ある日、あるとき、ある場所で食べた食事が、その日の気分や体調にあまりにもぴたりとハマることが、ごくまれにある。

それは、飲み食いが好きな僕にとって大げさでなく無上の喜びだし、ベストな選択ができたことに対し、「自分って天才?」と、心密かに脳内でガッツポーズをとってしまう瞬間でもある。

そんな"ハマりメシ"を求め、今日もメシを食い、酒を飲むのです。

* * *

ランチが食べられる店を求めて有楽町を徘徊していた。  

大好きな飲み屋はいくつかあるけれど、それ以外にはうとい有楽町。そこでとりあえず駅周辺をうろついていたら、ある立て看板が目に留まる。 

これ これ
黄色地に黒文字という刺激的な配色で「本日ステーキカレー ¥840」「本日山賊焼きカレー ¥740」と書いてあり、右に矢印が向いている。気になって言われるがままに進んでみると、また看板があってこんどは左向きの矢印。そうして導かれてたどり着いたのは、有楽町高架下センター商店会という趣(おもむき)深い高架下エリア。そこに、コの字カウンターのみの小さなカレー店「ふくてい」があった。  

「有楽町カレー専門店 ふくてい」 「有楽町カレー専門店 ふくてい」
看板には「神田で昭和30年から変わらぬ味」とある。かつては神田のガード下にあり、駅の改修工事の影響でここへ移ってきた店らしい。  

昔ながらのカレーは大好物だ。しかも今日は、通常価格が1100円のステーキカレーが税込840円で食べられるサービスデーらしい。大げさながら運命を感じ、入店。  

入り口の券売機でメニューを見ると、なんとこのご時世、この場所で、基本のカレーライスがたったの500円らしい。その他のトッピングも魅力的で、「とんかつ」が350円、「ハンバーグ」も350円、「エビフライ」が200円、「コロッケ(1コ)」が150円、「コロッケ(2コ)」が220円等々。なんてカレー好きにとって夢のような場所なんだろうか。  

が、ここはやはりステーキカレーだろう。合わせて、唯一あったアルコールメニューである「ハートランドビール 330ml」(680円)の食券も購入。ステーキカレーが260円の割引ということは、考え方を変えればこの瓶ビールが420円であるとも言える。どっちにしろ今、僕が得をしているということは確かだ。  

「ハートランドビール 330ml」   「ハートランドビール 330ml」  
すぐに、本体もジョッキもギンギンに冷えたビールセットがやってきた。まずはこいつでのどを潤し、カレースタンバイ完了。さぁ、どんなカレーでもかかってこい。  

「ステーキカレー」   「ステーキカレー」  
そしてステーキカレーが到着。大きな平皿に、煮込み続けて具材が完全に溶けてしまっている系のカレーライス。そして、ごはんを覆いつくすミディアムレアのステーキ。ステーキが最初からカレーに浸っていない心遣いがいい。米の量が多すぎず、近所なら週に数回は通ってしまいそうな適量なのもいい。真っ赤な福神漬けもいい。もう、全部いい。  

値段からは考えられないボリュームのステーキ 値段からは考えられないボリュームのステーキ
店の情報によればこのステーキは、 柔らかく癖のないニュージーランド産牛肉に牛脂を注入した、いわゆるインジェクションビーフというやつらしい。そう聞くと、加工肉なんだ......とテンションが下がってしまう人もいるかもしれないけれど、創意工夫により安くてうまいものを提供してくれようとするお店の姿勢に、僕はむしろ嬉しくなってしまう。  

まずはステーキから まずはステーキから
そしてまた、まずはカレーにつけず、卓上のおろしポン酢風ソースで食べてみたそれが、じゅわっと旨味あふれる柔らかい肉でめちゃくちゃ美味しい。これはカレーと混ぜてしまうのはもったいないんじゃないかと、そのまま白米をほおばってうっとり。  

昔ながらのカレーライス 昔ながらのカレーライス
続いてカレーを味わう。すると、あぁ、これはいい。やっぱり大好きな味だった。昔ながらのとろりとしたカレーで、甘みもあるけれどそれよりは若干塩気が立っていてドライな印象。それでいて、フルーティーさやスパイシーさもきちんとあるのは、さすが専門店。絶妙なバランスで、通えば通うほどにとりこになってしまいそうな味わいだ。  

いよいよラストスパート いよいよラストスパート
しばらくその両者を交互に味わっていたら、まだステーキとカレーを合わせていないにも関わらず、残りが半分以下になってしまった。そこで意を結し、肉をカレーの海へどぼん。白米と一緒にかっこむと、あぁ、これは背徳の味だ。ステーキにもカレーにも申し訳ないようでいて、しかし噛めば噛むほど両者の相乗効果が口のなかに広がり至福。  

卓上調味料 卓上調味料
卓上調味料が豊富で、僕のようにステーキ単体、カツ類単体を楽しみたい人のため、ステーキソースに加えてとんかつソースが用意されているのも嬉しい。また、「辛みスパイス」はシャープな辛味、「カレーホット」は、どこかラー油っぽい風味とじわじわと増してくる辛味が特徴で、それらでカレーに味変するのも楽しい。  

ラストは大好きな福神漬けをステーキカレーに散らしつつ、あっという間に完食してしまった。こんな素晴らしい料理を、サービスデーとはいえこんな価格で提供してくれるなんて、その企業努力に感服するほかない。 ごちそうさまでした。  

帰る際、ふともう一度サービスメニューリストを見ると、月曜日はハンバーグカレー、火曜日はとんかつカレー、などと日替わりで続くなか、こんな文章に気がついてしまったのには、驚きを通り越してもはや笑ってしまった。  

「ステーキカレーはしばらく毎日サービス価格¥840にて販売いたします」  

このサービス価格、毎日だったの!? いやいや、すごすぎる......。  

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パリッコ

パリッコぱりっこ

1978年東京生まれ。酒場ライター、漫画家、イラストレーター。
著書に『酒場っ子』『つつまし酒』『天国酒場』など。2022年には、長崎県にある波佐見焼の窯元「中善」のブランド「zen to」から、オリジナルの磁器製酒器「#mixcup」も発売した。
公式X【@paricco】

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