日本を含めた同盟国との関係がリスク化している米国。この「同盟危機」は中国やロシア、中東における政治リスクよりも深刻という調査結果が発表されました。

「ユーラシア・グループ」という名前をご存じでしょうか。ビジネス環境や金融市場に影響を与える“政治リスク”や“地政学リスク”を分析するコンサルティング企業で、国際政治学者のイアン・ブレマー氏が社長を務めています。米国内のみならず世界中に顧客を持っており、日本の企業もかなりの数が名を連ねているようです。

同社は毎年1月に「世界10大政治リスク」を発表しています。2014年は次のとおりでした。

(1)難局に立つ米国の同盟関係、(2)新興国の多様化、(3)新しい中国、(4)イラン、(5)産油国、(6)戦略的データ、(7)アルカイダ2.0、(8)中東の動揺の広がり、(9)ロシアの気まぐれな大統領府、(10)トルコ。

注目すべきは、アラブ中東地域の問題を数多くピックアップしていること。米国民の同地域への関心の強さがうかがえるとともに、第二次オバマ政権の国務長官に、中東問題に強いジョン・ケリー氏が起用されたのもうなずけます。

オバマ大統領は昨年11月の“歴史的一歩”―イランとの核問題合意を皮切りに、今年中にはシリア内戦を終結させると表明している。2009年のノーベル平和賞受賞が間違いでなかったと証明するためにも、なんとしても任期中に中東和平の立役者になろうという心づもりでしょう。

ただ、中東の諸問題や中国、ロシアを押しのけて1位に挙がったのは、「米国の同盟危機」。もちろん、この中には日本も含まれています。

実は昨年の「10大リスク」でも、この問題は「JIBs(ジャイブス)」という呼称でランクインしていました。JIBsとは日本、イスラエル、イギリスを指し、いずれも米国の同盟国でありながら、その重要な役割をまっとうできなくなりつつある、という指摘でした。

昨年11月、アメリカがイランとの核問題合意にようやくこぎ着けた際、強く反発したのはイスラエルだった。イギリスは欧州経済危機において重要な役割を果たせなかった。そして日本は、尖閣諸島をめぐる問題や靖国神社参拝などで周辺国を刺激し、東アジアの安定に貢献できなかった。

靖国参拝に関して日本のメディアは「米国が失望した」という表現を使っていましたが、ボストンに住むぼくの肌感覚では、現地の知識人の間にはむしろ「あきらめ」が漂い始めているように思います。

また、その一方で、JIBsにフラストレーションをためる米国自身の相対的な影響力も低下しつつある。「(米国との同盟を堅持する以外に)選択肢がほとんどないJIBs」以外の中堅同盟国―ドイツ、フランス、トルコ、サウジアラビア、ブラジルなどは、次第に米国と距離をとり始めるだろうとブレマー氏は予想しています。

「10大リスク」は一民間企業による調査結果であり、絶対視する必要はありませんが、貴重な参考資料であるとぼくは考えます。リスクに鈍感な国や国民は、国際的な潮流に必ず乗り遅れてしまう。国際政治をめぐるリスクは、確実に自分たちの生存空間にまで影響を及ぼす。そのことを肝に銘じ、他人事などと思わずにウオッチしていく必要があるでしょう。

それと、日本がリスクとして認識されていることは、ある意味ではプラスにとらえることもできます。なぜなら、真に影響力のない国はリスクですらないから。リスクと見られているうちが華、という考え方もできる。ぼくもいつか、個人名でこの「10大リスク」に名を連ねたい。それだけの影響力を持つプレイヤーになりたいと大まじめに思っています。

昨今の国際情勢を見る限り、日本はいつか、米国にとってリスクですらなくなる日が来るような気がしてなりません。前述したボストンにおける「あきらめ」の雰囲気は、その第一歩なのかもしれない。これ以上に屈辱的な「同盟関係」があるというなら、逆に教えて!!

●加藤嘉一(かとう・よしかず)日本語、中国語、英語でコラムを書く国際コラムニスト。1984年生まれ、静岡県出身。高校卒業後、単身で北京大学へ留学、同大学国際関係学院修士課程修了。2012年8月、約10年間暮らした中国を離れ渡米。現在はハーバード大学アジアセンターフェロー。最新刊『不器用を武器にする41の方法』(サンマーク出版)のほか、『逆転思考 激動の中国、ぼくは駆け抜けた』(小社刊)など著書多数。中国の今後を考えるプロジェクト「加藤嘉一中国研究会」も始動!http://katoyoshikazu.com/china-study-group/