ある日、あるとき、ある場所で食べた食事が、その日の気分や体調にあまりにもぴたりとハマることが、ごくまれにある。

それは、飲み食いが好きな僕にとって大げさでなく無上の喜びだし、ベストな選択ができたことに対し、「自分って天才?」と、心密かに脳内でガッツポーズをとってしまう瞬間でもある。

そんな"ハマりメシ"を求め、今日もメシを食い、酒を飲むのです。

* * *

今年出会ったなかでも特に印象的な飲食店のひとつに、大塚「幸龍軒」がある。

「幸龍軒」 「幸龍軒」
その味わい深い見た目ゆえ、以前から存在は認識していて、先輩ライターのとみさわ昭仁さんとSNSで盛り上がり、ご一緒させてもらって初訪問したのが今年の夏のことだった。

その時の目的は、とみさわさんおすすめの「モツあんかけラーメン」だったのだが、あまりに楽しくて飲みすぎ、つまみだけでお腹いっぱいになってしまって、けっきょく食べることができなかった。そこでひとりリベンジに向かったのが約1ヶ月後

ついに念願のモツあんかけラーメンを食べることができ、その想像以上の美味しさに、大いに満足したものだった。

お店のいちおし お店のいちおし 「モツあんかけラーメン」 「モツあんかけラーメン」
ただしその際、またひとつ新たな心残りも生まれてしまった。それは、もうひとつの名物であることが名前からもわかる「大塚 幸龍飯」。メニュー写真からしてどう考えたってうまそうなそれもまた、食べてみたいということ。必ずまたリベンジが必要だ。ずっとそう思っていた。よし、年内にその宿題を済ませてしまおう!

というわけで、約3ヶ月ぶりに幸龍軒にやってきた。目指すは、とろとろチャーシューを天津飯にのせたという、幸龍飯。ところがカウンター席に着いてメニューを眺めると、これまた店名を冠した「幸龍炒飯」や、どう考えても気になる「はじまりの豚バラスタミナ炒飯」など魅力的なメニューの存在たちに気がついてしまい、ふたたび心が揺れはじめる......。が、やはり初志貫徹。「幸龍飯」(税込980円)、それから「ホッピーセット(白)」(480円)をお願いします!

また来るしかないか また来るしかないか 今日はこいつ!  今日はこいつ! スタンバイ完了 スタンバイ完了

ホッピーセットでごきげんにのどを潤していると、すぐに中華スープと幸龍飯が到着。大きめのどんぶりにひたひたに餡(あん)が満ちていて、さらにその標高よりも高く玉子、そのうえに厚切りチャーシューがのっており、かなりインパクトのある見た目だ。

大迫力 大迫力
さっそくチャーシューをちょっとどけ、天津飯をざくりとれんげですくう。するとその空きスペースに周囲の餡がどどどと流れ込み、なんとも壮観。初手からエンタメ性の高い一品だ。

いただきます いただきます
ごはんは炒飯とかではなくて白メシで、とろとろの餡は鶏ガラやにんにく、そしてごま油の風味などがベースと思われる、甘酸っぱさはない関西風。そういえばここ、一見老舗の町中華風の見た目ながら、大手チェーンの大阪王将がプロデュースしているんだったっけ。シンプルながらもしっかりインパクトもあって、かなり好きだ。

そして驚くのが、ふわっふわのたまごのボリューム。ごはんの上をたっぷり、数センチはあろうかという厚みで覆っていて、さらにそれとは少し食感の異なる、とろとろに崩れた玉子が餡にもたっぷりと混ざっている。一体何個ぶん使っているんだろう。ものすごく幸せな味だ......。

幸福ドーム 幸福ドーム
チャーシューはれんげでつつくだけでほろほろほどける柔らかさで、甘めの味つけだから、塩気寄りの餡との相性が抜群。少しずつ崩しつつ、全体を混ぜながら食べるのがたまらなすぎる。

贅沢な料理だな  贅沢な料理だな
と、幸龍飯の基本系をしっかりと味わって、残り半分くらいになったところで、「ホッピー(中)」(180円)を追加。ここからは、卓上の調味料を加えつつの自由演技タイムに突入だ!

後半戦へ 後半戦へ
まずはコショウ。うんうん、当然間違いない。続いてラー油。お、ここのは花椒(ホアジャオ)がしっかりと効いた四川風か。うまいうまい。となれば、大きく味が変わってしまう可能性があるので様子を見つつ、中国の定番黒酢「鎮江香醋(ちんこうこうず)」を加えていってみよう。わー、ひと口目とはまったく別料理になってしまったけど、これまたうまいし楽しいぞ。

そしてまた、味変を加えつつ食べすすめるほどに強く感じられるようになってくるのが、白米のうまさ。それがしみじみと心に沁みて、最後までずっと幸せな気持ちが持続する。

コショウ コショウ ラー油 ラー油 黒酢 黒酢
と、想像以上に満足度の高かった、幸龍軒の幸龍飯。他にもたくさん気になるメニューを見つけてしまったし、来年も引き続きお世話になることになりそうだ。 そしてまた、読者のみなさまにおかれましても、来年も引き続き、「ハマりメシ」を何卒よろしくお願いいたします。それでは良いお年を~!

2024年もあっという間に年の瀬。今年もよく食べよく飲んだ。

【『パリッコ連載 今週のハマりメシ』は毎週金曜日更新!】

パリッコ

パリッコぱりっこ

1978年東京生まれ。酒場ライター、漫画家、イラストレーター。
著書に『酒場っ子』『つつまし酒』『天国酒場』など。2022年には、長崎県にある波佐見焼の窯元「中善」のブランド「zen to」から、オリジナルの磁器製酒器「#mixcup」も発売した。
公式X【@paricco】

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