アジア太平洋地域に広域経済圏をつくろうというTPP交渉。TPP交渉国に2013年内の交渉妥結をしつこく迫っていたのはアメリカのオバマ政権だった。この要求に唯々諾々(いいだくだく)と従い、安倍首相は、「TPP交渉の年内妥結に向け、日本が主導的な役割を果たしてみせる」と、国内外に豪語してきた。

なぜ、日米は年内妥結にこだわったのか? TPP交渉に詳しい郭洋春(カク・ヤンチュン)立教大経済学部長が説明する。

「オバマ大統領の狙いは今年秋に予定されている中間選挙対策。TPP妥結をオバマ政権の成果として大々的に国民にアピールし、中間選挙を有利に戦おうという思惑です。安倍首相はこの春の消費税アップ対策でしょう。8%上げで費が冷え込むのは確実。そうなればアベノミクス景気が中折れし、政権支持率が下落しかねない。それを防ぐには成長戦略をしっかりと打ち出さないといけない。その成長戦略の目玉として、安倍首相はどうしてもTPP妥結という成果を示したかったのです」

なるほど、オバマ大統領も安倍首相もTPPをテコに、政権浮上を狙っていたというわけか。

だが、両首脳のもくろみはあっさりと崩れてしまった。TPP参加12ヵ国の交渉はもつれにもつれ、2013年内の妥結は結局できなかったのだ。 これまで3度にわたってTPPの利害関係者会議などに参加し、交渉をウオッチしてきたアジア太平洋資料センターの内田聖子事務局長が言う。

「交渉がもつれた最大の原因はアメリカの超わがままぶりに、ほかの交渉国が激しく反発したためです。特に、各国に妥結をあれだけ急(せ)かしておきながら、肝心のオバマ大統領が予算不成立を理由に、昨年10月のTPP首脳会合に欠席したことが大きかった。これで交渉国の間に、強硬に自国の言い分だけを主張し、まったく妥協に応じようとしないアメリカへの不満、しらけムードが一気に高まってしまったのです」

なかでも態度を硬化させたのがマレーシア、チリ、ベトナムといった国々だ。

「アメリカの言いなりにはならない。2013年中のTPP調印なんて不可能」(マレーシア・ラザク首相)

と、そっぽを向いてしまったから大変。さすがのアメリカもこれには2013年内の妥結は無理と認めざるを得なくなってしまった。内田氏が続ける。

「合意できなかったのは、関税の削減や撤廃を目指す物品市場アクセスの分野だけではない。ジェネリック薬(後発医薬品)の扱いをどうするかといった知的財産、公共事業の発注ルールなどを定める政府調達など、非関税障壁分野でもアメリカと他国の意見の違いは大きく、そうそう簡単には調整はつきそうにもありません」

アメリカに対する各国の不満の強さを示すエピソードがある。昨年暮れ、交渉の越年化に焦ったフロマン米通商代表がほかの参加国にこう提案した。

「1月22日からスイスでダボス会議があり、出席の予定だ。その機会を利用して、交渉の続きをやらないか?」

すると、各国からこんな反応が返ってきたという。

「各国の交渉官から一斉にブーイングの声が上がったんです。『なぜフロマンの都合に合わせて、こちらがスイスまで出かけなくてはならないんだ』と、吐き捨てる交渉官もいたほどでした」(前出・内田氏)

TPP交渉でオバマ米政権は総スカンを食らっている、それが妥結できない最大の理由なのだ。

■週刊プレイボーイ5号「アメリカのゴーマンぶりに日本以外の参加国はぶち切れ中!!『TPP』は“2014年妥結”も無理だ!!」より