厚労省は勃起不全(ED)治療薬の「シアリス」を「処方箋なしでの購入」可とする検討を、一般の意見募集から開始した。この薬、どのくらい効果がある? 有名なバイアグラとの違いは? 薬局で気軽に買える日が本当に来るの? 取材した!
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■ED治療以外でも効果あり
日本性機能学会が2023年に実施した調査によると、日本の成人男性のおよそ3人に1人、全体で約1400万人が"ED有病者"だという。
そんな中、厚生労働省は今年11月、ED治療薬である「シアリス」(製品名)について、薬局やドラッグストアにて処方箋なしでカウンター越しに購入可能となる、いわゆるOTC(Over The Counter[オーバー ザ カウンター])化への検討に入ったことを発表した。
では、シアリスとはどんな薬なのか。大宮エヴァグリーンクリニック院長の伊勢呂(いせろ)哲也氏はこう説明する。
「EDの身体的原因のひとつに、血管が細くなったりもろくなったりして陰茎に血流が届かなくなることが挙げられます。シアリスは、服用によってその有効成分であるタダラフィルが血管を弛緩(しかん)させて陰茎への血流を促し、勃起を助けるのです。
代表的なED治療薬にはシアリスのほかに、バイアグラやレビトラジェネリック(以下、レビトラ)などがありますが、それぞれ主成分こそ違うものの、いずれも血管を拡張させて勃起しやすくなる効果があります。
各製品の主な違いは効果の持続時間で、レビトラが4~5時間、バイアグラが約6時間に対してシアリスは最大36時間と非常に長い。1錠服用すれば週末を元気に過ごせることから『ウイークエンドピル』とも呼ばれています」
バイアグラ、レビトラに続き、国内で3番目のED治療薬として07年に登場したのがシアリスだ。都内で働くある薬剤師はシアリスについて「長く効く分、爆発力はやや落ちます。バイアグラやレビトラがスポーツカーだとすれば、シアリスは長距離バスですね」と話す。
とはいえ、土曜の朝に服用すれば、日曜の夜まで勃起を助けてくれるとあって、旅行の際にも重宝されているそうだ。
「シアリスにはタダラフィルの含有量に応じて『5㎎』『10㎎』『20㎎』の3種類があり、数字が大きいほど勃起効果が高い。一般的に勃起薬としては20㎎が使用されますが、抗酸化作用や血管機能を回復してくれることから、5㎎に関しては長期服用することでアンチエイジングや中咽頭がんへの抗がん作用も発揮したという論文があります」(伊勢呂氏)
ED治療での処方は保険適用外のため、相場は1錠につき5㎎が380円、10㎎が1500~1800円、20㎎が1700~2100円とやや割高だが、その分メリットも多い。
ドラッグストアで気軽に買えるようになれば、「EDで悩んでいるけど、病院に行くのは恥ずかしい」という人の助け舟になってくれるだろう。
■OTC化はいばらの道?
今回のスイッチOTC医薬品(処方薬から市販薬に切り替わった薬)検討のニュースは「出産率低下の一途をたどる昨今、その原因がEDによる男性不妊の例もある。この発表は国を挙げての少子化対策の一環なのかもしれません」(伊勢呂氏)とのこと。
だが、OTC化に向けて大きな課題もある。
「クリニックでも問診のみと比較的手軽に処方されている現状を考えると、個人的にはOTC化しても問題ないかと思います。ただし、心臓や脳に持病がある方がシアリスを服用すると危険という一面もあります」(伊勢呂氏)
浜松町第一クリニック院長・竹越昭彦(たけこし・あきひこ)氏も同様の理由から、OTC化は「あくまで検討だけで、実現は難しいだろう」と予想する。
「一番の問題は併用禁忌(一緒に服用することがNGとされる薬剤の組み合わせ)。例えば、ニトログリセリンという狭心症や心筋梗塞などの治療薬と一緒にシアリスを服用すると血圧が下がりすぎて命に関わる。
ニトログリセリンを服用している人はそれなりにいるのに、ドラッグストアの薬剤師さんの説明だけで、自分がなんの薬を飲んでいるかもわからないような人に、簡単に売れるようになるとは思えません。個人的にも危ないからやめたほうがいいと考えます」
実は同様の理由でED治療薬のOTC化が実現しなかったケースが過去にあるという。
「昨年末にバイアグラがOTC化するという話が水面下であり、製薬会社もいろいろと動いていたみたいですが、結局、併用禁忌の懸念から頓挫しています。
もし死亡者が出たら認可を出した厚労省の責任問題になりかねない。そういった理由から、今回もなかなかゴーサインは出せないでしょうね」(竹越氏)
厚労省がOTC化に踏み切れない理由は、もうひとつあるという。
「過去には鎮痛消炎剤のロキソニン、胃腸薬のガスター10、アレルギー性鼻炎薬のアレジオンなどがOTC化していますが、軽度の病状で医者にかかられるより、自分で薬を買ってもらったほうが保健医療に負担がかからない。だから、それらのOTC化は医療費を下げたい厚労省に都合が良かったんです。
しかし、シアリスなどのED治療薬は、不妊治療目的で処方されれば保険適用ですが、夫婦そろって来院しなくてはならないなどハードルが高く、そのケースはまれ。
ほとんどが自由診療のED治療として処方されるわけですから、もともと医療費としてあまりかかっておらず、OTC化したところで厚労省にメリットはない。
むしろ、シアリスの副作用で逆流性食道炎という胸焼けを覚える人も多く、それで病院に来られたほうが保健医療の負担になる。それなのに、責任を負わされるリスクを取ってまで厚労省がOTC化を進めるとはやはり思えないですね」
どうなるかは今後の展開次第だが、現在EDに悩んでいる人はあまり期待しすぎずに、しばらくはクリニックなどに通ったほうがよさそうだ。