毎年のように猛暑といわれる昨今、猛暑対策グッズも戦国時代。その中から何を選ぶべきか? 一番確実なのは、過去の"成功体験"に学ぶことだ! というわけで、昨夏バカ売れした商品、品薄になった商品を中心に、実績十分の品々を紹介しよう。
■まずはワークマンとロフトで聞いてみた
まず訪れたのは、灼熱(しゃくねつ)地獄となる建設現場の作業員たちに支持されるワークマンの都内店舗。スタッフによると、よく売れるのはやはり、腹部の両サイドに小型扇風機を搭載した「空調服」だという。
「この1、2年でスポーティなデザインのウエアも数多く登場し、作業員以上に一般の方が購入されます」
さらに、昨夏は冷感仕様のボクサーパンツ「アイスチャージ」(780円)が人気に。冷感性のある鉱石(ヒスイ)をパウダー状にして下着の糸に練り込み、「一度はいたら離れられなくなる、ひんやりと気持ちいい肌触り」が支持されるポイント。股下の蒸れを防ぐ速乾性の高さも現場作業員に重宝される理由だとか。
続いて訪れたのは、渋谷ロフト。店に入ると目の前に日傘が多数並ぶ傘売り場が。
「最近の日傘は強い日差しにも急な雨にも対応できる晴雨兼用の商品がトレンドで、昨夏も売り上げが大きく伸びました」(ロフト広報室)
今年はスマートフォンより軽い約85gという最軽量級の「マジカルテックプロテクション」(ムーンバット、店頭価格4400円/50㎝ ブラック)の売り上げが急伸。4月中旬から2ヵ月でシリーズ累計1万700本販売のヒット商品に。
店内で目立っていたのは、着ているシャツにシュッとかければ"秒"で涼感が得られる速効性が支持され、ここ1、2年で一気に浸透した衣類用冷却スプレー。ロフトでも特に販売数が多いのが、香りなどが異なる6商品を展開する「ひんやりシャツシャワー」(ときわ商会、店頭価格1375円~)シリーズだ。
「気化熱とメントールの作用でひんやり感が30分~1時間程度持続し、汗臭さや加齢臭などを抑える消臭効果を持つ」点が特徴で、発売14年目のロングセラー商品だが、「災害級の暑さ」「殺人猛暑」などと報じられるようになったこの数年で販売数が急伸。昨年は店舗によっては、ひとり3本までの本数制限をかけざるをえないほどの売れ行きだったという。
そして今年はそれを大幅に上回る勢い。4月中旬からの2ヵ月間で、前年同期の2倍近い1万7500本を販売。記者も試しに、シリーズ一番人気という「ストロング レベルMAX」をシャツに噴射すると、体感的には3秒でひんやり。というか、寒い......!
「記者さん、スプレーは1、2回で十分な冷涼感を感じていただけますので、噴霧しすぎです」
同シリーズは、運動部所属の中高生の保護者に重宝されているという。
■熱中症予防に新たなトレンド?
同じメントール系グッズで昨夏、爆売れした「超大判クールタオル」(iiもの本舗、20枚入り 実勢価格658円)は、商品名のとおり一枚で全身を拭ける厚手大型シート(60㎝×40㎝)。
メジャーな競合品にはビオレ(花王)やギャツビー(マンダム)の汗拭きシートがあるが、「『猛暑日は一度に4枚も5枚も使う。もっと大きいサイズはないの?』とのお声を多数いただき」(iiもの本舗営業企画部・片岡信明氏)、大判シートを2022年春に販売開始した。
1年目は一部店舗で販売、2年目は全国の地域密着型の小売チェーンに販路を広げて前年比300%増。3年目の今年はホームセンター、ドラッグストアなど大手量販チェーンの商品棚にも置かれるようになり、目下、「昨年をはるかに超えるペースで売り上げが急伸している」とのこと。
人気の秘密は大判サイズに加え、上限マックスで配合させた涼感成分のメントール。
「メントールが苦手な方から『肌がヒリヒリする』といったお声が届くことも一部ありましたが、この暑さなんで、涼感重視で振り切りました」
デカくて冷涼感が強いこの商品は、業務用としての出荷がとりわけ伸びているという。
「特に運送・宅配業者さまは梱包用の段ボールに汗染みをつける、汗だくで接客をする、といったことがご法度だそうで、重宝されています。『もっと大きく、もっと大量に』との業者さまのお声に応え、今年はより大型化した『超ロング クールタオル』(16㎝×1m、60枚入り2178円)をバケツタイプとして売り出しましたが、発売直後から引き合いは強まっています」
頸動脈を冷やすという熱中症対策の常識を世に広めたアイテムが「PCM冷却ネックリング」。NASAが開発した"室温(24~28℃)で凍る特殊素材"を活用した首輪タイプの冷感グッズで、国内では子供服・雑貨卸のF・О・インターナショナル(兵庫県神戸市)がいち早く「アイスリング」(子供用 メーカー希望小売価格2970円~)の名称で21年6月に発売を開始した。
同社の広報担当者によれば、「28℃以下で自然凍結するほか、冷水に浸せば15分程度で凍結します。冷却効果は炎天下でも60分以上持続し、溶ければまた凍らせて繰り返し半永久的に使用できる点が支持されたポイント」。
キッズ用、ママ用として売り出した1年目には「お母さま方の間でSNSを通じて評判が広がり」、4万本を完売。2年目にはさらにバズって販売数66万本! 他社も追随して類似品が多数店頭に並ぶまでに至り、PCM冷却ネックリングは日経トレンディ「22年ヒット商品ベスト30」で3位にランクインした。
一方、新しい熱中症対策として注目され始めているのが"手のひら冷却"。新潟県・魚沼基幹病院地域救命救急センター長の山口征吾氏が言う。
「手のひらには動脈と静脈をつないで体温調節を担う『AVA血管』があり、ここを冷やすほうが全身を効率よく冷やすことにつながるとする研究論文が数年前に発表されて以来、アスリートの世界では"手のひら冷却"が広がり始めています」
その効果に着目し、松浦工業(大阪市)が開発・製造したのが手のひらサイズの保冷剤「アイスバッテリー」(定価2500円~)。開発を主導した井戸英二氏は同社の前取締役で、半導体メーカー・インテルの元社員でもある。
「インテル時代の元同僚が開発した"温度を記憶できる保冷剤"の技術を応用し、手のひら冷却に最適とされる15℃を2時間キープできる『アイスバッテリー』を製品化しました」
「これまでドラッグストアなどの量販店への出荷を控えていましたが、22年頃から高校や大学の野球・ラグビー部など、強豪チームの間で口コミで広がり始めています」
さらに、プロ野球・福岡ソフトバンクホークスがオフィシャルグッズとして採用し、主にファンの子供向けに販売を開始している。首に続き、手のひら冷却がブーム前夜!?
■年間200万食完売、摩訶不思議な冷凍食品
続いてはコンビニの売れ筋。都内の大手コンビニチェーン店オーナーがこう明かす。
「まず、最高気温が25℃を超えるようになるとミルク成分が多いアイスクリームが売れます。そして、30℃を超えると売れ筋はシャーベットやかき氷などの氷菓にシフト。35℃を超えてくると氷菓より飲料、あるいはロックアイスの売り上げが伸びます。
氷菓の一番の売れ筋は1日100本近く売れる『ガリガリ君』。また、ロックアイスはコンビニの中で突出して粗利率が高い。この2品は欠品が大きなロスにつながります」
「ガリガリ君」はヘアケア市場でも存在感を発揮。同商品を製造する赤城乳業とライセンス契約を結ぶ菊星(東京都台東区)が21年1月、「ガリガリ君 クールシャンプー」(200ml メーカー希望小売価格1300円~)を理美容室向けに業務用として発売すると、一般の消費者もネット通販で続々と購入。
「例年、夏季限定商品として4月に販売を開始するのですが、夏の本格シーズンを前に早期完売となるのが通例で、今年もすでに品切れに近い状況です」(菊星広報担当)
スーパーで夏場に売り上げが伸びる商品が、ニチレイフーズが22年3月に発売した「冷やし中華」(オープン価格)。毎年3月に数量限定で販売開始され、品切れとなり次第終売となる商品で、22年には計200万食を完売した。冷凍食品でありながら、電子レンジで3分ほど温めるとしっかり冷えた「冷やし中華」が出来上がるのは摩訶(まか)不思議。
「容器の中に麺と具材とタレがあり、麺の上には氷が十数個のっています。氷はマイクロ波の影響を受けにくいという特性に着目し、レンジで温めても冷たく仕上がる独自技術を開発した点と、"凍りにくいタレ"に特徴があります。
調理する際はタレのみを取り出し、ラップをかけずに容器ごとレンジで温めると、麺と具材は解凍されますが、氷はほぼそのままの状態で残る。そこにタレをかけて麺と氷をかき混ぜると、程よく冷えた冷やし中華が完成します」(ニチレイフーズ広報部)
百聞は"一食"にしかず。例年7月末頃には終売するというから、一度味わってみたい人は急げ!
■品切れが続く「夏の護身グッズ」
続いてはカー用品。A PIT オートバックス東雲(しののめ)店(東京都江東区)のスタッフ、浮田義之氏がこう話す。
「駐車時に長時間、真夏の日差しにさらされれば車内はサウナ状態、ダッシュボードは触ればやけどするほど高温になります。その対策として、昨夏は直射日光を遮るサンシェードが数多く売れました」
特に「感触的には一番売れた」というのが、複数メーカーから発売されている折り畳み傘タイプのフロントガラス用サンシェード(店頭価格1500~3000円程度)。
「パッと開くだけで簡単に設置できる上、柄の部分が自在に曲がるので、車種ごとに異なるダッシュボードの形状に合わせて確実に固定できる点が人気を集めました」
また、「断熱ハンドルカバー」(クレトム、店頭価格1280円)も昨夏に続き、今年も販売数を伸ばしている。
最後に、夏に売り上げのピークを迎えることがあまり知られていない意外なジャンルの商品を2点紹介しておこう。
まずは、クマ撃退スプレーの定番商品である米国製の「カウンターアソールト」(アウトバック、1万9360円~)。唐辛子の辛み成分であるカプサイシンを9.6~12mほど噴射し、十分な距離を保ったままクマの襲撃を抑えることができる護身グッズとしてアウトドア業界では支持が厚い商品だが、「現時点で完売。7月中に再入荷する予定ですが、その分も予約で完売」(アウトバック・藤村正樹社長)というのが実情だ。
「昨年はクマの出没が増え、人身事故の件数は環境省の統計開始以来最悪でした。また、猛暑になればなるほど、山中でドングリなどが不作となり、エサを求めてクマが人里や街中に降りてくる傾向が強まる。
昨年の教訓と、今夏も猛暑が予想されていることから、クマ撃退スプレーは自治体や猟友会、林業従事者などからの引き合いが強まり、品薄になっています」
もうひとつは、ラッパのマークでおなじみの胃腸薬「正露丸」。製造元の大幸薬品によると、気温が高まるほど売り上げが上昇し、直近10年の実績でもピークは例年、8月なのだという。
「熱中症予防で水分補給が過剰になる、あるいは日常的に冷たい飲み物や食べ物を取りすぎるといった夏ならではの生活習慣から、おなかを下し、薬をお求めになられる方が増えると考えられます」(大幸薬品広報担当)
これら実績十分の「ベストバイ」を参考に、最強猛暑襲来に備えよう!