意外にも足が歯に影響を与えるという 意外にも足が歯に影響を与えるという
「老化は口から」と言われ、近年その重要性が注目されている「デンタルケア(オーラルケア)」。定期健診や歯周病予防、フロスの必要性などが説かれているが、"足(足指)"に注目する歯科医が増えている。足と歯、無関係のように思えるがいったいどういうことなのか。

「よく姿勢が悪くて、腰痛や肩こりがひどい人っていますよね?」

白十字柏歯科(千葉・柏)の原田友助院長はこう話す。

「なぜ姿勢が悪くなるかというと、その原因のひとつが足にあるのです。地面に接地しているのは、足。そのバランスが取れていないから、ふくらはぎや太ももでバランスを取ろうとする。すると脚全体に負担がかかります。その負担を分散するために腰や背中、肩など、身体の各所で帳尻を合わせようとして、姿勢が悪くなるわけです。結局、一番基礎となる足のバランスが崩れれば、どんどん体の上部に影響を与えるんです」

耳からくるぶしまで結んだ重心線が垂直になっているのが正しい姿勢。しかし、姿勢が悪いと頭や肩、腹部が前に出たりと正しい重心線からズレてしまい、体のあちこちに負荷がかかる 耳からくるぶしまで結んだ重心線が垂直になっているのが正しい姿勢。しかし、姿勢が悪いと頭や肩、腹部が前に出たりと正しい重心線からズレてしまい、体のあちこちに負荷がかかる
確かに足元が不安定なら体全体で調整することになるだろう。しかし、それがなぜ歯に影響するのか。まさか歯でバランスを取っているわけではないはず......。

「猫背など姿勢が悪い人の多くは、頭が肩より前に出て視線も下がり、重心がズレてしまっています。するとバランスを取るのに体全体に力が入るため、歯の『食いしばり』が起こりやすいんです」(原田院長)

食いしばりとは、無意識のうちに歯を強くかみしめること。重いものを持ち上げるなど、力を込める際にする動作だが、それが日中や睡眠中などでも起きてしまう。

歯と骨を結び付ける歯根膜。厚さ0.3㎜の繊維組織で、歯ごたえなど刺激を感知している 歯と骨を結び付ける歯根膜。厚さ0.3㎜の繊維組織で、歯ごたえなど刺激を感知している
「咀嚼(そしゃく)時は30~60kgの力がかかっていると言われています。食いしばりでは、数十キロの負荷が長時間かかるわけです。最悪、歯が欠けたり、割れることもあります。

そこまでいかなくとも、歯と歯茎の間にある歯根膜という繊維に負担がかかります。これが伸びきったり切れたりすると、不安定になり歯が支えられなくなってきます。そして噛み合わせも悪くなってしまうのです」(原田院長)

歯の欠損が健康に悪影響なのはもちろんだが、噛み合わせが乱れると、虫歯や歯周病など口腔疾患、そして全身の健康にも影響があるという。

「電車や喫茶店などでスマホやパソコンを使っている人がいますが、食いしばっている人をよく見かけます。もちろん本人は気づいていませんが、歯科医からすると、なるべく早く治療すべきかと思います」(原田院長)

食いしばりの影響は負荷の蓄積によるもの。今すぐ歯がどうにかなるわけではない。しかし、年を取れば歯茎も痩せていく。若いうちから、負荷をかけないことが大事なのだ。

「風が吹けば桶屋が儲かる」ではないが、足から歯の健康を損なっていく理屈は分かった。では、どんな足がダメなのか。原田院長はこう説明する。

「足には3つのアーチがあります。かかとと親指の付け根、かかとと小指の付け根を結ぶ縦のアーチが2本、そして指の付け根を結ぶ横のアーチです。このアーチにはいくつか役割があるんですが、そのひとつがバランス作用。アーチが崩れると、歩行中や立っている際に足だけでバランスが取れなくなります」

足の3つのアーチ。歩行の衝撃を吸収して関節への負荷を軽減したり、蹴りだすサポートをしたりと、さまざまな役割を担う 足の3つのアーチ。歩行の衝撃を吸収して関節への負荷を軽減したり、蹴りだすサポートをしたりと、さまざまな役割を担う
そして、足のアーチの変形は素人でも確認できるという。

「アーチが変形すると、足に変化が起きます。一番わかりやすいのは偏平足。土踏まずが低くなったり、なくなったりします。それから親指や小指が内側に曲がったり(親指の場合は外反母趾、小指の場合は内反小趾)、指の関節が曲がったりします(ハンマートゥ)」(原田院長)

外反母趾はヒールの高いパンプスを履く女性に多いことで知られている。しかし、男性でも軽度の外反母趾になっている人は少なくないそう。

軽度の外反母趾、内反小趾、横を向く寝指軽度のハンマートゥになっている記者の足。おそらく長年、大きめの靴を履き、靴紐をきちんと縛らず、靴の中で足が滑っていたため、さまざまな変形を起こしたと思われる 軽度の外反母趾、内反小趾、横を向く寝指軽度のハンマートゥになっている記者の足。おそらく長年、大きめの靴を履き、靴紐をきちんと縛らず、靴の中で足が滑っていたため、さまざまな変形を起こしたと思われる
「また、そうした足の変形がなくても、アーチが崩れている人ももちろんいます。例えば、電車のカーブや停車時にふらつく人は気を付けたほうがいいです。また、体の後ろで手を組んで、上から誰かに押してもらった時に倒れるようであれば、足でバランスが取れていない状態です」(原田院長)

まず指を交互に絡ませて手を組む。その手を他の人に上から下へ軽く押してもらう。バランスが取れていないと片手のわずかな力でも、のけぞるように後ろに倒れる。しかし、バランスが取れていると両手で押しても問題なく姿勢を保てる まず指を交互に絡ませて手を組む。その手を他の人に上から下へ軽く押してもらう。バランスが取れていないと片手のわずかな力でも、のけぞるように後ろに倒れる。しかし、バランスが取れていると両手で押しても問題なく姿勢を保てる
足の状態の確認方法はわかった。自身の足がよくない場合、改善する方法は? 原田院長は「まずやるべきは靴と靴下の見直し」だと言う。

「アーチの崩れや足の変形の原因は、加齢による筋力低下、運動不足、歩行のクセなどいろいろあります。そのうちのひとつが靴なんですが、個人的に一番問題だと思うのが、日本人の多くが正しく靴を履いていないこと。つまり、足に合っていない靴を履くことで足が変形してしまっているということです」(原田院長)

靴は適切なサイズのものを選ぶのが重要。"大は小を兼ねる"とはいかない。筋力低下が進む40代以降は、合っていない靴を使用しているとさらに変形しやすくなる。一度、靴選びの専門家であるシューフィッターに相談するのがオススメだ。

「それから、できれば靴下もアーチサポート機能のついた五本指ソックスに変えたほうがいいです。普通の靴下は足指を包んでしまうため、自由に動かすことができません。すると足指に力が入らず、足の他の筋肉に負荷がかかり、アーチに悪影響を及ぼします」(原田院長)

足のストレッチ。1.足指の第一関節に、手指の付け根まで差し込む 2.差し込んだ手指を曲げて足指をまっすぐにする 3.足指の付け根の3cmほど下を、もう片方の手で押さえたまま、足指を上下に動かす。これを10回繰り返す 足のストレッチ。1.足指の第一関節に、手指の付け根まで差し込む 2.差し込んだ手指を曲げて足指をまっすぐにする 3.足指の付け根の3cmほど下を、もう片方の手で押さえたまま、足指を上下に動かす。これを10回繰り返す
それから足指のストレッチも効果があると、原田院長は言う。

「手指を足の指先に差し込み、足指がまっすぐになるように手指で押さえます。そしてもう一方の手で、足指の付け根の下を包み込むように持ちます。前述した足の横アーチを作るイメージです。その状態で、足指の間に差し込んだ手を上下に動かして伸ばします。

このストレッチを毎日続けることで、足の筋肉や関節がほぐされ、足でバランスが取れるようになってきます」(原田院長)

実際にこのストレッチをやってみると、足指が広がることもあって、前述した手を組んだ状態で上から押されても、姿勢を保つことができる。少し力を入れて押されても、微動だにせず。もちろん翌日には元に戻っていたが、継続すれば効果はありそうだ。

最後に原田院長は足の重要性をこう話す。

「口の中だけ見て考えれば、歯に負担がかからないように噛み合わせを調整したり、虫歯や歯周病の病原菌をなくすことで十分です。しかし、それはあくまで対処療法。根本的解決ではない。体の一部として全体的に見れば、それだけでは足りない部分がある。そのうちのひとつが足なんです。そう言ってもまだまだ理解されないことのほうが多いですが、できたら足にも目を向けてもらいたいですね」(原田院長)

ネイルをする女性に比べ、男性は足を見る機会も少ないはず。しかし、その異変はじわじわとボディーブローのように歯にまで影響を与える。わずかな変化に足をすくわれないよう気を付けたい。

●原田友助
白十字柏歯科院長。一般的な虫歯治療やホワイトニングなどのほか、体全体の健康から歯の健康を目指し、「足指のばし(足腰・ひざの痛みと姿勢と痺れ相談)」も行なっている
アクセス:千葉県柏市東上町3-8 柏パークホームズ102
TEL:04-7164-8225
http://hakujyuujikashiwashika.cihp2.jp/