死なないけど、死ぬほどつらい肩こり。あまり深く考えたことはなかったけど、何が原因で起きて、何をすると悪化したり改善したりするの? 素朴な疑問をあらためて解説してもらいました!
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■肩こりは何が原因で起こる?
「この痛みは死なないけど、死ぬほどつらい」。肩こり持ちの人ならよくわかる言葉だろう。なんとなく乗り切っているけど、そもそも、なぜ肩こりは起こる? どうすれば良くなる? など深く考える機会は少ないはず。
そこで、肩こりについての素朴な疑問をあらためて解決してもらおう! 答えてくれたのは、千葉大学医学部付属病院頭頚部外科などを経て、現在は美容外科医院フローラクリニックの院長を務める秋間雄策先生。
Q.早速ですけど、梅雨の季節って肩こりがひどくなる気がするんですが?
「基本的には、肩の筋肉が直接的に梅雨の影響を受けるわけではないと思います。ただ、気圧の変化によって長い間、自律神経が影響を受けることにより、血流が悪くなって肩こりを引き起こす......ということは考えられます。
また、天候のせいであまり外出しなくなると、運動不足のせいで肩こりが出る場合もあります」
Q.運動が重要? では、肩こりの根本的な原因を教えてください。
「首肩回りには大きな筋肉がたくさんあります。首の後ろにある大きい僧帽筋や肩甲挙筋、菱形筋などの負担が大きくなり、筋肉が疲れてしまうことが肩こりの原因なんです。そうなると血流が悪くなり、筋肉が固まり、痛みが出てきたりする。要は筋肉疲労なので、ほぐしてあげる必要があります」
Q.その筋肉疲労の原因は?
「現代人はデスクワークやタイピングで前傾したような姿勢になることが多い。頭って実はかなり重たいんですが、日本人は首を支える筋肉が比較的弱く、負担がかかりやすいんです。
それなのに同じ姿勢を取って、運動もあまりしないでいると血流が悪くなり、こわばりができて肩がこってしまう。良くない姿勢を続けていると、肩の筋肉だけが発達し筋肉のボリュームが増え、無駄な力が入ってよけいにこる。デスクワークがかなり大きな要因だと思います」
Q.筋肉疲労と聞くと、肉体労働者のほうが肩こりになる人が多い?と思ってしまいますが。
「肉体労働って、肩だけでするわけではないですよね。全身を使っていれば、血流は良くなります。また、全身が鍛えられれば、肩や首の筋肉の負担は減ります。
あと、オフィスワーカーは肉体労働者に比べて同じ姿勢のままでいる人が多いと思うので、そうなると筋肉の血流が悪くなります。血流が悪くなるといろんなトラブルが起きやすくなるんです」
Q.ちなみに、肩こりになりやすい人など、個人差はありますか?
「骨格や筋肉のつき方という遺伝的要素はあるかもしれませんが、多くは普段の姿勢とか、筋トレやストレッチの有無に左右されると思います。
また、明確なデータがあるわけではありませんが、女性のほうが肩こりは多い印象があります。それは体を支える筋肉が男性に比べて弱いという体格の問題もありますね。
とはいえ、きゃしゃな人が絶対に肩こりになるかというとそうではない。一番は普段の姿勢の問題だと思います」
Q.肩がこりすぎて、目の奥まで痛いという話も聞きます。関連はあるのでしょうか?
「よく、肩こりの人は眼精疲労を起こしやすいというのですが、肩こりだから眼精疲労になるというよりは、眼精疲労になる人ってデスクワークでずっと同じ画面を見続けていたりしますよね。当然そういう人は眼精疲労になりやすいし、姿勢が良くない人も多いので、肩こりにもなりやすいというわけです」
Q.同じように、肩こりがひどい人は頭痛も起こり、吐き気まで催すと聞きますが。
「首の後ろの筋肉がこって固くなり、それに伴って頭痛が起きる緊張性頭痛というものでしょう。筋肉の過緊張によって痛みが出てくるものです。その頭痛によって吐き気が引き起こされているのだと思います。
また、ごくまれにですが、脳に病気が潜んでいて、頭痛や吐き気がして首のほうに痛みが出る場合があります。今まで経験したことがないほどの頭痛が急激に出た場合には、くも膜下出血など危険な疾患のサインのこともあるので、病院を受診しましょう」
Q.ちなみに、四十肩や五十肩って肩こりとは違うのでしょうか?
「肩こりとは全然違います。筋肉ではなく、関節の炎症です。肩関節の腱板が炎症を起こして、関節包まで広がったものです。炎症によって癒着が起き、肩が動かしづらくなるんです。
最初は動かしただけで痛くて、それがしばらくすると、痛みは減るけど可動域が狭くなる。1年ほどかかって、だんだんと動かせるようになっていきます」
Q.では、四十肩や五十肩の原因は?
「正確にはわかっていませんが、経年劣化による筋肉のこわばりや、炎症による影響が大きいといわれています。何十年も使い続けているわけですから。
よく、膝の寿命も40年くらいといわれています。関節は寿命があるので、いつかガタがくるんです。ただ、普段からきちんと肩のストレッチをしている人はなりにくいこともありますので、病院などで正しい肩のストレッチを習うことをオススメします」
■で、筋膜リリースってなんなの?
肩こりの基礎知識を学んだ上で、次は対処法を聞いていこう!
Q.肩こりを楽にするストレッチやマッサージなどがあれば教えてください。
「肩甲骨を動かすことはすごく大事。それぞれの肩に手を置いて、ぐるぐると回す動きはすごくいいと思います。毎日気づいたときに10秒くらいするといいでしょう。1日1回30秒するよりも、朝昼晩と10秒ずつを3回するほうがいいです。
あとは首すくめ。肩をギューッと上げて落とす。緊張と弛緩ですね。ほかにも首をゆっくり回したり、前後左右に動かすだけでも効果はあります。動かすというよりは伸ばすことを目的にやってみてください」
Q.湿布や磁気バン、電気治療などは効果がある?
「湿布薬は鎮痛作用、抗炎症作用のあるものが多いので、痛みがひどいときに使うといいでしょう。痛みそのものがストレスになるので、それを減らすのは大事です。
一方、磁気、鍼、電気および最近はやりの高周波パルス治療器などは、いずれも血流を良くしてこりをほぐすものです。
血管の内側にある内皮細胞に働きかける磁気、刺すことで体に刺激を与える鍼、電流を流して筋肉を弛緩・収縮させる電気および高周波パルス治療器と、それぞれアプローチは異なりますが、血流を促進する効果が見込めます」
Q.サプリや飲み薬は効果がある?
「こりに効くとうたわれるサプリには、ビタミンBが含まれることが多いです。ビタミンBは糖質を分解してエネルギーに変えるのを助けてくれる。そのエネルギーが神経や筋肉にいきわたるんです。
それが足りないと末梢神経障害を起こしたり、筋肉もこりやすくなる。筋肉が動かなくなるとポンプ機能が低下するので血流も悪くなります。
あと、飲み薬なら漢方薬にもオススメがあります。例えば葛根湯。筋肉の緊張をほぐす作用があるので効き目があるかと思います。私もケースによっては処方します」
Q.いろいろ試したけど、どうにも良くならない。そんな人のために何か治療法はありますか?
「肩ボトックスという注射があります。ボトックスには筋肉の動きを止める効果があるんです。
シワに打てばシワが消えるし、エラに打てば小顔になって食いしばりもなくなる。肩に打てば、肩のモリッとしたこりが小さくなるし、力が入ることが原因の肩こりも改善される。筋肉が動かなくなれば当然力がかかることもなくなるので、そうすると痛くなることもない。
ただ、動かしていくとだんだん筋肉はついてくるので、半年に1回、少ない人なら1年に1回の頻度で打つことが推奨されます。あと、保険適用外で自由診療になってしまうので、費用もかかってしまいます」
Q.最近、筋膜リリースとか肩甲骨はがしとかいう言葉をよく聞きますが、あれはどういう意味なんでしょう?
「炎症や運動不足が続くと、筋肉と筋膜(筋肉の外側を覆う薄い膜)がくっついちゃうんです。それで筋肉の動きが制限されてしまう。筋肉の動きが制限されると、当然ポンプ機能が落ちるので血流が悪くなる。すると肩こりが起きます。そうした癒着をはがすためにちゃんと筋膜を動かしましょうねというものです。
先ほどお伝えした、肩に手を置いてぐるぐる動かす動きも、肩甲骨をリリースする動きといえます。その癒着した筋膜をはがすことに主眼を置いた運動が筋膜リリースですね」
わかったのは、長時間同じ姿勢でいて、首肩回りを動かさないでいることは厳禁ということ。皆さんもこまめにストレッチを心がけましょう!