法律で年1回の実施が義務づけられている職場健康診断だが、受けるたびに気にかかる項目が増えていく......。もうこれ以上、悪い数値を見て落ち込みたくない!
ということで、少しでも数値が改善されそうな健康診断前の悪あがきの効果を専門家に聞いた! サプリ、サウナ、運動、禁酒・禁煙、食事。どれを、どうやれば、どの数値が良くなりますか!?
* * *
■直前にやって意味があることは?
毎年毎年、受けさせられる健康診断。別に知りたくないのに強制的に伝えられる体に起きている異常。もう「要経過観察」の項目が増えるのはこりごりだ! いっそテスト前に徹夜するみたいに、健康診断の直前に数値を改善したい。なぜなら、落ち込みたくないから!
そこで、『健診結果の読み方 気にしたほうがいい数値、気にしなくていい項目』(講談社)の著者である永田 宏氏に、意味がありそうな悪あがきをぶつけてみた!
●直前悪あがき1 <サプリ>カリウムを飲めば血圧は下がるかもしれないけど......
――まずは、サプリ。数値を改善させるサプリを教えてください!
永田 うーん、どうでしょうね......。まあ、可能性としては、カリウムのサプリを飲めば血圧は下がるかもしれません。食塩の取りすぎで高血圧になっている人はナトリウムを排出すれば血圧が下がります。
ナトリウムを排出するには、カリウムを取るといい。ただ、カリウムって安楽死の薬としても使われているもので、血中にカリウム製剤が急速に大量注入されると心停止が起こってしまうんです。
そのため、サプリで取るよりも野菜や果物を食べて摂取したほうが安全でしょう。ちゃんと東北大学などで研究されていて、減塩に加えて野菜や果物からカリウムを摂取することで、血圧が低下することがわかっています。
●直前悪あがき2 <サウナ>高温はNG! ぬるめのお湯に半身浴も意味ナシ
――じゃあ、流行しているサウナはどうでしょう?
永田 そりゃあ汗をかいて出た水分の分は体重が減るかもしれませんが、水分補給をすれば戻りますからね。むしろサウナは入らないほうがいいと思います。
特に尿酸値が高い人。汗をいっぱいかくと、尿酸が濃縮されちゃうんです。尿酸値が高い人じゃなくても、熱い所に急に入ると血圧が上がるので、サウナや熱いお風呂は健康診断前は控えたほうがいい。
――じゃあ、ぬるめのお湯に半身浴するのは?
永田 半身浴は健康的っていわれていますよね。リラックスもしますし血圧は下がると思います。ただ、それもひと晩ですよ。寝て起きたら戻っています(笑)。
正直、働いている人の場合、高血圧の原因のほとんどは仕事のストレスだと思います。私自身、毎日朝晩、家で血圧を測っているのですが、気が重い仕事がある朝は高血圧になる。逆に、連休が始まる朝は低血圧といっていいぐらい下がるんですよ(笑)。
だから血圧が気になる人は1年に1回の測定ではなく、毎日測って平均的な数値を知っておくことが重要です。150とか160とかなら、それは間違いなく高血圧です。
ただ、1日、2日そういう高い日があったとしても、ほかの日が正常な範囲だったら全然問題ありません。血圧が測れるスマートウオッチなどで管理をするのもオススメです。
●直前悪あがき3 <運動>習慣づいていない筋トレで、腎臓の数値に異常が!?
――ちょっとでも筋肉をつけようと筋トレしたり、体重を落とそうとジョギングしたりするのは?
永田 激しい運動はやめたほうがいいと思います。日頃から体を動かしている人であれば体が慣れているので大丈夫ですが、そうでない人がいきなり運動をしてしまうと、いろんな数値に異常が出ます。
特に、筋トレなんかをすると、クレアチニンっていう腎臓の数値が上がることがあります。クレアチニンは筋肉を動かすためのエネルギーを使うと発生する老廃物のこと。クレアチニンは腎臓で濾過されて尿として排出されるので、血中のクレアチニンの濃度が高いと腎臓の機能が低下していると思われてしまう。
でも、普段運動をしていない人が急に筋トレとかをすると、腎臓が悪くなくても、異常値になったりするんです。だからまあ、無理なことはやらないほうがいいと思います。ジョギングなどの有酸素運動をすれば血糖値が下がる可能性はありますが、1週間やそこらじゃそんなに変わらないです。
●直前悪あがき4 <禁煙禁酒>正しい値のために健康診断前は禁酒すべし!
――それなら禁酒、禁煙は?
永田 もともとガンマGTP(肝臓の解毒作用に関わる、胆道から出てくるタンパク質を分解する酵素)の数値が高い人なら、1、2週間お酒を控えたら数値は改善されるでしょうね。
というか、飲酒をすると高い数値が出てしまうのは当然なので、アルコールを入れていない状態の数値を知るためにも健診前には禁酒したほうがいいです。禁酒したのにガンマGTPの値が高かったら、別の肝臓の病気が考えられますから。
禁煙に関しては、1週間ぐらいしたからといって、どうこうなるものではないです。でもまあ、若いうちは特に問題ないと思いますよ。肺機能に異常が出始めるのは60歳くらいからでしょうから......。
●直前悪あがき5 <食事>炭水化物をタンパク質にしても変わらない
――じゃあ食事は? やっぱり炭水化物は抜くべき?
永田 深刻な糖尿病を患っている場合なんかであれば、炭水化物を制限するのは意味あります。でも、健康な人が炭水化物を控えても、特に数値に大きな変化は出ません。
最近は複数の論文で、炭水化物を減らして、タンパク質を増やしても健康にほとんど意味がないことがわかってきています。断食やファスティングも、世界中でいろんな研究が行なわれていますが、一時的に体重が減ったりすることはあっても、健康への影響は大してないといわれています。
■むしろ気にするべきはメンタル面
――それじゃあ良い数値を叩き出すには、長期的な努力が必要ってことですか......? 頑張りたくないんですけど。
永田 直前にやって意味のあることはほとんどないですね。むしろ日頃の生活と違うことをすると本来の数値が出ないので、禁酒以外はしないほうがいい。健康診断はむしろ自分の普段の数字を知るいい機会だと思うので。
食事や運動に気をつければ、1、2ヵ月くらいで数値に影響が出ると思います。例えば糖尿病系の数値は改善されます。体重が落ちれば、コレステロール系もだいたい下がります。
ただ、数値が改善しても、病気になるときは誰でも病気になりますからね。健康診断の数値がいいからといって健康で長生きできるわけじゃないですし。だから健康診断の結果を気にしてストレスを感じるくらいなら、なんにも気にしないほうがいいですよ。
――で、でも毎年受けるたびに落ち込むんですよ!
永田 日本の健康診断って会社によっては何十項目も出しますよね。でも、海外では基本的に問診だけなんですよ。「体調大丈夫ですか」とか「最近よく寝られてますか」くらいの。やってもせいぜい血圧を測るぐらい。
日本から海外に赴任した人が、「血液検査をしてくれないのか」って言うと、たいてい「おまえ、病気なのか?」って聞かれるそうです(笑)。
おなかにゼリーを塗るエコー検査を行なうところもありますが、海外では「これ病気だよな」って状態じゃない限りまずやんないです。こんなに神経質に数値がどうのこうのって言ってるのは日本人だけですよ。だから普段から困っていないんであれば大丈夫です。
――そうなんだ!
永田 むしろ気にするべきなのはメンタル面です。メンタルは健康診断のように数値化することができませんから。あとはがん検診。最近は早期発見すれば治るようになってきているので、40歳を過ぎて各がん健診の対象年齢になったら受けるのもいいでしょう。
毎年行なわれる健康診断は「一応、自分の数値を把握しておく」くらいのものでいいんです。平均からズレていても、個人差かもしれませんし、本人が元気に過ごせているのであれば特に気にする必要はないんですから。