ある日、あるとき、ある場所で食べた食事が、その日の気分や体調にあまりにもぴたりとハマることが、ごくまれにある。

それは、飲み食いが好きな僕にとって大げさでなく無上の喜びだし、ベストな選択ができたことに対し、「自分って天才?」と、心密かに脳内でガッツポーズをとってしまう瞬間でもある。

そんな"ハマりメシ"を求め、今日もメシを食い、酒を飲むのです。

* * *

ある昼下がり。我が家から最寄りの映画館「T・ジョイ SEIBU 大泉」で、娘が見たがっている「わんだふるぷりきゅあ!ざ・むーびー! ドキドキ♡ゲームの世界で大冒険!」の特典付き前売りムビチケを購入するというミッションを終え、腹が減っていた。

T・ジョイのある建物に入っている飲食店は、高級焼肉の「叙々苑」と「北海道らーめん 龍源」の2店。今のモードとはちょっと違う。どちらかというと、シンプルなカレー的なものが食べたい気分だ。しかし、駅前に戻るのがもどかしいほどに腹が減っている。となると、目の前の商業施設「リヴィンオズ大泉店」か。

「リヴィンオズ大泉店」 「リヴィンオズ大泉店」
チューブ状のエスカレーターが印象的な通称「オズ」は、練馬区大泉学園出身の僕にとって、子供時代からなじみ深い場所だ。5階が飲食店およびゲームセンターなどのフロアになっていて、することのない中高生時代など、よく友達と無駄に時間を過ごしていた。

エスカレーターで5階へ エスカレーターで5階へ
当時はもっともっと広く、もっともっとキラキラと感じていたその場所も、今訪れるとなんというか、時代遅れのいなたいデパート感がすごくて、そこにノスタルジーを感じもする。飲食店もずいぶんと減ってしまったが、それでもなんとか、4店の店が営業を続けている。

もう長年こんな感じ もう長年こんな感じ
中華料理の「天津菜館」、インドカレーの「マサラ」、「とんかつ串揚 田」、そしてもう1店は......ん? 「レストラン ケネス」?

和・洋 RESTRANT Kenneth 和・洋 RESTRANT Kenneth
あれ、前3店は把握していたけれど、最後の1店ってこんな店だったっけ? この場所には何度も来たことがあるのに、認識していなかった。けれども、いや、あったような気もする。というか、どう見ても昔ながらのローカルファミリーレストランという感じで、新しい店じゃないし。俗に言う"見えていなかった店"というやつだ。 たまらないレトロ感と、節操のない和洋折衷さが僕好みで、ここならカレーもあるに違いない。なぜ今まで、入ろうと思ったことがなかったのだろう?

メニューも豊富 メニューも豊富
まるで導かれたような気分で、ケネスという不思議な響きのレストランに入店することとなった。

店内 店内
店内は広々としていて、ザ・ファミリーレストランという感じだが、しかし僕の知るどの有名チェーンとも違う。そこここに漂うレトロ感が好ましく、ものすごく居心地がいい。

どこを見ても、いい どこを見ても、いい
さっそくやってきたお冷とおしぼり。そのおしぼりがまた良かった。どうやらここは、そば居酒屋の「長治」という店の系列店らしい。長治とケネスが兄弟、考えれば考えるほどおもしろい。で、何気なく使ったおしぼりの使い心地が妙に良く、広げてみたら、一般的なそれの倍くらいのサイズがあった。こだわりを感じるぞ。

おしぼりが おしぼりが でかい でかい

メニューは、ハンバーグ&ステーキ、オム&グラタン、パスタ&ピザ、和食、サイドメニューなどのコーナーに分かれていて、かなり品数豊富。一瞬、ここで「釜揚げしらす丼セット」を食べるのもおもしろいかな? とも思ったけれど、いやいや、今僕はカレーが食べたいのだった。

どれどれ......と、さらにメニューを読みこむと、意外にも純粋カレーライスはなく、見つかったカレー系メニューは、合い盛りになっている「カレー&ハヤシのコンビ(サラダ・スープ・ドリンクバー付)」(税込1200円)か「カレーオムライス(スープバー付)」(990円)の2種類のみだった。まぁ、ここはカレーオムライスでしょう。

そしてまた、酒飲み的に気になるのがサイドメニューコーナーで、つまみになりそうな単品料理がずらりと並び、そのなかには「なんこつ揚げ」「ハムカツ」「もつ煮込み」なんてメニューまである。なんだ、気がねなく飲めるんじゃん、この店。とはいえ、注文したカレーオムライスはしっかりとした量がありそうだ。つまみは様子を見よう。という流れで、ビール、ワイン、サワー、日本酒など、これまた豊富なアルコールメニューのなかから、「瓶ビール 中」(680円)を、ごく自然に頼んでしまった。

次回は飲みにこよう 次回は飲みにこよう 昼ビールの幸せ 昼ビールの幸せ
さらに、カレーオムライスには「スープバー」がつくらしく、そちらのコーナーをひやかしにいくと、「本日のスープ」がなんと2種類用意されている! 「玉ねぎとベーコンのコンソメスープ」と、ねぎとわかめが入れ放題の「みそ汁」。さすが和洋レストラン。当然、両方もらって、それをつまみにカレー前の"汁飲み"を始めていこう。あ、ちなみに汁のみとは当然、汁を飲むことではなく、汁をつまみに酒を飲むことを指します。

わかりますよね? この楽しさ わかりますよね? この楽しさ
なんてことをしていると、オムカレーも到着。最初の感想はずばり、「でかい!」。

でかい! でかい!
溶け込んでしまっているのか具のゴロゴロ感はなく、見た目はサラッとしたカレーソース。そして、見るからにふわとろな玉子。なんとも気品ある一皿だ。

早く食べたい! 早く食べたい!
いざスプーンでさくりとすくい、口に運ぼうとしてちょっと驚いた。カレーオムライスというメニュー名から考えてみれば当然なんだけど、ごはんがケチャップライスだったのだ。

こうだった こうだった
カレーにオムレツをのせた、いわゆる「オムカレー」ではなくて、あくまでオムライスが主役で、そこにカレーをかけ合わせたメニューだったというわけか。

つまり、逆から食べればオムライス つまり、逆から食べればオムライス
うんうん、想定とはちょっと違うけれど、その違いがむしろ嬉しい。ではあらためて、いただきます! もぐもぐもぐ......おぉ、まずは玉子が、見た目どおりに幸せな味だ。 そして、その下のライス。チキンライスではなくて、具は玉ねぎオンリーのケチャップライスなんだけど、これがいい。玉ねぎがジューシーでとろりと甘く、けれども少しだけしゃきしゃき食感も残してあり、ケチャップの酸味とのバランスが絶妙。さらに、ちょっと珍しいような気がする、強めに利かせてあるにんにくの香りが食欲を加速させる。

さらにカレー。さらさらともったりの中間くらいの食感で、スパイス感、甘み、塩気がしっかりと濃く、それでいて辛さはほどよく、他のどこでも食べたことのないような美味しさ。ケネスカレー、かなり好きだ。

ひたすらうまい ひたすらうまい
その幸せなハーモニーに浸りながら、ひたすらに食べすすめていると、カレー、ケチャップライス、玉子、それぞれが皿の上でどんどん混ざり合い出し、もはや自分がなにを食べているのかわからなくなってくる。ただ、混沌の美味に溺れるのみ。合間合間に挟むビールは、さながら浮き輪の役割か。

地元で昔から訪れていたスポットにも、まったく見えていなかった、こんなに素晴らしい店がある。そんな自分の未熟さを思い知らせてくれるような、いい店だった。今後、映画観賞後の定番になりそうだ。

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パリッコ

パリッコぱりっこ

1978年東京生まれ。酒場ライター、漫画家、イラストレーター。
著書に『酒場っ子』『つつまし酒』『天国酒場』など。2022年には、長崎県にある波佐見焼の窯元「中善」のブランド「zen to」から、オリジナルの磁器製酒器「#mixcup」も発売した。
公式X【@paricco】

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