
「橋元堂豊嶋屋」の「マヨネーズどらやき」。マヨの酸味と生クリームや卵焼きの甘さが絶妙にブレンドされた独特な味わいだった
2025年3月は、キユーピーのマヨネーズが誕生してからちょうど100年。それは日本で作られ、販売された"国産マヨネーズ"の100周年を意味する――なんとめでたい!
日本で最もマヨネーズを購入している市は、福島県福島市! 今年2月、そんな統計結果が発表された。日本一のマヨ自治体となった福島市だが、そのマヨ食の実態は? 現地のマヨグルメを食いまくってみた!【俺たちの「マヨ愛」を聞け!④】
■どら焼きや刺し身にもマヨネーズ
総務省が今年2月に発表した家計調査によると、2024年の1世帯(2人以上)当たりのマヨネーズの年間支出額は、福島県福島市が都道府県庁所在地と政令指定都市の中で1位だった。
金額は2213円で、最下位の那覇市(1020円)とは倍以上の開きがある。大サイズのチューブを2ヵ月に1回以上のペースで購入している計算だ。
近年は、鳥取市と熊本市が1位を争ってきたが、福島市も23年に5位に入るなど、上位の常連だった。福島県庁職員に聞いてみると、1位に驚きつつ、こう話した。
「福島の居酒屋では、唐揚げや焼きそばにはマヨネーズがついてきますし、冷やし中華には、必ずからしとマヨネーズがついています。福島の夏は暑いので、酸味は必要ですね。納豆にかける人もいます」
福島県在住の女性・若林亜希さんも、マヨネーズをよく使うという。
「わが家では納豆に入れますし、菊のおひたしにもかけます。独特な苦みも、マヨネーズを合わせれば和らぎますし風味も引き立つ、絶妙な組み合わせです」
福島駅から電車で20分ほどの所にある老舗和洋菓子店「橋元堂豊嶋屋」。ここには「マヨネーズどらやき」なるメニューがある。女性店員が説明してくれた。
「変わったどら焼きを作りたいと考えていました。ちょうど社長が大のマヨネーズ好きだったので、試しに入れてみたところ、さすがにあんこには合いませんでしたが、生クリームにしてみたら意外といけた(笑)」
一時期は諸事情で販売を中止していたが、根強いファンからの問い合わせを受け、最近、週末限定で販売を再開したという。
続いて福島駅近くの「鉄板居酒屋 丸一」にも行ってみた。カツオのたたきを注文すると、ネギとマヨネーズがかかっていた。そこには店長のこだわりがあった。
「系列店ではカツオの刺し身を醤油で出しているのですが、それと同じでは面白くない。うちはお好み焼きもやっていて、もともとマヨネーズを使うメニューは多いので、じゃあカツオにもかけてしまおうって感じです。マヨネーズは、カツオの独特の臭みを取る効果があるんですよ」
「鉄板居酒屋 丸一」の「カツオのたたきwithマヨネーズ」。マヨの程よい酸味と油がカツオの臭みを消し、トロのようなうまみを感じさせる。ただしネギが多すぎるのか、全部口に入れると少々辛い
彼は、福島市がマヨネーズの購入額1位を獲得したことについて「僕もご飯にかけるほど、なんでもマヨネーズをかけます。福島県民はご飯に合うものが好きなんで、意外ではないですね」とのこと。
福島市置賜町(おきたまちょう)の路地裏にある「居酒屋ビバフレンド」の女将は言う。
「福島の人は料理に使うというよりも、なんにでもつけて食べるのよね。だからうちでは、各テーブルにマヨネーズボトルを置いていたんだけど、値上がりしたので、最近やめちゃった。かけ放題になっちゃうからね。でも、お客さんに言われたら出すわよ」
そう言うと、厨房からマヨネーズチューブを出してくれた。「天ぷらは塩で」なんて言う人にとっては邪道だろうが、ドジョウの天ぷらにマヨネーズをつけてみると、程よい塩味で、優しい味がした。
お好み焼き屋でなくてもマヨネーズをチューブのまま提供するのが、福島の流儀のようだ。福島市郊外にある「あらい食堂」では、焼き肉定食を注文すると、テーブルの上にいきなりマヨネーズチューブが置かれた。店主に聞くと、とんかつ定食と焼き肉定食、それに冷やし中華には必ずボトルを出すのだという。
「野菜だけでなく、肉にかける人も多いですね。おしゃれなお店では、小皿に分けてちょこんと出すんでしょうけど、福島でうちのような古くからやっている食堂は、ボトルのまま出す店が多いですね」
「あらい食堂」の焼き肉定食はマヨネーズチューブがセットで出てくる
■福島市が日本一のマヨ市になった理由
福島市の隣にある二本松市まで足を延ばしてみた。入ったのは、JR二本松駅から徒歩5分の「ふぅふぅ亭」。同店の看板メニューは、豚骨スープにマヨネーズを混ぜた「マヨとんらーめん」だ。店主の安田文也さんはこう話す。
「ほかのスープでも試したのですが、一番合うのが豚骨でした。かなりの量のマヨネーズを使っていますが、酸味が際立たないように工夫しているので、スープを飲み干すお客さんもいらっしゃいます」
「ふぅふぅ亭」の「マヨとんらーめん」。豚骨スープにマヨネーズをぶち込んだ本品は、まろやかなスープが縮れ太麺に絡んで濃厚な味を楽しめた
その真っ白なスープは、まろやかな味だった。安田さんも、福島市の1位は意外でないようだった。
「マヨネーズを直接飲む後輩もいます。福島県民は、塩分を取る量が全国で一番多いと聞きます。濃い味が好きなんですよね」
郡山市にある「らーめん絆家」には、「まよポン餃子」というメニューがあった。その名のとおり、ポン酢に浸した餃子にマヨネーズがかかっている。
女性店員が「意外な組み合わせですけど、合うんですよね」と言うとおり、ポン酢とマヨネーズの酸味がアクセントとして効いて、意外とさっぱりおいしかった。
「らーめん絆家」の「まよポン餃子」。さっぱりしたポン酢とコクのあるマヨが意外と合う! 餃子のおいしさを引き立てていた
ところで、福島市がマヨネーズ購入額1位になった理由について、取材を重ねる中である仮説が浮かび上がってきた。それは「納豆の需要の高まりとともにマヨネーズの需要も引き上げられたのではないか」。
というのも、今回話を聞いた少なくない人が「納豆にマヨネーズを入れる人がいます」と語っていたのだ。
前出の家計調査によると、昨年、福島市は納豆の購入額も全国1位に輝いた。22年まで4年連続1位だった福島市は、23年に陥落。市がさまざまなキャンペーンを展開して納豆の消費を促したことで、1位に返り咲いたのだ。
そして納豆を食べるときのお供として、多くの家庭でマヨネーズが求められる頻度も上がっていったのではないか――意外と、芯を食っている仮説のような気がする。
