頬ずりするほど愛おしい、方眼ノート 頬ずりするほど愛おしい、方眼ノート
『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は市川紗椰が愛する「方眼ノート」について語る。

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皆さんには、好みのノートってありますか? 私は紙質やサイズはもちろん、ページの開き方や線の間隔など、「ああこれこれ!」と心が躍るノートに出合うと、「このノート、気持ち良さそう」という訳のわからない感覚に負けて、真っさらなノートがまだ家にあるのについ買ってしまいます。

中でも、私は方眼ノートがたまらなく好き。方眼ノートを見るだけで安心感が湧いてきて、書き込むとさらに幸福感がかき立てられます。脳からドーパミンが分泌されているのがわかるほど、うっとりします。あの合理性、あの精密さ、あの可能性。今回は方眼ノートへのラブレターです。

方眼ノートにはロマンがある。優雅に広がる精密なマスには、無限の可能性があります。上下左右、どの向きに書いても大丈夫。線と線の間からはみ出るとルールを破っているように見えてしまうケイ線ノートと違って、文字のサイズを自由自在に変えても様になります。

タイトルを大きくドン、見出しなどは決まった間隔にインデントできて、小さな文字をつけ加えてもきれい。縦横の線のおかげで、図やスケッチはもちろん、落書きさえも映える。

ケイ線ノートの縛りだと、真っすぐ文字を書くことしかできない。かといって白紙ノートも困る。丸投げ感に戸惑うし、いざ何か書いたらぐちゃぐちゃになる。無駄な余白も生まれて、1ページを効率よく使うのが難しい。

方眼紙には、ほかのどのノートにもない、使う人に程よく寄り添いながらポテンシャルを引き出す力がある。大げさではありません。

方眼ノートには安心感もあります。学生時代を思い起こす懐かしさはもちろん、正確に広がるマスたちは理性と規則性を暗示してくれます。

先が読めない昨今。自然災害、理不尽な争いや不透明な決断を前に絶望さえ感じている諸君。不安な時代には、頼れる正確性ときちんと物事を整理する能力が求められます。信じられるのはそう、方眼ノート。シンプル、ロジカル、律義。精神安定ノートです。

最近買った方眼ノートはコクヨの「Sooofa(スーファ)」シリーズ。コクヨ独自開発の柔らかいリングを使用しており、手の負担の少なさを実現。方眼は4㎜とやや細かめ、紙質は滑らかな書き心地のシルキー系。サイズが通常よりワイドな変形B6サイズなのも新鮮で、ペンホルダーになっているような、なっていないような切り込みも新しい。

リピートしている方眼ノートは、定番商品・オキナのプロジェクトペーパーの、B5サイズのリングノート。こちらは見やすい5㎜方眼タイプ。線が薄い青色なので、主張がちょうどいい。紙はツルツルすぎず、程よい引っかかりのある上質なもの。50ページしかないので、ノートを使い切った達成感も得やすい。

ちなみに私は、やることがあるのにスマホでどうでもいいものを見てしまっているとき、10分だけ「無」で方眼ノートに向き合います。内容の良しあしは選別せずに(書くことがないときは「書くことがない」と書いたり)、ガーーッとひたすら書くとスッキリします。デトックスという言葉はあまり好きではないですが、雑念が消える気がして気持ちを切り替えられます。方眼ノート、ありがとう。

●市川紗椰
1987年2月14日生まれ。米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。やたらとカラフルなペンでノートを取るタイプだった。公式Instagram【@sayaichikawa.official】

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