『ホワイト・ロータス』シーズン3の舞台、タイにて 『ホワイト・ロータス』シーズン3の舞台、タイにて

『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は、人気ブラックコメディ『ホワイト・ロータス』について語る。

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現在、シーズン3が放送されている米ケーブルテレビ局「HBO」の人気ブラックコメディ『The White Lotus』。日本では『ホワイト・ロータス/諸事情だらけのリゾートホテル』という題名でU-NEXTで配信中です。

アメリカではシーズン1放送時から大人気で、エミー賞やゴールデングローブ賞、LGBTQコミュニティにおいての功績をたたえる「GLAADメディア賞」などを受賞。インターネットでは常に、次週の予想や考察で盛り上がっています。

このドラマは、シーズンごとに別の架空のホテルが舞台になっています。シーズン1はハワイ・マウイ島の豪華リゾート、2はイタリア・シチリア島の高級ホテル、そして3はタイ・サムイ島のラグジュアリースパリゾート。

毎シーズン、そのホテルで身元不明の遺体が発見されるシーンから始まります。そこから1週間さかのぼり、宿泊客や従業員に起こった出来事を振り返りながら、誰がいつ、誰にどうやって殺されたかが明らかになっていく筋立てです。

そもそも死体が誰なのかわからないため、通常のミステリーの犯人捜しとは違って、小さな違和感や微妙な人間関係を味わう奇妙な群像劇になっています。最初は会話や映像的な伏線から「この人が死ぬと思う」「この人が誰かを殺す」などと考察しながら見るものの、物語が進むにつれ、バカンスにやって来る富裕層やホテルの従業員たちの秘密が次々と暴かれていき、途中からは登場人物全員が殺しても、殺されてもおかしくないように思えてきます。

シリーズ生みの親マーク・ホワイトは、「人間はひと皮むけばみんな猿」という哲学の下に本作を作ったそうで、階級や人間関係をテーマにした風刺コメディとしての切れ味が抜群です。

シーズン1の中心テーマはお金、2はセックス、3は宗教となっており、「こんなやついるわ~」的なムカつく宿泊者や、くせ者の従業員を登場させて現代を皮肉ってます。ちなみに、登場人物はだいたいクズです。

もうひとつの特徴は、風景の美しさ。誰かが死ぬ前提の物語の感想としてはおかしいでしょうけど、すごく現地に行きたくなります。マウイの海の自然美、シチリアの歴史的な街並み、タイのカラフルな寺院。舞台がひとりの登場人物に思えるほど印象的です。

アホな観光客を強烈に風刺した作品だけど、素直に観光したくなりますし、「自分もこの風刺劇の一員なんだな」とさえ思えます。アメリカでは番組のファンがこぞってロケ地を訪れる現象が、〝ホワイト・ロータス効果〟と呼ばれています。実際に、タイが本拠地の航空会社「バンコク・エアウェイズ」は、サムイ島への便数を増やす計画を明らかにしました。

ちなみに、シーズン3の舞台の候補には日本も挙がっていました。本州一帯の宿や観光地をロケハンし、ほぼ決定したとの噂までありましたが、最終的に選ばれたのはタイ。その背景には、タイ政府からの約6億円の助成金があったとか。

経済効果vsオーバーツーリズムの議論はここではしませんが、日本編が実現したら、観光が復興支援につながるような、被災で大きな被害に遭った土地を舞台にしてもいいのかな、と思います。

●市川紗椰
1987年2月14日生まれ。米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。『ホワイト・ロータス』はロケ地のエッセンスを取り入れた音楽もオススメ。公式Instagram【@sayaichikawa.official】

『市川紗椰のライクの森』は毎週金曜日更新!