「雑草にも種類ごとに個性があって、香りが強いもの、味にクセがあるものがある。でも、適材適所、上手に使えば、どんなコでもおいしく食べられるのが雑草食の魅力のひとつです」と語るMichikusa氏 「雑草にも種類ごとに個性があって、香りが強いもの、味にクセがあるものがある。でも、適材適所、上手に使えば、どんなコでもおいしく食べられるのが雑草食の魅力のひとつです」と語るMichikusa氏

立春も過ぎ、暦の上では春となった。冬の枯れた景色から一転、力強い緑の草木も芽吹き出す。

その中でも特に身近な植物・雑草をおいしく、おしゃれに調理して食べる方法を紹介するのが『道草を食む 雑草をおいしく食べる実験室』だ。

Apple Podcast自然カテゴリで第1位を取った人気番組のパーソナリティで著者のMichikusaさんに雑草食について聞いた。

* * *

――ズバリ、これからの季節にオススメの雑草は?

Michikusa(以下、Michi) そうですね。カラスノエンドウなんかはオススメです。子供の頃に見たことがある人も多いかもしれません。ちょうどエンドウマメのミニチュアのようなサヤを持つ植物で、花も身も葉っぱも食べられます。

特に新芽の柔らかい部分は豆苗(トーミョウ)に味が似ていておいしいです。カラスノエンドウは冬の間も枯れ草の間で芽を吹いているし、暖かくなる前ならアブラムシなどの虫もついていなくて集めやすいですね。

また、土手などの斜面によく生えているイタドリ。直径1cmぐらいの太めの茎を持ち、5060cmぐらいの高さに成長します。生で食べるとちょっと酸っぱいのですが、皮をむいて中華風の炒め物にするとメンマみたいな食感でおいしいです。

あとは、定番ですがノビルも旬ですね。ラッキョウのように膨らんだ根元を食べます。さっと湯がいて、味噌をつけて食べるのがポピュラーですが、私は醤油漬けが気に入っています。

――そういった食べられる雑草というのは、そこらへんに生えているものなのでしょうか?

Michi 一番のオススメは河川敷です。気軽に足を運べるし、草の種類も豊富。これからの時期は土手に咲く菜の花(カラシナ)はとてもおいしい。農家の畑の畦(あぜ)にも、食べられる雑草がいくつも見つかります。

例えば、春の七草に数えられる、ハコベラやナズナ、ゴギョウなどは栄養が豊富で水が十分にあり、人間によって適度に管理されている土地の近くを好む植物です。

でも、畑に入るときは必ず所有者に許可を取ってくださいね。

――雑草といっても、食べられるものは、山菜みたいに山奥に生えているイメージでした。

Michi 私たちが雑草と呼ぶ植物は、実は、人間が住む環境を好んで生えるものが多いんです。人間の近くに生息しているからこそ、よく見かけるし、邪魔者扱いされやすい。だから、ひとまとめに雑草と呼ばれているんです。

――なるほど。人の住む場所に生えているからこそ、手軽に採集できるんですね。

Michi そんな身近な雑草のおいしさや面白さを皆さんにも楽しんでいただきたいのですが、気をつけなければいけないこともあります。

例えば、毒性がある植物も身近にあります。代表的なのがチョウセンアサガオ。根がゴボウに、種子がゴマに似ていて、なんとなく食べられそうなのですが、厚生労働省が注意喚起するぐらい頻繁に誤食事故が起きています。

決して「おいしそうだから」という理由で知らない植物を食べないようにしてください。

植物の名前を教えてくれるアプリなんかもありますが、あまりオススメはできません。最近のものはかなり精度が上がっていて評判もいいのですが、完璧ではありません。

図鑑でちゃんと確認することが大切。できれば、似た植物と間違えないように複数の図鑑で確認することが望ましいです。可能なら詳しい人に確認するのが一番です。

――ちなみに、雑草食に対する周りの反応は?

Michi 雑草を食べていることを話すと、たいていびっくりされますし、引かれてしまうこともあります(笑)。でも、「本当に食べられるの?」と興味を持つ方もいらっしゃる。私が開催している雑草を食べるワークショップも多くの方にご参加いただいていて、好評です。

――そこでは雑草を皆さんで調理するんですか?

Michi そうです。みんなで草を摘みに行くところから始まって。食べられない雑草ももちろんあるので、観察したり確認したりしながら、持ち帰った雑草を料理して食べてみます。

――おいしい雑草だけではなく、中にはがっかりしたものもあるのでは?

Michi ありますね。夏の草で、アカザとかシロザと呼ばれる植物があって。戦前生まれの方はよく食べていたらしく、味も悪くないと聞いていたのでわくわくしながら食べたところ......葉の表面が粉っぽく、食感が悪くて、期待ほどではありませんでした。

あと、侵略的生物の代表格として名高いセイタカアワダチソウもゆでただけだとクセが強くておいしくはありませんでした。でも、しっかりアク抜きして香りづけに使うとおいしくなるんですよね。

――調理法によって変わる?

Michi そうなんです。雑草にも種類ごとに個性があって、香りが強かったり、味にクセがあったりするものがある。でも、適材適所、上手に使えば、どんなコでも工夫次第でおいしく食べられるのも雑草食の魅力のひとつです。

――雑草食を始めてみて、変わったことはありますか?

Michi 雑草を採集して食べるという経験を通して、自身に流れる狩猟採集民の血に目覚めたというか(笑)、内なるハンティング欲に気がつきました。雑草を集めていると、獲物を捕まえているような感覚になるんです!

――雑草採集は狩り、と!

Michi 雑草を見つけるのってエキサイティングなんです。採集のとき、「これを見つけよう」と出かけていっても、目当てのものは見つからないことが多いんです。でも、別の種類の雑草が思いがけず見つかったりする。

ディズニーの『眠れる森の美女』に出てくるキイチゴのジャムを作るシーンが子供の頃から憧れだったんですが、人の手で栽培されていないので、ジャムを作れるほどキイチゴを採集できることなんてずっとなかったんです。

でも、とある場所で初めて大きな群生地を見つけて、ジャムが作れるほどのキイチゴを採集したときは大興奮でした。

人の手で管理されない野生の植物だからこそ、そうした偶然の出合いがある。そうして見つけ出した雑草の個性を知って、おいしく食べられる料理法を考える。この楽しさが雑草食の魅力なんです。

●Michikusa
1991年生まれ、千葉県出身。東京農業大学農学部農学科卒。幼い頃より道端、河原、街中の商店街などで足元の植物を観察。現在は岡山県を中心に、雑草を暮らしに取り入れる方法を模索しながら各地で観察会やワークショップを開催。毎回ひとつの雑草を取り上げて、具体的な調理方法や活用術について実体験を交えて話す『道草を食む〜雑草を暮らしに活かすRadio〜』(Apple Podcast自然カテゴリ第1位)を不定期に配信中。薬草料理マイスター。自然観察指導員

■『道草を食む 雑草をおいしく食べる実験室
CCCメディアハウス 1870円(税込)
身近な雑草を食べることをテーマに、雑草の調理法、採集の仕方、雑草にまつわるさまざまな情報がつづられたエッセイ&レシピ集。四季折々の雑草を、おしゃれなイラストや写真と共に紹介している。雑草料理はどれも再現したくなる出来栄えで、毎日の通勤路でもつい雑草に目が行ってしまうこと請け合い。休日の散歩のお供に持っていき、雑草採集したくなる。眠ってしまった好奇心を呼び覚まし、野趣あふれる未知の味覚の世界に誘う一冊だ

『道草を食む 雑草をおいしく食べる実験室』 CCCメディアハウス 1870円(税込) 『道草を食む 雑草をおいしく食べる実験室』 CCCメディアハウス 1870円(税込)

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室越龍之介

室越龍之介むろこし・りゅうのすけ

ライター・リサーチャー。専攻は文化人類学。九州大学人間環境学府博士後期課程を単位取得退学後、在外公館やベンチャー企業の勤務を経て独立。個人ゼミ「le Tonneau」を主宰。経営者やコンサルタント向けに研修や勉強会を実施したりすることも。Podcast番組「どうせ死ぬ三人」を配信中。

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