鹿と対面 鹿と対面

『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は、紛らわしい地名混在型ネームについて語る。

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本当のことを言うと、今回はカツサンドについて書く予定でした。手軽さと贅沢(ぜいたく)さを併せ持つ、世界に羽ばたくべき日本生まれの洋食。名物らしく、「元祖」と胸を張るお店はいくつも存在しますが、そのうちのひとつが「銀座ブラジル」という浅草の老舗の喫茶店。

銀座ブラジル浅草店......う? 銀座、ブラジル、浅草。しかも1階のお店は「シカゴ」という靴屋さん。これはこれは、久々に見る高レベルの地名混在型カオスネーム。カツサンド以上の大好物です。

そもそも、「銀座」を冠にした固有名詞が多い。「銀座ワシントン」という靴屋さんも思い出します。店舗が多く、「銀座ワシントン横浜ポルタ店」や「銀座ワシントン阪急三番街店」など、カオスネームが堪能できます。「どこやねん!」と慣れない関西弁が炸裂(さくれつ)しそうです。

調べると、この「ワシントン」の由来はアメリカの首都ワシントンD.C.ではなく、オレゴン州のワシントン街。日本中にある「銀座」と合わせて、そもそも紛らわしい地名がふたつ含まれているところに、さらに魅了されます。

お店以外だと、千葉県の「東京ドイツ村」も有名ですよね。国を「村」に縮小しちゃうテーマパークの大胆さにも脱帽です。ちなみに、東京ディズニーランドの近くには「葛西南高東」という交差点があり、なんだかわからないけど頭の中のコンパスが一度ぐちゃぐちゃになります。似たような例では、「東京都西東京市西原(にしはら)町」や、大阪府の「西中島南方(にしなかじまみなみがた)駅」などもあります。

地名混在型カオスネームは食の分野でもよく見られます。代表例は「名古屋名物 台湾ラーメン アメリカン」。こちらは、名古屋の町中華の名店、味仙(みせん)の看板メニュー「台湾ラーメン」(50年以上前に味仙の主人・郭明優さんが発明。台湾にはありません)の辛さ控えめバージョンの呼び名。

薄めのコーヒーを「アメリカン」と呼ぶことから、辛さ控えめを「アメリカン」、辛さ濃いめを「イタリアン」と表記することで、「どこのなんやねん」メニュー名が生まれました。ちなみに、さらに激辛の「名古屋名物 台湾ラーメン アフリカン」もあります。なぜアフリカなのかはわかりません。

こうしたカオスネームは、ご当地メニューに生じやすいのかもしれません。例えば、昭和42年頃から愛されている青森県のソウルフード「イギリストースト」。青森なのにイギリスですでに混乱ポイント高めなのに、「イギリストースト(富良野メロンクリーム&ミルクホイップ)」なんぞも存在します。ちなみに、このイギリストーストはトーストされていません。

動物のカオスネームにもお気に入りがたくさんあります。世界最小の哺乳類のひとつ、「トウキョウトガリネズミ」。名前にトウキョウとつくものの、東京には生息しておらず、日本では北海道にしかいないそう。理由は、イギリス出身の発見者が「蝦夷(えぞ)」と「江戸(えど)」を間違えて表記したからだそうです。間違いに気づいた段階で変えてもいい気がしますが......。さらにお気に入りは、「ネコハエトリ」。猫? ハエ? 鳥? いいえ、蜘蛛くもです。

また見つけたら報告します。カツサンド情報も。

●市川紗椰
1987年2月14日生まれ。米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。美川憲一さんは"さそり座の女"ではなく、おうし座の男。公式Instagram【@sayaichikawa.official】

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