エルフ的な何かに変身 エルフ的な何かに変身
『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は、SFサスペンスドラマ『ウエストワールド』の魅力について語る。

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アメリカの放送局HBOで放送されたSFサスペンスドラマ『ウエストワールド』。マイケル・クライトン(『ジュラシック・パーク』の原作者)が監督した同名の映画(1973年)から着想を得たテレビシリーズで、2016~22年に全4シーズンが放送されました。

本来は5シーズンで完結する構想だったため、シリーズの後半~エンディングには賛否ありますが、振り返るとやっぱり好きな作品です。

粗筋は、ひとまずシンプル。舞台は近未来の地球のどこかにある、アメリカの西部開拓時代をイメージしたアトラクション「ウエストワールド」。パーク内では「ホスト」と呼ばれるアンドロイドたちが来場者(ゲスト)を接客します。

このホストたちは、人間と見分けがつかないほどリアル。発音も動き方も人間そっくりだけど、プログラムに従って動いているだけ。一方でゲストは、リアルすぎる世界でやりたい放題。カウボーイとして大冒険をしたり、ガンマンとして強盗劇を繰り広げたりと、なんでもアリ。

欲望のままに暴れるゲストは少なくなく、ホストにとっては殺人や性暴力は日常茶飯事。でも大丈夫! ホストたちは毎日記憶がリセットされ、次の日にはまっさらな状態で同じプログラムを再度始めるのです。

ある日、牧場主の娘役のホスト、ドロレスは自分の世界に疑問を持ち始めます。「自分の信じる現実がすべて嘘だったら!? 実は、自分は他人のエンターテインメントのために存在してたら!?」というSF版『トゥルーマン・ショー』的なホラーがたまりません。

同時に、ホストたちを調査するパークの管理部の視点、そして意識が芽生えたAIに反乱されるゲストの視点も描かれます。アンドロイド、ゲスト、スタッフの視点と、過去と現在が巧みに交錯し、次第にパークに隠された謎がひもとかれていくのがシーズン1。

このシーズン1がとにかく芸術的! ストーリー、仕掛け、演技(アンソニー・ホプキンスが初めてテレビシリーズに出演)、映像、音楽。最上級です。思い出すだけでゾクゾクします。

シーズン2には日本をイメージしたシーンがあり、突然の"欧米から見た日本"に戸惑う人もいるかもだけど......。シーズン3は方向性がガラリと変わって賛否が分かれますが、具体的な言及は控えます。

音楽が素晴らしいのも特長。担当したのは『ゲーム・オブ・スローンズ』やネットフリックス版『三体(さんたい)』でも知られるラミン・ジャヴァディ。

オープニング曲の不気味な美しさと独特の疾走感がたまらないし、西部劇とミニマル音楽の要素を絶妙に取り入れた劇伴も癖になります。レディオヘッドやサウンドガーデンのカバーのセンスも抜群。音楽だけでも聴く価値あり。

ちなみに、製作総指揮者のジョナサン・ノーランは『メメント』や『オッペンハイマー』のあのクリストファー・ノーラン監督の弟。ウエストワールドのキャストには、クリス・ヘムズワースの弟ルーク、アレクサンダー・スカルスガルドの弟グスタフもいたり、なぜか売れっ子お兄さんの弟が多い。余談ですが。

ちなみにちなみに、ノーラン氏はシーズン5の実現を諦めてません! 期待!

●市川紗椰
1987年2月14日生まれ。米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。『三体』のオープニング曲をヘビロテ中。公式Instagram【@sayaichikawa.official】

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