パソコンやスマホを見ているときは「まばたきの数」が少なくなりがち。定期的に画面から目を離して休憩しよう! パソコンやスマホを見ているときは「まばたきの数」が少なくなりがち。定期的に画面から目を離して休憩しよう!

パソコンやスマホに囲まれ、目を酷使する生活が当たり前になった現代社会。程度の差こそあれ、みんなが目の疲れ、悩みを抱えていますが、なんとかして目の健康を守るすべはないのでしょうか。そこで、眼科医の平松 類先生に、最新研究を踏まえた目にまつわる健康トリビアを聞きました!

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■人類史上最も目を酷使する時代

あなたは今、起きてから寝るまでの間、どのくらいの時間スマホやパソコンを見ていますか? プライベートではスマホでネットサーフィン、仕事ではパソコンで事務作業。現代人は当たり前のように電子機器に囲まれた生活をしています。

このような生活によって最もダメージを受ける体の部位、それが「目」です。目の健康に関する最新知識を知って生活に役立てたい!ということで、二本松眼科病院の平松 類先生に話を聞きました。

平松先生、多くの現代人が目の悩みを抱えがちなのはやっぱりスマホやパソコンのせいですか?

「はい。もちろん原因のひとつとして電子機器の使用が目の疲れに影響していることは確かです。結局、目に負担を強いるのは、モノを見る際に『距離』が近いときなんです。

人間は普通、ぼーっとしているときには1~2mほど先にピントが合っています。それが一番自然でリラックスしている状態ということです。

しかし、例えばスマホを注視しているときには、その『距離』がぐっと近くなり、さらに一定間隔で休憩を取る人が少ないため、目の疲れを感じる人が多くなります。

ただ、スマホやパソコンがすべての原因ということではなく、例えば『距離』の観点で見ると勉強も目に良くないんですよ。勉強時間が長い子供は近視になりやすいという研究データもあるので、近くのモノを見るときには常に注意が必要です。

また、人間はそもそも狩猟採集生活をしていたので、手元のモノを見ることに特化した目を持っているわけではありません。手元を見続ける生活によって、現代人には視力低下やピント調節機能の衰えなど加齢とともにさまざまな不調が出てきます。

ただ、進行を遅らせるのは可能なので、正しい知識を身につけることが目を健康に保ち続けるための一歩だといえます」

長寿が当たり前の今、目の健康は誰もが考えないといけない問題なんですね。

■健康な目を守るための生活習慣

では、大事な目を守るために先生がオススメする生活習慣はありますか?

「身近なところでいうと、食生活に気をつけるといいと思います。私のオススメは、ゴーヤーやホウレンソウなどの緑黄色野菜を積極的に食べることです。緑黄色野菜にはルテインという体へのダメージを防ぐ抗酸化作用を持つ成分が含まれていて、特に目に良い食べ物です」

よくブルーベリーが目に良いと聞きますがそれはどうでしょうか?

「眼科医の目線で言うと、ブルーベリーにはそれほど目に良い成分は含まれていません。やはりそれより、ゴーヤーやホウレンソウなどのほうが目の健康には断然良いですね。ほかには、コーヒーを1日3杯飲むと目に良いことがわかっています。ただ、飲みすぎはかえって悪影響なので注意が必要です」

色の濃い緑黄色野菜以外には、卵の黄身を食べるのもオススメとのこと。手っ取り早く疲れ目を解消したいときには「目を温める」ことが最も効果的なんだそうです! 色の濃い緑黄色野菜以外には、卵の黄身を食べるのもオススメとのこと。手っ取り早く疲れ目を解消したいときには「目を温める」ことが最も効果的なんだそうです!

ほかには何かありますか?

「現代では眼鏡やコンタクトレンズをしている人が多いと思いますが、私は遠近両用レンズの使用を推奨しています。

これは、ひとつのレンズに異なる度数が入っていて、どの距離でも適度な視力で見ることができるスグレモノのレンズです。近くを見るときまで視力を過剰に矯正してしまうと、見えすぎて逆に目が疲れてしまうことがあるので、近くを見るレンズは度数が弱いほうがいいんです。

このタイプのレンズは昔は高齢者が使うイメージがありましたが、目に非常に優しいので今は若い人にも積極的に薦めています。コンタクトレンズにも遠近両用があるので、ぜひ試してほしいですね」

図表1 上と下とで度数が異なる遠近両用レンズ。遠近両用の効果を実感するためには、度数の幅をつくることができる縦に長いレンズがオススメ! 長時間の作業も楽になります! 図表1 上と下とで度数が異なる遠近両用レンズ。遠近両用の効果を実感するためには、度数の幅をつくることができる縦に長いレンズがオススメ! 長時間の作業も楽になります!

■ブルーライトカット眼鏡はしないほうがいい?

眼鏡といえば、ブルーライトカット眼鏡が目に良いとよく聞きますよね。

「実は、ブルーライトをカットすると目に良いという科学的な根拠はかなり薄いです。そもそもブルーライトは紫外線に近い波長を持っている光であるものの、可視光線の一種なんです。

なので、普段の生活でわれわれが太陽や蛍光灯から浴びている光にもブルーライトは含まれています。それがスマホやパソコンからも出ているというだけで、ブルーライトをカットしたところで目とモノの『距離』の問題が解決されない限り、あまり意味はありません。

それどころか、日本眼科医会は子供にブルーライトカット眼鏡をかけさせることは積極的には推奨できないとして、公式に注意を呼びかけているんです。

なぜかというと、幼少期の目の発達にブルーライトを含む太陽光が必要なものかもしれないという研究があり、それをカットしてもたらされる健康被害が明らかになっていないからと考えられます。

科学的に明らかにされていない効果のためにリスクを背負ってブルーライトカット眼鏡をしたり、子供にかけさせたりするのは、眼科医としてオススメできませんね」

図表2 光は波長の長さによって種類が分かれ、ブルーライトは波長が短い紫外線寄りの光に区分されます。ブルーライトの研究はまだまだ進んでいないので、悪影響を誇張した宣伝には注意が必要です! 図表2 光は波長の長さによって種類が分かれ、ブルーライトは波長が短い紫外線寄りの光に区分されます。ブルーライトの研究はまだまだ進んでいないので、悪影響を誇張した宣伝には注意が必要です!

最新の技術では、レーシックやICL(目の内部にコンタクトレンズを挿入する手術)も一般的ですが、それに関してはどうですか?

「それらの技術に関しては、メリットとデメリットを正しく理解して個人の判断で利用すればいいと思います。前提として、レーシックやICLは目の視力を上げてくれるけどピント調節機能の衰えである老眼に対しては効果がありません。

なので、若いときにレーシックを受けるとしばらくはそのままでいいけど、年を重ねると老眼鏡が必要になってくることもあります。

また、ICLは自分に合わないと思ったら手術でレンズを外せばいいだけですが、レーシックは角膜を削ってしまうので一度手術をすると後戻りはできません。そのようなリスクはありますが、視力を良くしたい人や眼鏡を煩わしいと感じる人は、個人の判断で手術を受ければいいと思います。

ただ、『友達も手術を受けたら手術代を安くするといったキャンペーン』は健康被害が出ると人間関係を壊しかねないので、注意が必要かもしれませんね」

レーシックやICLは決して魔法のような技術ではないということですね。

■涙の「量」と「質」って何?

目を守るために避けたい行動や食習慣はありますか?

「目の健康に限った話ではないですが、脂っぽいものを多く食べる習慣がある人は注意が必要です。例えば、ハンバーガーやフライドポテトなどを多く食べると、涙の『質』が悪くなるんです」

パソコンやスマホをずっと見ていると目が乾いて涙が出そうになる人はドライアイの可能性あり。脂っぽいものを控えてみましょう! パソコンやスマホをずっと見ていると目が乾いて涙が出そうになる人はドライアイの可能性あり。脂っぽいものを控えてみましょう!

涙の「質」ってなんですか?

「あまり知られていませんが、人間の涙には『量』と『質』という、ふたつの評価軸があるんです。『量』は単純に涙の量を指していて、涙の量が多いほど潤っている健康的な目といえます。

涙の『質』とは涙に含まれる水分、油分、ムチンなどの成分のバランスに左右されるものです。この成分のバランスが崩れて涙の『質』が悪くなると、すぐに乾燥してしまうドライアイや疲れ目になりやすいです。

この涙の『質』を低下させるのが脂分の多い食生活なんです。なので、理想としてはハンバーガーなどの脂っぽいものを控えて色の濃い緑黄色野菜を多く食べる生活をすると目に非常に優しいですね。

結局、一番目に良いのは定期的に病院に行って検査を受けることです。実は、視力というのは一般的にイメージされるように徐々に悪くなるのではなく、1日のうちに失明するほど急激に悪くなることもあるんです。

失明の最も大きな原因は緑内障ですが、緑内障が進行して視界が欠けたりぼやけたりしていても、もう片方の目の視力が良ければ全体としては問題なく見えてしまうため、病気の存在に気づきにくいんです。

なので、緑内障のリスクが高まる40代以上で視力が悪い人や持病がある人は普段から目の見え方には気をつけてほしいですが、なかなか自分では気づけない。

そこで定期的に病院に行って専門医に診てもらう。特に眼底検査という目の奥まで診る検査をしてもらうと安心できますよ」

健康な目を手に入れて愛(Eye)する世界を見続けよう!