今年の春闘では、大手をはじめ多くの企業が軒並み給料のベースアップを発表。いよいよ庶民にも好景気の実感がやってきそうだ。
円高を解消し、所得増も実現。順調にアベノミクスを進める安倍首相だけに、これで長期政権も見えてきたかと思いきや、「地雷が潜んでいる」と大物の自民党関係者M氏は言う。
「アベノミクスでボロ儲けしたのは銀行や証券会社などの金融機関さ。製造業や流通業などの増収はわずかなのに、安倍政権から拝み倒されるような形で給料のベースアップに応じた。でも、利益を追求する企業体が政府に頼まれたからって素直に言うことを聞くかい? 実は裏側に密約があったんだよ」
安倍政権と企業の間に交わされた密約とは?
「法人税の減税さ。安倍政権は来年度からの法人税引き下げを取引材料にして、春闘で“ベア”を引き出した。見せかけの好景気感を国民に味わわせて少しでも消費の冷え込みを抑え、年末の増税判断に必要な数値上の経済成長につなげたい一心なんだ。まさにその場しのぎの政策さ」
しかしこの法人税減税が、安倍政権の命取りになるかもしれないというのだ。
「法人税減税は6月の成長戦略の目玉として盛り込まれると思う。しかしこれは財政赤字の拡大を嫌う財務省にとってはイヤな政策なんだ。おそらく財務省は法人税減税を容認する代わりに、安倍内閣にふたつの交換条件をつけたと思う。
ひとつ目は年末の消費税率アップの判断を是が非でも断行すること。そしてふたつ目が、『課税ベース』(課税対象)の拡大だ。
日本の法人税率は世界的に見て高いといわれているが、政治献金やロビー活動、選挙協力などで政治に深く関与している業界は『租税特別措置法』で大幅に優遇されている。さらに経費で認められる項目も諸外国よりも多く、実質的な税率は高くない。このような業界ごとのバラつきをなくし、課税対象を公平に広げることを『課税ベース』の拡大というんだ」(M氏)
既得権益者たちが安倍政権の足を引っ張る?
公平性が増すのなら、法人税減税と課税ベースの拡大をセットでやるのは悪くない政策に見える。これのどこが地雷になるのか?
「今まで優遇税制で暴利をむさぼっていた連中が、素直に課税ベースの拡大を受け入れるとは思えないんだよ。だって彼らは政治資金の提供や選挙協力などで特権を勝ち取ってきたんだから。優遇措置の撤廃に土壇場で抵抗するんじゃないかな。
そうした既得権益者からの支援で議席を得ている議員たちは彼らの利益を代弁するから、安倍さんの足を引っ張ることになる。来年の総裁選で安倍さんが引きずり下ろされる可能性は十分にあるよ。
逆に自民党内にばかり気をつかって課税ベースの拡大を先送りにすれば、今度は財務省が全力で倒閣運動を展開するだろう。財務省を敵に回して政権を維持するのは非常に難しいことだからね」(M氏)
外ばかりに目を向けていたら、内部から足をすくわれる。ベアと引き換えの法人税減税は、安倍政権の命取りになるかもしれない危険な政策のようだ。
(取材/菅沼 慶)