災害など有事が発生した際、皆さんは何を頼りますか? 行政やメディア以外に、自分の“命綱”となる「コミュニティ」はお持ちでしょうか?

日本はようやく気温が上がり始め、春めいてきたようですが、2月には関東甲信越地方でも2度、異例の大雪による被害が出ました。

実は、米東海岸も今冬はたびたび大寒波に襲われ、ニューヨーク州とニュージャージー州で非常事態宣言が発令されました。ぼくが住むボストンエリアも寒さが厳しく、冬の間はほとんど雪の中で過ごしたような気がします。

雪に慣れたボストンの人々はたくましい。ランニング愛好家が多い土地で、彼らは地面が凍っていようが自分のルーティンを守り、何度も転倒しながら雪の中をひたすら走ります。ひとりのシティズン(市民)として、立ち往生している人がいれば助け、雪かきも自分の家の前だけでなく、率先して行なう。先日も近所を歩いていたら、雪かきをしている人から「おまえもここに住む人間なら雪かきを手伝え。じゃないと罰金だぞ」とからかわれました。

大雪のような災害時に必要なのは、「危機に強い行政」と「自助努力する市民」だとぼくは学びました。

驚くべきは決断の早さです。ある大雪の日、ぼくの携帯電話に突然、こんなコールがありました。

「This is FBI」

何事かと思いましたが、「雪で危険なので極力、外に出ないように」という要件だけを伝えると、15秒ほどで電話は切れました。もちろんイタズラではありません。まさかあのFBIが、そんなことで連絡してくるとは。サプライズでした。

また、ぼくの住居があるケンブリッジでは、ハーバード大学が地域社会の中心を担っていますが、「今日は大雪なので授業は中止」といった連絡の伝達がとにかく迅速。しかも大学の公式なメーリングリストに加え、3、4人の知人から次々と同じ情報が伝わってくる。大学関係者以外もこうした情報を自らのルートで手に入れ、「今日は外に出ないほうがいい」などと判断する。

多くのチャンネルを通じて情報を発信し、それを皆で共有する―。社会の中で「コミュニティ」が機能していることを実感しました。

便利で完成されすぎた社会が「コミュニティ」を希薄にしている

アメリカも中国も、日本ほどすべてがきっちりしておらず、災害に限らずトラブルは日常茶飯事。停電だ、大雪だ、渋滞だ、といちいち狼狽していたら生きていけない。だからこそ、有事の際に機能するネットワークとしてのコミュニティが発達するのでしょう。

思い出したのが、ある日本の実業家から「日本型の介護施設を中国でやってみたい」と相談されたときのこと。ぼくは「流行らない」と即答しました。中国人の多くは自分の親を赤の他人に預けたがらない。それよりも、家族や親戚、近所の人たちなどで形成したコミュニティで面倒を見るべく協力し合う。

こうしたコミュニティは、いい意味で“お上”(行政や、広義ではメディアも含む)を信じていない。ぼくはこれを「健全な性悪説」と呼んでいます。逆に、日本では「非健全な性善説」がまかり通っている。例えば、大雪の情報はNHKに頼りきりではありませんでしたか?

何か起きたら、米中では自ら情報を集める。日本ではテレビをつける。情報源がひとつでは危険だし、もし停電が起きたらどうするのか。危機管理としてどちらが健全か。

何事にも用意周到で、トラブルが起きないよう心がける日本人の気質は素晴らしい。しかし、便利で完成されすぎた社会が「コミュニティ」を希薄にしていると感じるのはぼくだけでしょうか。いざ想定外の事態に直面したとき、何もできないようでは市民社会としてもろすぎます。

お上に対する健全な猜疑心(さいぎしん)を有し、それをチェックできるだけのネットワークを持つ―これに勝る危機管理方法があるなら、逆に教えて!

●加藤嘉一(かとう・よしかず) 日本語、中国語、英語でコラムを書く国際コラムニスト。1984年生まれ、静岡県出身。高校卒業後、単身で北京大学へ留学、同大学国際関係学院修士課程修了。2012年8月、約10年間暮らした中国を離れ渡米。現在はハーバード大学アジアセンターフェロー。最新刊『不器用を武器にする41の方法』(サンマーク出版)のほか、『逆転思考 激動の中国、ぼくは駆け抜けた』(小社刊)など著書多数。中国の今後を考えるプロジェクト「加藤嘉一中国研究会」も始動! http://katoyoshikazu.com/china-study-group/