ここ数年の「オジサマ週刊誌」における最大のキラーコンテンツといえば、高齢者向けの「死ぬまでセックス特集」だ。

記事に登場する高齢男性を見ると、セックスは週に3、4回なんていうのはザラで、なかには66歳で毎日2回なんていう強者もいる。だが、実際に団塊世代はこんなにも“お盛ん”なのだろうか。

これらの記事の取材をしてきたフリーライターのA氏によると、「カラオケ喫茶やスナックなど熟年世代が集まるところに行って、しっかりリサーチをして記事を作っています」とのことで、信ぴょう性は高いようだ。

また、読者世代である55歳の会社役員・K氏も「鶯谷(うぐいすだに)あたりのラブホテル街に行ってみるといい。入っていくカップルは熟年ばかり。若い世代はほとんどいないよ。それに、ボクが通っているフィットネスクラブに76歳のオジサンがいるんだけど、『毎週金曜は吉原のソープに行ってから、ここに来てプールで泳ぐのが楽しみ』と言ってる」と自信たっぷりに証言。

ではやはり、団塊の世代は“性欲が特別に強い世代”ということなのか?

「それは違うと思いますよ」

そんな推測を断固として否定するのは、まさに団塊の世代、1946年生まれのC氏である。彼は『週刊ポスト』が2012年6月8日号で初めて特集を組んでから、その後もたびたび取り上げている雑誌『性生活報告』の編集者だ。

同誌は創刊33年。誌面はすべて、高齢の読者からの投稿によって作られている。<妻が別人のように燃えた金婚式の夜><出征前夜、私は母を抱きました>など、レトロで刺激的なタイトルが並ぶが、「出征前夜」の話などは、団塊世代のC氏にとっても過去のことである。

「こういう雑誌に長年、関わってきた経験から言うと、『こんな時代だから』とか『この世代は』といった視点で“性への欲求”を語ることはできないと思います」

『HOW TO SEX』世代は飢えにどん欲

そんな力強い証言がある一方で、団塊世代よりも少し下の58歳、現代日本のセックス事情全般に精通し、多くの著書で考察を重ねている作家・本橋信宏氏はこう言う。

「とはいえ、団塊世代というのは“フリーセックス第1世代”です。1971年から『HOW TO SEX』(奈良林祥[ならばやしやすし]著 ベストセラーズ)シリーズが出版され、250万部を超える大ベストセラーとなりました。私も中学生のときに読んで人生観が変わるほどの衝撃を覚えましたが、団塊世代はこれを大学生のときに読んでいる、その世代的な経験はとても大きいと思います」

『HOW TO SEX』は、当時としては画期的なカラー写真入りで性の技巧を解説したもの。セックス・ハウツー本は、例えば1990年代に『ジョアンナの愛し方』(飛鳥新社、後に小学館文庫)なども話題となったが、本書を超えるベストセラーはいまだ生まれていない。

『HOW TO SEX』出版の1971年当時、セックスは今のようにオープンでなく、まだまだベールの向こうのものだった。当時のセックスの知識への“餓え”が、250万部という大ヒットにつながったのは間違いない。そして、団塊世代はこの“餓え”を、今も心の中に持っているらしい。

「彼らは今でも“性の情報”が足りない、と感じているのではないでしょうか。エロ本がどんどん少なくなり、『トゥナイト』『ギルガメッシュないと』といったエロをテーマにした地上波テレビも規制されてしまいました。その一方、エロ情報があふれているネットはまともに扱えない」(前出・A氏)

オジサマ週刊誌のセックス特集はその穴を埋めてくれる存在、というわけか。

「さらに言えばバイアグラ、シアリス、レビトラといったED(勃起障害)治療薬の普及も無視できないはず。現代の中高年は、薬の力で勃起することができる。また、いわゆる『大人のオモチャ』も市民権を得ました。10年~20年ぐらい前は、女性とホテルに入ってバイブを出そうものなら『変態!?』とにらまれたものですが、今はそんなこともない。テクノロジーの発達や価値観の変化が現代の高齢者たちの“ギンギン”を支えている側面もあると思います」(本橋氏)

さて、ここで最後の問いだ。今の30代、40代は、60代になってもセックスをエンジョイできるだろうか?

「もし、こういう記事を熱心に読む高齢者たちのことを“いい年してセックスにガツガツするなんて、みっともない”と思っているならば、その人は60代になっても良いセックスはできないと思います。高齢者の方たちは、若い人たちが知らない、奥深い世界を探究しています。セックスだけでなく、食べることも、芸術を鑑賞することも、その行為の向こうにある“味わい”を求めてのことですよ。それを『官能』というんです」(前出・A氏)

セックスに飽きるのは、それを“知った気”になっているから、ということなのか。