『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は市川紗椰が長い期間だと思っていたのに「実は短かったもの」について語る。
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先日、初めて『Mr.ビーン』シリーズを見ました。もちろん名前と雰囲気は意識せずとも知っていた存在だけど、2012年のロンドン五輪開会式でサイモン・ラトル指揮のロンドン交響楽団とMr.ビーン(ローワン・アトキンソン)が演奏した映像以外は、ちゃんと見たことがなかったです。
「見てみようかな~、でも話数がめちゃくちゃあるんだろうな~、今から50話+映画5作とか荷が重いな~」と思ってたところ、意外な事実が発覚。Mr.ビーンのテレビシリーズはわずか14話。劇場版は2作のみ。思わぬ少なさに驚きました。イギリスを代表するキャラクターで世代を超えて知られる存在だから、20年くらい放送された長寿番組だと思ってました。完全に私の思い込みですが、「存在感の割に意外と短かったんだ」とひとりで驚きました。
ほかに「こんなに短かったの!?」と驚いたのは、西部劇の時代。開拓中のアメリカの西部で、優しいガンマンや寡黙なカウボーイが悪をやっつけて逆境に立ち向かうあの感じは、西部劇映画を見たことなくてもなじみがありますよね。
砂ぼこりが舞う壮大な自然、懸賞金をかけられた無法者との決闘、カウボーイブーツのかかとについてるあのピザカッターみたいな金具、フロンティア精神。今でもゲームやアニメ、映画で引用される世界観だと思います。
しかし、ポップカルチャーでの大きな影響力に反して、西部開拓時代はわずか約30年。年数は諸説ありますが、いわゆる「ワイルドウエスト」時代が始まったといわれているのは、南北戦争が終わった1865年。新しいスタートを切るため西部に引っ越す人が急増した上に、北部の牛がほとんど消費されてしまったので、テキサスからカウボーイによる牛の大移動が本格的に始まりました。
西部劇の題材にもなる伝説的なガンマン、ワイルド・ビル・ヒコックが銃撃戦を繰り広げたり、ジェシー・ジェイムズが初めて銀行強盗を犯したのもこの頃。終わりも諸説ありますが、よくいわれているのは、国勢調査によってフロンティアが消滅したことがわかった1890年。
アメリカの西端には未開の地がなくなり、鉄道の普及によってカウボーイなどの役割も減少し、ワイルドウエストが終了しました。つまり、実際には25年しかなかった? テレビシリーズや小説からマカロニウエスタンまで、存在する西部劇の作品を全部消化してたら、西部開拓より時間がかかるかも。
フィクションだと「実は短かった」はたくさんあります。『機動戦士ガンダム』は「一年戦争」を舞台にしていますが、第1話でアムロ・レイがうっかりガンダムに乗り込むのは9月18日。最終話で行なわれるア・バオア・クーの戦いは12月31日の出来事なので、たった3ヵ月半後。その後もアムロの物語は続きますが、この「ファーストガンダム」でアムロが頑張った期間が実際は1クールちょいだったとは。同じようなところだと、『SLAM DUNK』の作中時間は4ヵ月で、『ロミオとジュリエット』はたった5日間の出来事。わお。
ちなみに、意外と短くないのがショートケーキの「ショート」。この「ショート」の意味は「短い」ではなく「サクサクする」。余談でした。
●市川紗椰
1987年2月14日生まれ。米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。Mr.ビーン好きの友人が、「ビーン」と呼び捨てにしてたのがツボ。公式Instagram【@sayaichikawa.official】