソなイメージに反して、僕のような場末者を快く受け入れてくれる店が、行くたびにどんどん見つかるのだった。

というわけで、今日も会場への入り時間の1時間ほど前に赤坂に到着。ふらふらと街を徘徊してみる。すると、駅前繁華街エリアの路地裏に「大阪マドラスカレー」なる店を発見。

「大阪マドラスカレー」  「大阪マドラスカレー」
初めて聞く名前だけど、カレー好きの僕としては大変気になるところだ。食券の券売機が店の前にあったので見てみると、ずいぶんリーズナブル。

メニュー構成  メニュー構成

まだ夕飯も食べていないし、メニューにはビールもあるし、どんなカレーか気になるし、入ってみることにしよう。食べ盛りの若者でもないから、カレーは770円の「小」でいいだろう。それから、カツカレー至上主義の僕としては、ふだんなら当然「カツ」(250円)をトッピングしたいところ。が、「唐揚げ」「カキフライ」「白身フライ」と、揚げ物系だけでもバリエーションがあり、しかもどれも安い。ここは冒険して、「カキフライ」(200円)にしてみようかな。

では始めます  では始めます

さっそく「ビール(小瓶)」(400円)、そして、サービスのキャロットラペが小鉢でやってきた。甘酸っぱくてほんのりとスパイスの効いた味が、よく冷えたビールに合う。 ほどなくして、カキフライがふたつのったカレーが到着。大中小とあるなかから、いちばん小さい「小」にしたにも関わらず、驚くほどに巨大なプレートでやってきた。

「カレー(小)」と「カキフライ」 「カレー(小)」と「カキフライ」
そういうわけだから、量も一般的なカレー店の普通盛りくらい、いや、それ以上あるんじゃないだろうか。これ、大を頼んだらどうなっていたんだろう。

ごはん全体を覆うたっぷりのソースが嬉しいカレーをさっそく食べてみると、お、かなり特徴的。僕が今まで食べてきたなかでもかなりの勢いでフルーティーな甘さが際立っていて、もったりとしていて、しかしきちんとスパイス感もある。最初はちょっとびっくりしてしまうくらいの甘さだけど、食べれば食べるほどにクセになるし、たぶん、数度通ったらこのカレーなしには生きられなくなってしまうタイプだ。 そしてどうしてもときめいてしまうのが、中央にのせられた卵黄。

卵黄がまぶしい 卵黄がまぶしい

で! さらに! トッピングに選んだ牡蠣フライ! これが大正解。皿がでかいので写真だとわかりづらいかもしれないけど、かなり大ぶりでジューシー。牡蠣自体の味も濃く、これがふたつで200円なら、居酒屋だったら感動して3皿は頼んでしまうレベルだ。タルタルソースをたっぷり絡めてはふはふとほおばり、ぐびっとビールを飲むと、幸せの絶頂。カレーと合わせると、不思議とさらに牡蠣の味が際立ってうまい。

この牡蠣フライ この牡蠣フライ

後半は当然、卓上の辛味スパイスで味変し、そろそろがまんができなくなってきたタイミングで、卵黄を崩してカレーと絡めて食べる。そりゃあまぁ、うまいに決まってますわな。

辛味スパイスや 辛味スパイスや 卵黄で味変しつつ 卵黄で味変しつつ
会計時に店員さんに聞いてみたところ、大阪マドラスカレーは、大阪で30年以上も愛されたカレー屋で、その味に惚れ込み、仲良くなってレシピを受け継いだ現オーナーが、東京でオープンさせた店だそう。一時は下北沢や吉祥寺にも店舗があったが、現在このカレーを食べられるのは、ここ赤坂店だけのようだ。

で、帰ってからなんとなくWEB検索してみて驚いたことに、そのオーナーというのが、なんと俳優の北村一輝さんなんだそう。僕でも知ってる有名俳優さんだけど、こんなこともやっていたんだな。相当にこのカレーを愛していたということだろう。

またまた、赤坂を訪れたときに寄るかどうか迷う店が増えてしまった。

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パリッコ

パリッコぱりっこ

1978年東京生まれ。酒場ライター、漫画家、イラストレーター。
著書に『酒場っ子』『つつまし酒』『天国酒場』など。2022年には、長崎県にある波佐見焼の窯元「中善」のブランド「zen to」から、オリジナルの磁器製酒器「#mixcup」も発売した。
公式X【@paricco】

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