昨年、日本経済で最大のトピックスとなったTPP問題。反対派、推進派、それぞれの意見交換も十分になされぬまま、TPP交渉への参加が確定した。
アジア太平洋地域に広域経済圏をつくろうというTPPでは、参加国間の関税が原則撤廃されるため、安価に輸入できる反面、国内産業の保護が難しくなる。
まさに日本の産業界にとってターニングポイントとなりえるTPPだが、「2013年内の妥結」が目標だったにもかかわらず、あっさりと年を越してしまった。
そう簡単に、交渉参加12カ国の意見がまとまるわけもない。だが、今、交渉の席で孤立感を深めているのは日本だと語るのは、TPP交渉に詳しい郭洋春(カク・ヤンチュン)立教大経済学部長だ。
「安倍政権はTPP交渉入りにあたって、コメなど5分野586品目の関税だけは守ってみせると公約してきました。これはアメリカが敏感になっている日本車の輸入関税撤廃を、協定発効から20年先にするなどの妥協を日本がすれば、アメリカも聖域5分野については関税撤廃の例外扱いにしてくれるという期待があったから。アメリカとの交渉さえまとめてしまえば、ほかの交渉国も追随するしかないだろうと、日本は高をくくっていたのです。
しかし、いざ交渉が始まると、日米を除く10ヵ国は『関税撤廃に聖域などない』と、原則的な立場を崩す気配はない。頼みとするアメリカも10ヵ国の主張に同調し、日本へのサポートはない。当初の目算が狂い、日本は今、窮地に陥っています」
TPP交渉の行方は、今後どうなるのか? これまで3度にわたってTPPの利害関係者会議などに参加し、交渉をウオッチしてきたアジア太平洋資料センターの内田聖子事務局長が言う。
「2月にTPP閣僚会合、4月にオバマ大統領のアジア歴訪が予定されています。もしこの時期までに合意できなければ、WTOのドーハラウンド交渉が何年かけてもまとまらなかったように、TPP交渉も各国の利害が対立し、ずるずると長期化することになるでしょう」
前出の郭氏もうなずく。
「交渉が越年したことで、アメリカ国内ではTPP妥結を急ぐことはないという世論が大きくなっています。米韓FTA並みに、アメリカが絶対有利な枠組みにならないかぎり、TPPの早期妥結は不要という論調です。オバマ政権にしても秋の中間選挙までに妥結できなければ、TPP交渉を急ぐ必要はなくなってしまう。事実、交渉を担当するフロマン米通商代表も『TPP交渉は中身が大事。中身のない合意はすべきでない』と、微妙に発言を変化させています。おそらく、今後は各国ともTPPの中身をしっかり吟味するようになるはず。当然、TPP交渉は長期化することになるでしょう」
となると、安倍政権も仕切り直しを迫られるのか?
「TPPをアベノミクスの成長戦略の目玉にしようというのが安倍首相の願望でした。しかし、その思惑はもはや頓挫寸前です。そもそもTPPは日本にとって、得るものが少ない一方で、失うものが大というシロモノです。交渉の長期化でアベノミクスに役立たない可能性が高くなった今、政府与党はTPPに固執するべきではありません。安倍政権はTPPに代わる、別の成長戦略をひねり出すべきだと思います」(前出・郭氏)
TPP交渉は泥沼化している、というのが実情のようだ。