飲んだシメにラーメンという文化は衰退? 飲んだシメにラーメンという文化は衰退?

こってりラーメンでおなじみ、天下一品が東京・歌舞伎町店や恵比寿店など繁華街の店舗を続々閉店。これは、飲んだシメにラーメンという文化の衰退が一因? アンケートやラーメン店主の声から実情を探ってみた!

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■最近、シメのラーメン食べました?

こってりラーメンが有名なチェーン、天下一品の東京の繁華街の店舗が続々と閉店(歌舞伎町店、恵比寿店、池袋東口店など)。天下一品の広報担当者によると......。

「各店舗の閉店に関する取材についてはすべてお断りさせていただいております。あしからずご了承ください」

6月30日に閉店した天下一品歌舞伎町店。営業最終日には行列ができるほどだったが、惜しまれながら閉店。こってりしたラーメンは深夜に食べるには重い、との声も 6月30日に閉店した天下一品歌舞伎町店。営業最終日には行列ができるほどだったが、惜しまれながら閉店。こってりしたラーメンは深夜に食べるには重い、との声も

とのことで、はっきりとした閉店理由は不明なのだが、繁華街で飲んだ後にシメのラーメンを食べるという文化が減ってきているのでは?という疑問が浮上。

というわけで、20代から50代の会社員男性400人にアンケートで「この3ヵ月以内に、飲んだ後、外でシメのラーメンを食べたことがあるか?」を聞いてみたところ、50代はさすがに健康に気を使ってか10%台と少なかったが、各世代の平均で24%という数字が出た。これを多いと見るか、少ないと見るか......。アンケートではこんな声が。

「コロナが明けてからも朝まで飲むことがなくなったので、シメにラーメンを食べたくなることがなくなった。行っても2軒目までで、終電で解散になる」(38歳・広告)

このコメントを分析してくれたのは、ラーメンライターでミュージシャンの井手隊長。

「コロナを経てシメのラーメン文化は完全に変わりました。繁華街の店舗は家賃も高いので、とにかく営業時間を長くして客数を稼ぐというのが勝ちパターンだった。しかし、コロナによる短縮営業で夜遅くまでの営業ができなくなりました。

もちろんそうした店に協力金は出ていましたが、それでも薄利多売でやっていた小さな個人店はどこも厳しく、コロナで撤退してしまったところが多々あります。

結果として、最近は深夜にシメのラーメンを食べられるような店自体が減ってしまったので、食べたくても食べられない状況になっているというのが衰退している要因かもしれません。今でも深夜にやっているラーメン店は貴重なので、行列ができる店舗もあるようです」

繁華街でも深夜営業しているラーメン店は少なくなってきた。なので、行列もちらほら見られる 繁華街でも深夜営業しているラーメン店は少なくなってきた。なので、行列もちらほら見られる

コロナを経て、深夜営業をしている店舗が減ってしまったことは大きいようだ。苦しいラーメン業界の中で業績好調な、関東を中心に展開する中華チェーンの日高屋はコロナ後も営業時間を短縮したままの店舗を置いた。広報担当者が語る。

「生産性の向上と顧客ニーズの変化によって、深夜営業をしなくても、コロナ前以上の売り上げを取れています。意図した営業時間短縮ではございませんでしたが、結果的にいい業績につながったのではないかと考えます」

やはり顧客であるわれわれの意識はコロナを経て大きく変わったようだ。

業績が好調な日高屋。安価であっさりした中華そばやタンメンが人気 業績が好調な日高屋。安価であっさりした中華そばやタンメンが人気

■ラーメン店も試行錯誤中!

続いて挙げられる要因として井手隊長はこう語る。

「深夜は働き手が集まらず大変という側面もあります。深夜は人件費も高騰するし、それだったらもう昼から夕方くらいの時間にちゃんと儲けが出るように作戦を組み直すほうがメリットのある場合もあります」

労働力不足も大きな要因。東京・御茶ノ水にある新潟発祥なおじ御茶ノ水店の小田原伸治氏はこう語る。

「昨今、学生さんが夜や深夜にバイトをすることが多いのは飲食店という常識がなくなってきました。だから、こちらとしてもなるべく作業を難しくないようにするとか、わかりやすく簡単にできるよう心がけています。時給以上の働きが出てしまうようなことがないように考えていますね。

だからうちのアルバイトは定着率が高いです。十二分に人がいるわけではありませんが、長くいてくれればスキルはアップしますし、その分お客さんに還元できると考えています」

ラーメン店の悩みの種は働き手の確保。いろんな策が練られている ラーメン店の悩みの種は働き手の確保。いろんな策が練られている

こうした深夜の働き手不足に苦しむ中、金曜日と土曜日だけ深夜営業をしているのが、東京・中野に店を構える箕輪家。店主の丸山紘平氏がこう語る。

「人材不足の中、週末だけ深夜営業をやっているのは、もちろん深夜にラーメンを食べたいと思うお客さんのためもあるけれど、何よりうちはまだオープンして2年なんで、まだまだ売り上げをつくりたい。昼と深夜じゃ客層が全然違うわけです。

深夜に来たお客さんが『おいしい』と思ってくれたら、昼にも来てくれるじゃないですか。ファン獲得の意味合いが大きいです。やはりお客さんからは、『深夜も営業しててありがたい』と言ってもらえますね。営業終わりの同業の飲食関係者とかもけっこう来てくれます。

あと、ちょっと話はそれますが、今はやっていないのですが、意外と深夜帯のデリバリーがすごかったです。深夜でも10~15件ほどの注文が入っていました。しかも300gのラーメンにご飯大みたいな。『本当に食えるの?』と思っていましたが(笑)。

また、うちは逆に朝ラーメンを始めました。土日は朝6時からやっています。仕事に行く前のお客さんや朝まで飲んだ後の最後のシメに食べに来る感じですね。

朝ラーは肉だしスープでサッパリした味わいのラーメンを提供しています。原価を抑えられるので価格も安くできています。需要はかなりある印象で、何が刺さるかわからないですね」

ラーメン店も試行錯誤を続けているようだ。さらにアンケートにはこんな声が。

「最近のラーメンは高く、飲み会の後に食べるという感じではない。トッピングなどをつけると1500円を超えたりするので、ガッツリいきたいときのランチに食べている」(35歳・メーカー)

井手隊長がこのコメントを踏まえて語ってくれた。

「一般的によくいわれる、ラーメンの価格1000円の壁問題ですね。もともとラーメン店は薄利多売ですが、原材料や光熱費の高騰で、利が薄くなりすぎてるんです。激薄利多売という感じ。すごく人気があっても儲かっていないという店は多い。

結果、賃料の高い繁華街にはチェーン店しか残らなくなり、深夜にやっている店も限られてしまうという話につながります」

冒頭の天下一品のお膝元、関西の繁華街で大阪・梅田のひがし通り商店街近くに店舗を構える酒店、伊吹屋の小牟礼隆之店長からはこんな面白い話も。

「シメラーメン文化から、今取って代わろうとしているのがシメアイス。勢いがすごいんです。週末の夜は終電が終わった後でも営業。完全に一杯飲んだ後の客をターゲットにして成功しています」

というわけで、梅田で深夜1時まで営業しているというアイス店の店員に話を聞いてみた。

「終電間際になるとグループで飲んでいたお客さんが来られるので行列ができます。今日もさっきまで行列ができていました。この店は2022年の12月オープンなんですが、同じような夜アイスの店はあちこちにできて、どこも人気ですね。男性も女性も来られてますよ」

とのこと。シメに違うものを食べるという文化も広まってきているようだ。最後に、井手隊長が今後のシメラーメン文化についての展望を語ってくれた。

「深夜営業のラーメン店がどんどん減っている。1500円のラーメンをシメに食べるかどうか。違う食べ物でもシメられる。などなど問題はあると思いますが、お酒を飲んだ後にしょっぱいものが食べたいという需要は変わらずあると思います。

なので、今後は家でシメのカップラーメンを食べる機会が増えるのではないかと思います。〝シメ〟をうたったカップラーメンが出てくるかもしれませんね」