植村祐介うえむら・ゆうすけ
ライター&プランナー。専門誌編集部勤務ののち独立。ニュース&エンタメ系、インタビュー記事執筆のほか、主にIT&通信分野でのB2Bウェブサイトの企画立案、制作、原稿執筆を手がける。
「円が安すぎて、海外に行けない!」。そんな悲鳴が聞こえてきそうな今年の夏。しかし、この広い地球上には、まだ相対的に円の高い国があるという......。東南アジアから中東、そして南米まで! 今でもまだリーズナブルに旅行を楽しめる国を、航空・旅行アナリストの鳥海高太朗(とりうみ・こうたろう)氏に聞いてきた!
※本記事における為替レートの 「コロナ禍前」は2020年2月末、 「現在」は2024年7月1日時点のもの。
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今年も間もなく夏休みの季節! 海外旅行を楽しみにしている人には絶好のチャンスだ。しかし、記録的な「円安」が、そんな人々の心を砕いている。
コロナ禍が始まった2020年から21年にかけて、1ドル=100円台半ばから110円程度で安定していた為替相場。しかし、22年春から円安傾向となり、今年のGW前半には1ドル=160円台まで円が下落。その後、やや持ち直したものの、7月初頭現在では160円前後で推移している。
単純計算では、コロナ禍前に比べ、ドルに対して円の価値は7割程度まで下落したことになる!
しかも、コロナ禍明けの旅行需要の増大で航空運賃は高止まり、さらにウクライナ情勢に端を発する原油高で燃油サーチャージも高騰したまま。海外旅行をしたい日本在住者にとっては、完全な「三重苦」状態。
旅行の計画を立てようにも、航空運賃、現地のホテル代、さらに食事代などを考えただけで予算オーバーとなってしまう現状に頭を抱えている人も多いのではないだろうか。
「でも、広い世界には円安を気にせずに旅行を楽しめる国もあるんですよ!」
そう語るのは、航空・旅行アナリストの鳥海高太朗氏。
「確かに円はドルやユーロに対して一方的に安くなっています。しかし、実は日本と同じく、それらの通貨に対して安くなっている国はいくつもあります。中には日本の円以上の通貨安に見舞われている国も! そんな国に行けば、相対的に『円高』になり、リッチな旅行を満喫できるんです」
なんと! これはうれしい話だ! それでは、どんな国が「円高国旅行」にオススメなのか。見どころと共に、鳥海氏に解説してもらおう!
<エジプト>
1エジプトポンド=6.91円
(コロナ禍前)⇒3.35円(現在)
円高度:206%
「エジプトはピラミッド、スフィンクスなど、あらためて語る必要もないほどの観光国です。ギザの3大ピラミッドは、大きさに圧倒されるだけでなく、内部の見学では数千年の歴史が生み出す神秘的な雰囲気が味わえます。一生に一度は訪ねるべき場所だと思います。
ただ観光のもうひとつの柱である『エジプト考古学博物館』は老朽化のため、ギザに新たに建設される『大エジプト博物館』に収蔵品をいくつか移しています。大エジプト博物館はコロナ禍の影響もあり、いまだ完成に至っていませんが、開館は24年半ばとアナウンスされているので、期待したいですね。
なお、リゾートとは縁が薄そうに思えるエジプトですが、紅海沿岸にはリゾートエリアが広がります。特にオススメは『シャルム・エル・シェイク』。美しいサンゴ礁と砂漠のコントラストが見事です。
アクセスはドーハなど中東経由、もしくはトルコ経由が一般的です。航空運賃を極力抑えたいなら、中国国内での乗り換えとなりますが中国系エアラインが割安で、10万円台前半も狙えますよ」
<アルゼンチン>
1アルゼンチンペソ=0.87円
(コロナ禍前)⇒0.18円(現在)
円高度:483%
「『タンゴの街』としても知られる首都ブエノスアイレスの夜はとても刺激的です。現地産の赤ワインは質の高さに比べ、価格は非常に安価。グルメとお酒を楽しみたい人にはうってつけの旅行先です。
またその一方で、日本でかつて走っていた中古車両が現役で活躍する地下鉄など、〝鉄オタ〟的な楽しみもポイント。
さらに一歩街を出れば、南米の大自然が広がります。
最大の見どころは、世界最大級の流量を誇る世界遺産『イグアスの滝』。ここはブラジルとの国境でもあるので、そのまま国境を越えブラジルに抜けることも可能です。
なお国内経済は前年比で300%近い記録的なインフレとなっているため、円高をそのままの数字で享受できるわけではありませんが、それでもホテルの価格は大都市でありながら比較的安価です。
ただ地球の裏側までの旅になるため、飛行機での移動には時間・費用とも、相応の覚悟が必要です。アメリカ経由はESTA(電子渡航認証システム)による渡航認証が必要になるので、欧州や中東経由のほうがストレスがないでしょう」
<インドネシア>
1インドネシアルピア=0.0077円
(コロナ禍前)⇒0.0099円(現在)
円高度:77%
「必ずしも円高にはなっていないインドネシアですが、現地までの航空運賃が比較的安いこと、高級ホテルの宿泊費を含めた現地での物価が低廉であることを考え、取り上げました。
狙い目はバリ島のリゾート、特に高級ヴィラです。プーケット島やサムイ島など、タイのリゾートアイランドは宿泊費が高騰していますが、バリ島はそれらに比べまだまだ安く、1泊2万円程度、広いコテージを借りても4万~5万円でなんとかなります。
滞在場所もビーチ沿いから海が見える高台まで選び放題、しかも古くから日本人が多く訪れているリゾートだけに、日本人向けのサービスも充実、さらには『星のや』など、国内資本のホテルも進出しています。
滞在のスタイルは、アクティビティを詰め込むよりも、『プール付きのヴィラでのんびり過ごす』のがオススメです。
現地までの飛行機は、スクート、ベトジェットエアなど、LCCが充実。またマレーシア航空も、FSCながら運賃が格安で狙い目です」
<ラオス>
1キープ=0.012円
(コロナ禍前)⇒0.0073円(現在)
円高度:164%
「東南アジア各国の経済成長が進み、各地の『バックパッカーの街』は物価の高騰、さらには再開発による安宿の消滅など、お金をかけない滞在が難しくなってしまった今、物価の安いラオスはバックパッカーたちが集まる新たな〝沈没地〟として注目を集めています。
首都ビエンチャンは『世界一何もない首都』といわれてきた小さな街ですが、それだけに独特の〝ゆるさ〟があり、歩いて回れるコンパクトな街並みが魅力です。
そして、コロナ禍を経て、通貨キープは大きく下落しました。その分、輸入品を中心にインフレは進んでいますが、それでも滞在費はかなり安く抑えることが可能で、長期滞在にもオススメです。
アクセスはLCCを組み合わせ、ベトナム・ホーチミン乗り換えや韓国・仁川経由が安価で、5万円台も狙えます。またバンコクからバックパッカー御用達の国際バスを使い、陸路でも入国できます。また、この夏にはバンコクとビエンチャンを結ぶ国際列車の運行開始も予定されています」
<トルコ>
1トルコリラ=17.25円
(コロナ禍前)⇒4.93円(現在)
円高度:349%
「現在、円高を最大限に享受できる国、それがトルコです。トルコリラはコロナ禍を経て〝暴落〟に近い状態です。一方でインフレも進んでいますが、もともとの物価が安かったこともあり、円の強さを特に実感できる希少な国になっています。
過ごし方としては、トルコならではの体験をするのがオススメですね。有名なカッパドキアの『洞窟ホテル』は安いところなら1泊1万円前後、高くても2万~3万円で泊まれます。
そして、観光の目玉は『世界遺産』でしょう。古都イスタンブールの歴史地域をはじめ、見どころ満載です。カッパドキアでは人気の『気球ツアー』を楽しんでみてはいかがでしょうか。
アクセスはターキッシュエアラインズが直行で便利ですが、中東系、中国系の航空会社なら乗り継ぎで10万円台前半の安いチケットが探せます。またターキッシュエアラインズでは、イスタンブールへの往復よりも、イスタンブール経由で第三国を往復する航空券のほうが安いこともあるので、例えば先に挙げたエジプトと、もしくはヨーロッパに2泊ほどした後、イスタンブールに戻り長く楽しむといったバリエーションも考えられます」
では、「円高国旅行」を楽しむ上での注意点はあるのだろうか?
「航空券、燃油サーチャージが高いのは世界の趨勢ですから、ある程度は諦めるしかないでしょう。
その上で節約するには、LCCを使い費用を抑えるのが王道です。ほかにも、中国系の各社のほか、マレーシア航空、ターキッシュエアラインズのように、FSCでも運賃の安いところはあります。
航空券を探すときには、マレーシア航空のハブであるクアラルンプール経由、ターキッシュエアラインズのハブであるイスタンブール経由は航空券が安くなりやすいので、忘れずにチェックしましょう。
また、円高を満喫できる旅のスタイルは、基本的に滞在型でしょう。特に4つ星、5つ星の国際ブランドのホテルの場合、今回取り上げた各都市に立地するものは、欧米の主要都市の同一ブランドのホテルに比べ数分の一の宿泊費になる場合もあります。円安となる欧米では難しい〝優雅なホテルライフ〟を楽しんでみてはいかがでしょうか」
円安で海外旅行が楽しめないとお嘆きのあなた、目的地を「行きたい国」から「円高の国」に変えてみてはどうだろうか。円安時ならではの新たな国との出会いが、あなたを待っている!
ライター&プランナー。専門誌編集部勤務ののち独立。ニュース&エンタメ系、インタビュー記事執筆のほか、主にIT&通信分野でのB2Bウェブサイトの企画立案、制作、原稿執筆を手がける。