糖尿病、心筋梗塞、脳梗塞、がん、認知症......さまざまな病気を招く「血糖値スパイク」。普段の眠気、頭痛、だるさや疲れもそのせいかも 糖尿病、心筋梗塞、脳梗塞、がん、認知症......さまざまな病気を招く「血糖値スパイク」。普段の眠気、頭痛、だるさや疲れもそのせいかも
まだ6月だというのに早くも真夏の暑さが続く中、だるさを覚えたり、寝ても疲れが取れないという人もいるのでは? しかし、その倦怠(けんたい)感は暑さのせいではなく、実は「血糖値スパイク」が引き起こしているのかも! 健康診断でも見つかりにくい上に、放っておくとじわじわと体をむしばみ、さまざまな病気を引き起こすという実は恐ろしい血糖値スパイクについて徹底解説!

*  *  *

■糖のとげは重病の入り口?

糖尿病の診断基準のひとつとして知られる「血糖値」。中年に差しかかれば、血圧などとともに気になってくる数値だが、近年「血糖値スパイク」という言葉が注目されている。

「スパイクとは『とがったもの』を意味しますが、血糖値が極端に跳ね上がった後に、急激に下がる状態を『血糖値スパイク』と呼びます。食後は誰でも血糖値が上がりますが、正常な人であれば、血糖値の上昇・下降の波は穏やかです。しかし、血糖値スパイクの人は、食後血糖値が140㎎/dlを超え、さらに短時間で下降して食前の状態に戻ります」

こう話すのは、糖尿病治療を専門とする銀座泰江内科クリニック院長の泰江慎太郎医師だ。

血糖値とは血液中に含まれる糖(グルコース)の濃度のことで、食後血糖値とは、食事を終えた2時間後の血糖値。この数値が90~140㎎/dlなら正常。一方、血糖値スパイクの人は血糖値のピークが200㎎/dlを超えることも珍しくなく、2時間たっても140㎎/dlを下回らない。しかも、ピークが高いため、正常値に戻るときには、血糖値の波がとげのようにとがってしまうのだ。

血糖値スパイクは食後に多く表れる。食事前は正常値であっても、膵臓からのインスリン分泌や効き方に問題があるため、急激に上昇し下降するのが特徴 血糖値スパイクは食後に多く表れる。食事前は正常値であっても、膵臓からのインスリン分泌や効き方に問題があるため、急激に上昇し下降するのが特徴
「糖が体内に吸収されるとインスリンが膵臓(すいぞう)から分泌されます。これは血糖値を直接的に下げることができる唯一のホルモンです。インスリン分泌の量とタイミングが正常なら、血糖値の上昇幅も小さく、緩やかに下がります。だから、正常な方の血糖値の波はなだらかなのです。

しかし、血糖値スパイクの方は血糖値が最大になる頃に、ようやくインスリンが大量に分泌されます。そのズレがあるため、血糖値がガクッと急降下してしまうのです」

糖はまず小腸で吸収され、血液中に広がる。そして、インスリンが分泌され、肝臓や筋肉、脂肪で代謝される。そこで代謝しきれなかった過剰な糖は、血液中に残ってしまう。血糖値は常にインスリンなどのホルモンによりコントロールされており、血糖値が高いままだと糖尿病が疑われる。

体内の糖は肝臓や筋肉にためられ、エネルギーとして使用される。そのため、加齢によって肝臓の機能が衰えたり、筋肉量が低下すると、貯蔵や利用される糖の分量が減り、血糖値が上がりやすくなる 体内の糖は肝臓や筋肉にためられ、エネルギーとして使用される。そのため、加齢によって肝臓の機能が衰えたり、筋肉量が低下すると、貯蔵や利用される糖の分量が減り、血糖値が上がりやすくなる
でも、いったんは高くなるものの、正常値に戻るなら問題ないのでは?

「1回の食事の量が多かったり、頻繁に間食をすることなどが続くと、繰り返し大量にインスリンが分泌され、膵臓が疲弊し老化が早まります。膵臓が疲弊すれば、インスリン分泌が遅くなり、量も低下します。その悪循環に陥ると高血糖になります。

そして血糖値が上がると血管に酸化ストレスと炎症が慢性的に起き、動脈硬化を起こします。結果、血管はボロボロになり、心筋梗塞や脳梗塞のリスクが高まるのです」

血糖値スパイクのリスクは、血管への影響だけにとどまらない。インスリンが不足すれば、アルツハイマー型認知症の原因になるアミロイドβを蓄積しやすく、逆に過剰なインスリンはがんを引き起こす要因になるという。

「血糖値が高くなるだけではなく、急降下することで『低血糖』やそれに近い症状になります。すると、めまいや頭痛、尋常じゃない眠気、動けないような倦怠感などに襲われます」

空腹時血糖値の正常値は70~110㎎/dl(100~109㎎/dlは正常高値)とされている。しかし、人によっては血糖値スパイクの影響により食後2、3時間でこの数値を下回る。夕方のしんどさは、暑さや仕事のせいではなく、血糖値の可能性もあるのだ。

「ちなみにアルコールは血糖値を下げます。お酒を飲みすぎると起きやすいのが、『夜間低血糖』です。寝ている間に血糖値を調節するため、アドレナリンやグルカゴンなどの興奮ホルモンが分泌され、交感神経が優位になります。すると、深夜に目が覚めたり、起床時に疲れが取れないなどの症状が起きます」

夜間低血糖を防ぐため、寝る前に大量に糖質を摂取するのは、血糖値を乱高下させることになるので本末転倒。適度に炭水化物を食べながら、飲みすぎないことが大切だ。

■自覚もできず検査もすり抜ける!

さまざまな病気につながるだけでなく、日々の体調にも影響する血糖値スパイク。厄介なことに、自覚症状がほとんどない上に、通常の健康診断や人間ドックでは見つからないことが多いという。

「健康診断などでの血糖値の検査は食事を抜いて行なわれるのが一般的です。しかし、血糖値スパイクの人でも空腹時血糖値は、あくまで正常。血糖値スパイクかどうかは食後血糖値を測らないとわかりません。だから見落とされ、静かに進行してしまうんです。

ご自身が血糖値スパイクかもと疑う方は糖負荷検査を行なったほうがいいと思います。糖尿病診断で使われるもので、ブドウ糖を摂取して30分後、1時間後、2時間後に採血して血糖値を調べる検査です。40代以上の方にはオススメしています」

針のついた丸いセンサーを腕に装着し、最長14日間、血糖値(グルコース濃度)を測定する糖尿病管理機器。血糖値スパイクの検査に使われることも 針のついた丸いセンサーを腕に装着し、最長14日間、血糖値(グルコース濃度)を測定する糖尿病管理機器。血糖値スパイクの検査に使われることも
ほかにも血糖値スパイクか調べる方法があるそうだ。

「血糖値は食事だけでなく、ストレスや睡眠不足、遺伝などさまざまな要因で変化します。また、血糖値が上がりやすい食べ物が人によって違うなど、個人差が大きい。なので、より精密に知るためには一定期間のリアルタイムの数値と行動を照らし合わせることが大事。糖尿病の血糖値管理に使う機器を利用して、血糖値を長期間モニタリングする検査も医療機関によっては行なっています」

健康診断の血糖値が正常でも、安心するのは早い。血糖値スパイクが日常的に起きていれば、いずれはその数値も異常値になる。ただし、血糖値スパイクであることを早めに自覚していれば、打てる手立てはまだある。

脂肪が多いとインスリンが効きにくくなるため、健康的な食事は重要。また睡眠不足やストレスなどで血糖値の調整機能に狂いが生じ、血糖値スパイクが起きる 脂肪が多いとインスリンが効きにくくなるため、健康的な食事は重要。また睡眠不足やストレスなどで血糖値の調整機能に狂いが生じ、血糖値スパイクが起きる
■食事の前後で血糖値の急上昇を予防!

"生活習慣病の前触れ"ともいえる血糖値スパイク。疑い、もしくは心当たりのある人は何をすべきなのか。さまざまな原因があるとはいえ、大きな要因は食事だ。ただ、「いきなり健康的な食事を」と言われても、正直面倒。それができていれば血糖値スパイクになっていないはずだ。

「一般的にいわれているのは『ベジファースト』、つまり食事の際に野菜を先に食べることです。糖が野菜に含まれる食物繊維と一緒になることで、吸収に時間がかかり、血糖値の急上昇を防ぐことがわかっています。

しかし、それを証明する多くの研究では、野菜の摂取から15分後に糖質を摂取しているんです。つまり、米などを食べるまでに15分の時間がある。その状況を再現できますか? 牛丼にサラダをつけたとしても、すぐお米を食べますよね?」

夕食ならともかく、時間のない朝や昼休みに、サラダを食べて15分待つほど暇ではない。そこで「ベジファーストの効果を100%発揮するのは現実的ではない」という泰江院長が勧めるのは、「カーボラスト」だ。

「カーボとは炭水化物のこと。つまり、ご飯を最後に食べる食事法です。実は、食物繊維と同じように、タンパク質と脂質も、先に食べることで、糖の吸収を遅らせることがわかっています。

そしてタンパク質は『GLP-1』も分泌させます。このホルモンはインスリン分泌を促すので、血糖値の抑制に貢献します。さらにGLP-1は満腹感を得たり、食欲抑制の働きもあるので一石二鳥。つまり野菜だけでなく、おかずを先に食べることで、糖が吸収される時間を延ばし、血糖値の最大値も抑えられるのです」

関西電力医学研究所・清野裕所長、矢部大介副所長らの研究資料を基に作成。この実験でも肉と魚は米飯を食べる15分前に摂取。野菜だけでなく、肉や魚でも先に食べることで、血糖値上昇の抑制に効果があるとわかる 関西電力医学研究所・清野裕所長、矢部大介副所長らの研究資料を基に作成。この実験でも肉と魚は米飯を食べる15分前に摂取。野菜だけでなく、肉や魚でも先に食べることで、血糖値上昇の抑制に効果があるとわかる
外で昼食を取ることが多い人は、会社を出る前にタンパク質や脂質を多く含むものを食べるといいという。

「例えばタンパク質が豊富なチーズや豆乳などを、食事に行く前に会社で食べておくことで、炭水化物を摂取するまでの猶予を長くできます。一番のオススメはサバの味噌煮缶です。サバはタンパク質が多いだけでなく、DHAなどの栄養素も豊富。発酵食品である味噌には血糖値を下げる効果があります」

ちなみに噛むこと、つまり咀嚼(そしゃく)自体にインスリンを分泌させる作用があるという研究報告もある。食事前に炭水化物以外のものを少しでも食べれば、血糖値上昇の抑制につながる可能性もあるようだ。

食事の前に食べると血糖値上昇の抑制が見込める食品。泰江医師が勧めるチーズや豆乳のほか、ジャーキーやあたりめも高タンパク食品。ナッツ類は良質な脂質と食物繊維が豊富。またチョコレートの原材料であるカカオ、それからコーヒーには、それぞれポリフェノールが含まれ、血糖値上昇を防ぐ 食事の前に食べると血糖値上昇の抑制が見込める食品。泰江医師が勧めるチーズや豆乳のほか、ジャーキーやあたりめも高タンパク食品。ナッツ類は良質な脂質と食物繊維が豊富。またチョコレートの原材料であるカカオ、それからコーヒーには、それぞれポリフェノールが含まれ、血糖値上昇を防ぐ
さらに、食事の後にも血糖値スパイクを防ぐ方法はあると泰江院長は話す。

「食後すぐに運動することです。運動といっても歩く、階段を上る、それくらいでいい。10回程度、ゆっくりスクワットするなんて最高です。大事なのは、食事から間を空けないことと座らないことの2点。食後に喫茶店で休んだり、ゴロゴロするのはNGです。ましてや仕事をしながら食事をして、そのまま仕事を続けるのは最悪です。医者もやりがちですが(苦笑)。

血糖値は食べ始めて10~15分で上がります。食後30分もたてば、人によってはピークを過ぎてしまい、間に合いません。血糖値が上がりきる前に筋肉を動かすことが大切です。筋肉に貯蔵された糖を消費することで、再び筋肉が血液中の糖を取り込んで、血糖値を下げるというわけです。1、2回やったところですぐには変わりませんが、続けることで効果が出ます」

会社に戻るときに、遠回りしたり、少し遠いコンビニに立ち寄るだけでも十分だ。家にいるなら、洗い物などの家事をするのもいい。

「本来は、やや速めに歩くウオーキングなど軽中度の運動を日常的に取り入れるのが理想です。筋肉を動かしておくことで、持続的な効果があり、日頃の血糖値も下がりますから。

ですが、まずは食事の直後に少しでも動くことから始めてください。カーボラストもそうですが、こうした習慣を早めに取り入れることが大事です。現在40代の方が60歳まで血糖値スパイクを防いだり、血糖値を低く保つことで、『レガシーエフェクト』(遺産効果)が効いてきます。今、ライフスタイルを変えることで、将来もし糖尿病になっても、合併症リスクや死亡リスクが低下するのです」

自覚症状のないうちに、ずるずると大病へと引き込む血糖値スパイク。もし今、夏バテかなと感じたら、気をつけてほしい。