小山田裕哉おやまだ・ゆうや
1984年生まれ、岩手県出身。日本大学芸術学部映画学科卒業後、映画業界、イベント業などを経て、フリーランスのライターとして執筆活動を始める。ビジネス・カルチャー・広告・書籍構成など、さまざまな媒体で執筆・編集活動を行っている。著書に「売らずに売る技術 高級ブランドに学ぶ安売りせずに売る秘密」(集英社)。季刊誌「tattva」(BOOTLEG)編集部員。
昨年に続き、記録的な猛暑となった今年。「夏フェスに行きたいけど、熱中症が心配......」という人も多かっただろう。
しかし、フェスは夏だけのものではない! 国内外のフェスを渡り歩く"フェスティバルジャンキー"に、今からでも参加できて、涼しく快適に過ごせる「秋フェス」を紹介してもらった!
今やすっかり日本の夏の風物詩となった"夏フェス"。しかし、近年は記録的な猛暑に悩まされ続けている。
例えば、ラッパーのKREVAは昨年7月、TBSラジオの番組に出演した際、暑さによる機材トラブルや熱中症対策など、最近の野外ステージの過酷さに触れ、「日本の夏フェスの終わりを感じた」と言及した。
その発言の深刻さを裏づけるように、同年8月に千葉県幕張で開催された「SUMMER SONIC」(以下、サマソニ)では約100人もの観客が体調不良を訴え、ひとりの40代女性が病院に緊急搬送までされてしまった。
今年も猛暑の影響は続き、8月10日、11日に埼玉県で予定されていたK-POPフェスが、「危険な猛暑日」が続いていることなどを理由に開催延期を決定。出演者側でもサザンオールスターズが、「令和の夏は高齢者バンドには暑すぎる」として、今年限りで夏フェスからの引退を宣言したことが話題を集めた。
日本最大級の音楽フェス情報サイト『Festival Life』編集長の津田昌太朗(しょうたろう)氏は、夏フェスと猛暑の関係について、次のように解説する。
「日本各地で40℃前後の暑さが続く中、夏フェスは厳しい対応を迫られています。私はサマソニでステージMCを担当しているのですが、観客向け注意事項の多くが熱中症対策のアナウンスです。
本来、音楽フェスは観客ごとに自由な楽しみ方ができるところが魅力だったはずなのに、『本当に危険なので、特に外のステージでは十分に注意してください』と伝えています」
そのため、夏フェスに対しては開催時期の変更も提言されているのだが......。
「以前から『夏フェスを春や秋に移動してはどうか』という声はありましたが、そう簡単にはいかない事情もあるんです」
津田氏が続ける。
「日本では現在、サマソニを含め、『FUJI ROCK FESTIVAL』(以下、フジロック)、『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』、『RISING SUN ROCK FESTIVAL』という"四大フェス"が7月から8月にかけて開催されています。
これだけ大規模なフェスが連続しているとアーティストのブッキング調整だけでも大変です。また会場側の都合もあり、例えばサマソニ(東京)の主会場であるZOZOマリンスタジアムでは、野球の試合日程との兼ね合いもあります。
さらに、大規模フェスが始まった頃に比べると、春や秋にも多くのフェスが開催されるようになり、そういったバランスもあって簡単には日程をズラせないんです」
夏フェスの課題が浮き彫りになる中、今注目を集めているのが9月から11月にかけて開催される音楽フェス、通称"秋フェス"だ。
「夏フェスが『十分に暑さなどの対策をして参加するもの』となった今、秋フェスは音楽フェスの初心者にこそぴったりです。
まず、夏に比べて涼しくて快適。家族連れも過ごしやすく、私自身も子供と行くのは秋フェスです。加えて、夏フェスに比べて中小規模でジャンルも多様なので、自分好みのものを探しやすくなっています」
津田氏によると、秋フェスは猛暑が問題になる前から始まっているという。
「1990年代末から2000年代初頭に相次いで始まった"四大フェス"が日本のフェス文化を牽引してきた影響で、今も『音楽フェス=夏フェス』といったイメージが定着しています。しかし、この"四大フェス"が大きな集客力を持つため、00年代中盤以降に始まった新しいフェスは春や秋の開催に分散していきました」
中でも秋フェスの元祖といえるのは、フジロックを運営するSMASH主催の「朝霧JAM」だ。
「01年に静岡県富士宮市で始まった朝霧JAMは、当初から『夏フェスの打ち上げ的イベント』といった位置づけで10月に開催されていました。フェス好きの間では、『これが終わるとフェスの季節も終わりだね』なんて会話が交わされていたほどです。
フェス文化が盛り上がるにつれ、春や秋開催のフェスが増加。6月は梅雨時なので、新しいフェスは4~5月、9月以降の開催が多いです」
近年は9月でも暑さが続くようになったことで、秋フェスはさらに拡大した。
「14年開始の『Ultra Japan』がひとつのターニングポイントでした。海外の人気フェスの日本版なのですが、ダンスミュージックに特化したイベントであり、まだまだ暑いので夏の格好で大丈夫ですし、中には水着で楽しむ人もいました。これが9月に開催されたのです。
ここから『9月はまだ夏だよね』とのイメージが世間で共有され、夏フェスの終わりと秋フェスの始まりが重なるようになりました。その結果、秋フェスの終わりも後ろにずれ、今や10月だけでなく、朝霧JAMよりも遅い11月でも秋フェスが行なわれるようになっています」
その象徴といえるのが、神奈川県横浜市で開催されている「Local Green Festival」だ。
「これは秋らしく観葉植物や花などのマーケットと音楽ライブをかけ合わせたフェスで、もともとは9月に開催されていました。しかし、9月でも猛暑日が珍しくないということもあり、今年から11月に日程を変更しています。
ほかにも、静岡県掛川市の『Festival de FRUE』など11月開催のフェスは増えており、夏フェスが熱中症対策に追われる一方、秋フェスのマーケットは全国で順調に成長を続けているのです」
では、ここからは津田氏に色とりどりの秋フェスを案内してもらおう。
「秋には個性的な音楽フェスがめじろ押し。まずは"アーティスト主催型"です。その規模もコンセプトも多様化しており、ミュージシャンの西川貴教さんが主催する『イナズマロック フェス』(滋賀県草津市)は西日本最大級の野外音楽イベントで、フェスらしい楽しみ方が満喫できます。
また、くるり主催の『京都音楽博覧会』は、会場が京都駅から徒歩15分という都市型の音楽イベント。ここでしか見られない出演アーティストも多いのが特徴です。
ほかにも、今年は幕張メッセに会場を移して開催される氣志團主催の『氣志團万博』などもあります。音楽フェスに行ったことがなくても、主催ミュージシャンのことなら知っている人も多いでしょう。彼らの単独ライブと合わせてさまざまなミュージシャンの演奏に触れられるという意味でも、まさにフェス文化の入り口として最適だと思います」
また、ほかの要素と音楽フェスをかけ合わせることで個性的なイベントをつくり上げている点も、秋フェスのもうひとつの特徴だそうだ。
「近年はキャンプ文化も大きく盛り上がっていますが、夏フェスでのキャンプは、暑さ対策などしなければならないことも多く、やはり気候が穏やかな秋のほうが快適です。
群馬県の水上高原で行なわれる『New Acoustic Camp』は、その名のとおり、キャンプと音楽を楽しむイベントで、キャンプ好きからの評価も高く、今年で15周年を迎えます。家族でキャンプしながら楽しむ秋フェスとして、私はこれが最もオススメですね。
また、全国にフェス文化が広まったことで、地方から『旅行と合わせて音楽フェスを楽しもう』と呼びかけるケースも増えています。沖縄県の宮古島で行なわれる『MIYAKO ISLAND ROCK FESTIVAL』では、航空会社のJALと提携したツアーパックも販売。
また、福島県の『LIVE AZUMA』は地元の名物が味わえるマーケットを押し出すなど、観光とセットで楽しめるフェスも増えています」
このように地方では、秋フェスが地域振興のイベントとしても活用されている。
「埼玉県東松山市で行なわれる『麦ノ秋音楽祭』は、地元の名産であるクラフトビール醸造所の敷地を利用することで、『ビール×音楽』をテーマに掲げています。
温泉地として有名な大分県の別府でも、『いい湯だな!』という都市型フェスが行なわれており、秋フェスの多様化は今も進み続けています」
しかし、なぜ秋フェスはここまで広がったのか。やはり、記録的な夏の猛暑を避けるという理由が大きいのか。
「猛暑は理由のひとつに過ぎません。本質的なのは、日本のフェス文化の豊かさです」
どういうことか。津田氏が次のように解説する。
「海外から来た友人を日本の音楽フェスに連れていくと、『こんなに音が良くて、こんなに食事がおいしくて、こんなにゴミのない清潔なフェスは初めてだ』とみんな感動してくれます。まったく日本の音楽を知らない人でさえ、そう言ってくれるのです。
実は、日本の音楽フェスは海外と比べても軒並みクオリティが高い。各地に音楽フェスが乱立しても、互いに共存できるくらい運営がしっかりしています。それが秋フェスが増え続けている最大の理由です。
実際、3~5年目でなくなってしまうフェスも少なくない中で、日本では10年、15年と着実に歴史を重ねるケースも珍しくありません」
そのため、日本の音楽フェスは"日本発の輸出産業"としての可能性も秘めていると津田氏は言う。
「コロナ禍が収まってから、タイやジャカルタ、香港などアジアの各地で続々と新たな音楽フェスが誕生しています。そこで彼らが手本としているのが、日本の音楽フェスです。
日本は経済的に弱くなったとよく言われます。しかし、音楽フェスは違います。経済規模では中国やインドに圧倒されていますが、日本のフェス文化のように、自国の文化をひとつのパッケージとして海外に発信するようなコンテンツは、アジアの国々では日本以外にありません。
フジロックが始まった1997年を日本の音楽フェス元年とするなら、すでに25年以上の歴史がある。そこで培ってきたノウハウは簡単にコピーできるものではありません。
今年8月にサマソニがタイのバンコクで初開催されましたが、それはアジアの各国が経済成長を遂げる中で、日本のフェス文化に大きな期待が寄せられていることの証明といえます。大げさでなく、音楽フェスは日本の希望だと思っています」
日本国内だけでなく、海外にも広がる日本のフェスカルチャー。その勢いを感じるためにも、今年は秋フェスに足を運んでみてはいかがだろうか。
●津田昌太朗(つだ・しょうたろう)
1986年生まれ、兵庫県出身。大学卒業後、大手広告代理店に入社。退職後はイギリスに移住して海外フェスを横断するプロジェクトをスタート。帰国後、日本最大級の音楽フェス情報サイト『Festival Life』の編集長を務める。国内外のフェスカルチャーについて広く発信中。著書に『THE WORLD FESTIVAL GUIDE 海外の音楽フェス完全ガイド』(いろは出版)など
1984年生まれ、岩手県出身。日本大学芸術学部映画学科卒業後、映画業界、イベント業などを経て、フリーランスのライターとして執筆活動を始める。ビジネス・カルチャー・広告・書籍構成など、さまざまな媒体で執筆・編集活動を行っている。著書に「売らずに売る技術 高級ブランドに学ぶ安売りせずに売る秘密」(集英社)。季刊誌「tattva」(BOOTLEG)編集部員。