FANZAはファッションブランド「#FR2」とコラボしたギャラリースペースを東京・原宿にオープン。店頭にはFANZAの巨大ロゴが

「DMM.R18」が生まれ変わった。その名も「FANZA(ファンザ)」。DMM本体から離別した日本最大のアダルトポータルサイトは、今後どうなっていくのか、関係者を取材した。

■新名称の評判は「かなり微妙」

国内における最大のアダルトポータルサイト『DMM.R18』は、同ブランド名を『FANZA(ファンザ)』に変更し、8月1日からサービスを開始した。業界関係者D氏はこの事情をこう説明する。

「旧DMM.R18は、『DMM.com』のアダルト部門です。かつて本体だったDMMグループは、近年、FXや太陽光発電に乗り出し、ベルギーのサッカーチームを買収するなど複合企業として急成長していて、より企業価値をアップさせるために、今年3月にアダルト部門を分社化。

2017年12月に設立された株式会社『デジタルコマース』が、旧DMM.R18の事業をすべて継承することになりました。

DMMは売り上げが約2200億円(2018年2月期見込み)、会員数は約2900万人で、このうち『R18』が占める比率は公表されていませんが、国内最大のアダルトポータルサイトですので、今後の売り上げに大きく影響するでしょう。『R18』にとっても、DMMブランドを頼れなくなるわけで、大変だと思います」

そして分社から約半年の準備期間を経て発表されたのが、「FANZA」への名称変更だった。

ただこの新名称、ユーザーの評判はいまいち。AVライターのN氏がこう話す。

「とっつきにくい名前ですよね。AVファンからも、『柔軟剤みたい』『なぜ、エロをイメージさせるわかりやすい名前にしなかったのか?』といった意見をよく聞きます」

FANZAは8月1日からリニューアル・キャンペーンを実施している。

「ひとつは、多数の成人コンテンツの半額値引き。これは大変うれしい。ただ、もうひとつは、微妙です。なぜか裏原宿の有名ブランドと組んでショップ兼ギャラリーをオープンしているんです。何かズレている感が否めないですね」(前出・AVライターN氏)

FANZAはいったい、どこに向かおうとしているのか? そこで運営を直撃取材することにした。

8月1日からFANZAが原宿にオープンしたギャラリースペースの内部。Tシャツなどのオリジナルグッズも販売されている

■ニューヨークの一流広告代理店とタッグ

取材に答えてくれたのは、株式会社デジタルコマース広報部・FANZA広報担当者。まず聞いたのは社名の由来だ。

「弊社が扱う成人コンテンツは人の『妄想』や『幻想』に訴えていくもの。だから、FANZAの『FAN』は『FANTASY(ファンタジー)』のFANから取りました。そして、『ZA』にはふたつの意味があり、ひとつは『座』。人が集まる場所という意味です。

もうひとつは『A to Z』。つまり、AからZまですべてそろえている、ということ。総合するとFANZAは『人間のファンタジーを、AからZまですべてそろえている場所』という意味になります」

この名称とロゴは米ニューヨークが拠点の企業、コリンズ社が手がけた。同社はナイキ、フォード、マイクロソフトなど錚々(そうそう)たるクライアントと仕事をしてきた実績を持つブランドエージェンシーだ。

「いずれ海外での展開もあるかもしれないと考え、英語圏でも意味の通じやすい名前にしたかったんです。また、海外から見た日本の性文化の特異性は、NYにいる彼らならよりハッキリと感じ取ってもらえるだろうと思い依頼しました」(広報担当者、以下同)

コリンズ社はおよそ1週間にわたって、東京のさまざまな箇所を巡り、いろいろな人にインタビューしたという。

「それこそ、秋葉原から新宿歌舞伎町まで、20歳の男子大学生やメイド喫茶のオーナー、文化人類学者まで幅広く。この入念なリサーチの結果、コリンズ社は『日本人の性はファンタジーとリアリティの奇妙な分断がある』という着眼点にたどり着きました。

日本人は、妄想は妄想として楽しみ、現実とは異なるものとしてはっきり区分けしている、という特徴です。これが『FANZA』の由来のベースになっています」

ただ、ブランド名変更に対しては一抹の不安もあった。

「過去に名称変更を行なった経験のある、さまざまなブランドの事例を調べたのですが、新しい名前が定着するまでにはとても時間がかかるというのを感じました。旧DMM.R18も長年皆さまに愛されてきた名前ですので、FANZAも時間が必要でしょう。ただ、事業をより発展させるため、この名前を広めていこうと今は決意しています。

なんにせよ、FANZAは今後、新しいユーザー層を獲得しなければなりません。そこで名称変更を機に、従来のプロモーションとは少し異なる取り組みをしてみよう、ということになりました」

こうして編み出されたのが、今回のプロモーションだった。ストリートファッションブランド「#FR2」とコラボで期間限定のアパレルショップをオープン。店舗内には、エロティックな妄想を喚起させるアートギャラリー「#sorame(そらめ)」が開催されている(8月22日まで)。

ギャラリースペースには写真家の梅川良満氏が撮影した『#sorame(そらめ)』写真の展示も。「エロくないのにエロく見える」というのがコンセプト

ほかにもラッパーやマンガ家など、クリエイターや文化人がエロについて語る『FANZA Magazine』というサイトもスタート。ただ、これらは一部AVファンからは「これじゃない」などと揶揄(やゆ)されている部分だ。

「確かに旧DMM.R18が従来行なってきたプロモーションとは大きく毛色が異なると思います。何よりもまず、誰も脱いでいないですからね。既存のお客さまから疑問視されている点は真摯(しんし)に受け止めたいと思っています。ただ、それでもFANZAの今後の展開を楽しみにしてください、と訴えていきたいです」

業界代表として、AV監督のカンパニー松尾氏はFANZAについてこう話す。

「今回、FANZAさんの名称変更とアパレルのオープンでいろいろ言われているみたいだけど、僕はそんなに不思議なことと思えない。その昔、DMMは北都というAVメーカーだったけど、その時代からチャレンジ精神があふれていた。

それに最近のAV業界って、女性への出演強要問題などでネガティブな形で注目されていたじゃない? そのなかで、こういうキャンペーンはいいチャレンジ。今後どうなるか見ていきたいよね」

★『週刊プレイボーイ』36号(8月20日発売)特集記事「今月変更したブランド名が「エロサイトっぽくない!」「なじみにくい」そんな評判を覆せるか!?DMM.R18がFANZAになったワケ!!」より