毎年ニュースになる、総務省家計調査の1世帯当たりの餃子支出額。以前は宇都宮と浜松の戦いだったが、現在はそこに宮崎が割って入る形に。さらにこの戦いを面白くさせようとしているのが、京都だ。今年も4位にランクインし、しっかり3強の様子をうかがっている。そんな京都の餃子事情を現地取材した!
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■「京都といったら和食」とは違います
毎年2月に発表される総務省家計調査の前年1年間分のデータ。ひときわ注目されるのが、「1世帯当たりの餃子の支出額」だ。
今年も浜松市、宮崎市、宇都宮市の3強で争われたが、注目なのは4位の京都市。実はこの10年間ほぼ毎年トップ5に入っている〝隠れ餃子好き都市〟なのだ。あまり餃子のイメージのない京都。その実態を調査すべく、現地の声を聞いてみた。
まずは、京都の繁華街にいた30代のサラリーマンに話を聞いた。
「京都人はみんな餃子大好きですよ。京都人が和食のあっさりしたものが好きで、そればっかり食べてるなんて幻想ですわ。実際に京都住んでますけど、湯葉なんかほとんど食べたことないしね(笑)」
近くにいた50代の男性はこう語る。
「おそらく反動でしょうなあ。町自体が伝統的なだけに、何か新しいものがあると気になってすぐに飛びつく。あっさりした和食しかなかった頃に、餃子みたいなコテコテの料理が出てきて、みんな飛びついたんとちゃうかなあ。実際、京都には昔ながらの町中華の店がものすごく多いです」
中にはこんな話も。50代男性が語ってくれた。
「餃子は小さい頃から家で食べてました。おふくろの味です。家族みんなで一緒に包んで手作りの餃子を作る。餃子を食べると家族を思い出します。もうこれは子供の頃からの刷り込みでしょう」
京都人の餃子愛の深さは間違いなさそうとわかったところで、餃子店にも話を聞いてみた。
まずは、「京都の餃子といえばこの店」と評判のミスター・ギョーザ。店主の秋山和生さんが話してくれた。
「オープンは1971年なんで、もう53年ほどになります。私の妻の父親が始めた店なんですが、17年くらい前に私が店を引き継ぎ、そのときから改良を重ねていったんです。
他店さんの餃子は調味料や食材の特徴がガツンときいた強い味が多いですが、うちは逆にシンプルで、お子さんからお年寄りまで、女性でも食べやすいようにというのを目指しました。それから3年ぐらい試行錯誤しながら作り上げたのが今の餃子です」
当初は味の変化に戸惑う客もいたそうだが、この2代目店主の判断は結果的に大成功。京都で長年愛され、常に行列が絶えない店としての地位を確立した。そんな店主が、京都人が餃子好きな理由をこう推測する。
「京都は盆地で夏は暑いし、冬は底冷えする。厳しい気候を乗り越えるためのスタミナ源として愛されてるんじゃないですかね」
続いて話を聞いたのは、こちらも2代目店主の餃子愛が強いマルシン飯店。なんと営業時間は午前11時から翌朝6時までぶっ通し。さらに驚くのは並ぶ人の数。夕食時には50人近くが列を成していた。
この店も1977年オープンと長きにわたり愛される名店だ。40代の2代目店主が餃子をおいしく食べられるようにあの手この手で工夫をこらし、行列の絶えない店をつくり上げた。まず面白いと思ったのが、揚げ餃子に添えられたマヨネーズ。さすがにコッテリすぎないか?と聞くと。
「僕、若い頃マヨラーやったんです。なんにでもマヨネーズをつけて食べてたんで、太ってました(笑)。その頃、揚げ餃子にマヨネーズをつけたらメチャメチャおいしかった。スナック菓子感覚でサクサク食べられるんで、若い人に人気です」
なんと「熟成肉」を使った珍しい餃子も存在。
「熟成豚肉餃子は、肉の味や食感が出るよう大きく粗めに残し、野菜などは細かく刻むなど工夫しています。逆にノーマルの餃子は肉よりもニラ、ニンニク、ショウガ、キャベツの野菜感がより強く出る工夫をしています」
さらに店主が続ける。
「私のポリシーは初代の中華料理の基本を大事にしつつ、何をすれば、よりおいしく召し上がっていただけるかです。常にそれを考えていたら、いろんなアイデアが出てきてしまって(笑)。オリジナルの餃子専用ソースの『餃子醤』を作ったり、醸造所さんと協力して餃子専用のビールも開発しました」
餃子専用ビールとは?
「ビールだけ飲んだら、『あれ、このビール大丈夫?』と言いたくなる味なんですが、餃子と一緒に飲むと口の中に甘みがふわっと広がる。このビールで餃子を食べると、もう餃子のタレはいらないと感じるかもしれません。餃子とビールだけで完結してしまう。そんなビールなんです」
このように、お店も進化し続けているところが、京都人の餃子愛を冷めさせない理由なのかもしれない。
■サウナ後即餃子&ビール
さて、次は京都らしい餃子店に話を聞きに行ってみよう。
祇園にある「舞妓さんが食べられる餃子」がコンセプトのお店、餃子歩兵。こちらも行列店で、夕飯時には30人ほどが並び、お店専属のガードマンが列の整備にあたっていた。店主の西林巧さんが餃子の特徴を話してくれた。
「舞妓さんはあまり大口を開けて食べることはできませんので、ひと口サイズで小ぶり。また、においが気になる方もいるということでニンニク、ニラ抜きの『生姜ぎょうざ』も提供しています。ニンニク、ニラなしでも食べ応えがあるようにかつ、ショウガの辛さもうまく調整した餃子です。
また、薄皮なのでパリッとした食感もいい。肉よりも野菜のほうが多いので、しつこくなく食べられます。それでいて、下味もしっかりついているので、食べた瞬間のインパクトが強い一品です」
場所柄観光客も多く、特に目立ったのがインバウンド客。京都餃子が世界に羽ばたく日も近い!?
続いて、地元京都の食材を使ったぎょうざが人気の亮昌。伏見のキャベツや霜降り豚「京の都もち豚」、京の伝統野菜九条ねぎなどを使用。さらに、中華調味料を使わず、かつおだしベースに味噌を加えた〝和のぎょうざ〟なのだという。お店のスタッフが話してくれた。
「和食としてのぎょうざを追求しています。ぎょうざの表記も漢字ではなく、ひらがな。漢字だと中華料理のイメージが出てしまいますので」
そんな地元愛に満ちたぎょうざ店のスタッフが、なぜこれほどまでに京都でぎょうざが広まっているかの理由を語ってくれた。
「京都のぎょうざは決まり事や決まった形がなく、自由な発想で作れます。うちの店が和風のだしを使ったぎょうざを出せたのも、そんな風土があったからだと思いますし、フレンチのお店がフレンチ風のぎょうざを出していたりもしています。新しいスタイルのぎょうざが増えていくと、お客さんも選ぶ楽しみができますからね」
そんな中、自由すぎる発想で生まれたのが、お風呂やサウナが併設された「ととのうことができる餃子専門店」夷川餃子なかじま団栗店。
店は一見、普通の餃子店。食べ終わるとそのまま店を出ていくのだが、どのようにしてお風呂やサウナを利用するの? 店長の大藪翔平さんに聞いた。
「普通に餃子を食べて帰っていただいてもいいのですが、希望される方は事前に予約していただくと、お風呂やサウナに入って、ととのった後、店で餃子を味わっていただけるというシステムです」
なぜこのような餃子店を?
「いつ、どうやって食べる餃子が一番おいしいかを考えたとき、やはり、風呂上がりにビールを飲みながら食べるのが最高となったわけです。それならば、店の奥に銭湯をつけて、最高のタイミングでビールと餃子を味わってもらおうということで、3年前にオープンしました」
餃子はほかのお店のものとは違う?
「もちろん風呂上がりのビールに合う餃子を目指しました。皮が薄くて小ぶり。油分を控えめにして軽く、何個でも食べられるポテトチップスみたいな餃子をイメージして作っています」
銭湯の価格は完全貸し切りの予約制でふたりまでが80分7700円。そこからひとり追加ごとにプラス1650円となる。少々お高めな気もするが......。
「それが2ヵ月先まで予約が埋まるほどの盛況で、皆さんに喜んでいただいてます」
実際に客としてやって来た20代の学生に話を聞いた。
「風呂と食事が一気に完結できてしまうので気に入ってます。今日は大学の友達と来たんですが、今回で10回目。みんな風呂上がりの餃子とビールにやみつきになってリピーターになってますね(笑)」
とご満悦だった。
■餃子の王将無料券の思い出
ここまで、京都人の餃子愛を紹介してきたが、愛を語る上で欠かすことのできない存在が、京都で1967年に産声を上げた「餃子の王将」だとみんな口をそろえて言う。前出の夷川餃子なかじま団栗店の大藪さんもこう語る。
「みんな王将の餃子を食べて大きくなったって感じです。そもそも京都人が中華料理店に行くと、注文は『ライスと餃子』『ラーメンと餃子』『天津飯と餃子』とにかく『○○と餃子』なんです。それで私も『お風呂と餃子』もありや!となったわけです」
さらに餃子歩兵の西林さんは店名を王将へのリスペクトから名づけたという。
「京都で餃子といえば『王将』さんです。京都で餃子店をやるのであれば、『王将』さんにちなんだ名前がいいと思い、将棋の駒の中で一番基本に忠実な『歩兵』から始めて、常に基本を忘れずにということでこの店名にしました」
さらに、街行く50代男性に餃子の王将の話を振ると、しみじみ答えてくれた。
「子供の頃よく新聞の折り込みチラシに王将のチラシが入ってて、そこに餃子1人前無料券がついていたんです(現在は餃子2人前以上注文で1人前無料に変更)。それを学校の仲間で『昨日、王将のタダ券入ってたやろ。みんなで食べに行こうぜ』と放課後に集合。懐かしい思い出ですね」
70代の男性は創業当時、街中でも餃子の王将の関係者が餃子1人前無料券を配っていたと話す。
「ひとり何枚でももらえたんです。ただ、一回の食事で1枚しか使えませんでしたけど。そうやって無料券を使って通ううちに餃子を頼まんと物足りないような感覚になってしまうんです。それで無料券がないときでもつい餃子を頼んでしまうようになる。もちろんその癖がどの店に行っても出てしまい、中華(料理店)に行ったらとりあえず『餃子』という感じになったんですわ」
と京都人が餃子を頼まずにいられなくなった背景まで分析してくれた。
最後に気になるのは、そんな京都人たちは餃子支出額が3強に後れを取っているのをどう思っているかということ。先ほどの70代男性に続けて聞いてみた。
「まあ。京都はコーヒーやパンの支出額もトップクラスで意外やと言われますからね。これで餃子まで1位になってしまったら、全国の皆さんにえらい驚かれますやろ。今のままでええんと違います」
観光都市ならではの余裕なのか、はたまた闘志を内に秘めているだけなのか。来年「いきなり1位に」なんてこともありうる話。今から目が離せない。