今年も花粉の季節が到来! 日本の「国民病」ともいわれる花粉症だが、実は海外にも存在するのをご存じだろうか。
事実、日本でおなじみのスギ、そしてイネとブタクサによる花粉症は「世界三大花粉症」とも呼ばれており、さらに多くの花粉症が存在する。日本の専門家に最新の花粉症治療を聞いた!【世界と日本の「花粉症」最前線⑥】
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■専門医に聞く! 日本の最新事情!
海外にもさまざまな花粉症があることをご理解いただけたところで、日本の花粉症の特徴と最新の対策について、専門医の前田陽平先生に教えてもらおう。
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――あらためて、花粉症のメカニズムを教えてください。
前田 花粉症とは、アレルゲン(アレルギーの原因物質)が花粉であるアレルギー性鼻炎のことです。花粉症の症状である鼻水やくしゃみ、涙などは、体からアレルゲンを追い出そうとする免疫学的な防御反応といえます。
――日本の花粉症が「国民病」といわれる理由はなんですか?
前田 シンプルに日本には花粉症の人が非常に多いからですね。日本における花粉症の有病率は1998年の19.6%から、2019年には42.5%に増えました。その中でもスギ花粉症が最も多く、1998年は16.2%でしたが、2019年には38.8%。国民の約4割がスギ花粉症という状況です。
――世界と比較して、日本の花粉症に特徴はありますか?
前田 アレルゲンとしての性質が非常に強い、スギによる花粉症が多いのが一番の特徴です。こんなにスギを植えた国は世界的にもなかなかありません。戦後に国策として、山の土砂崩れの防止策にもなり、建材にもなるスギを大規模に植林したことが要因です。
実際に、スギ花粉症は1960年代までは報告されておらず、スギが十分に育った1970年代以降から増え続けてきました。
――マスクや飲み薬など、花粉症にはさまざまな対策がありますが、そもそも日本で現在利用可能なものにはどんな方法があるのでしょうか?
前田 花粉症治療は、大きく分けて4種類あります。マスクや鼻うがいなどによってアレルゲンを回避する「①抗原の回避」、飲み薬や点鼻薬、注射薬などの「②治療薬」に加え、粘膜を焼いたり鼻の中を広げたりする「③手術療法」、そして体質自体を改善する「④免疫療法」です。日本でメジャーなのは①と②ですね。
治療薬としては、アレグラ、クラリチン、アレジオンといった抗ヒスタミン薬の飲み薬が一般的かと思います。ただ、こうした標準的な治療薬で症状の改善が見られない場合は、2020年に保険適用になった「ゾレア」という注射薬があります。重度のスギ花粉症の方には、切り札として検討に値する薬です。
――体質自体を改善する「免疫療法」も気になります。
前田 日本で一番行なわれているのは、スギのエキスを含むタブレットを毎日舌の下に置いて体質を改善していく「舌下免疫療法」です。
効果が出るまでに半年ほどかかり、改善を維持するためには3年から5年ほど継続する必要がありますが、ほかのアレルギーの発症を減らすといったデータもあるので、お子さんなどには特にオススメの治療です。しかし、供給が需要に追いついておらず、現在は新規の開始が難しい状況です。
――今年から花粉症になる人も多くいると思います。まずは何をすべきでしょう?
前田 花粉症になったら、まずは早めに病院に行きましょう。初期の段階で服薬することで、以降の症状悪化を抑えることもできるんです。
また、日本は異常にスギ花粉症が多い一方、幸いなことに安価かつ気軽に専門医に診てもらえる希少な国です。まずは早めにお近くの医師に相談してみてください。
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国によって花粉症事情はさまざまだが、医療体制が整ったスギ花粉大国・日本においては、早めの受診が吉! 世界にも花粉症で苦しむ同志がいることを胸に刻みつつ、花粉舞う春を生き抜こう!
●前田陽平(まえだ・ようへい)
日本耳鼻咽喉科学会認定専門医・指導医。日本アレルギー学会認定専門医・指導医。医学博士。大阪大学医学部卒業後、市中病院で研鑽を積み専門医を取得。大学院を経て、大阪大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科で助教として勤務、2022年4月からJCHO大阪病院耳鼻咽喉科部長に就任。専門は副鼻腔炎、アレルギー性鼻炎、鼻腔腫瘍、鼻副鼻腔・眼窩・頭蓋底疾患に対する経鼻内視鏡手術など。