安倍内閣の支持率が5割を切ったという報道を、しばしば見かけるようになった。
メディアによって数値にバラツキがあるため、真の支持率は見えにくいが、それでもおしなべて5割以上をキープ。発足から1年3ヶ月が経過してこの数字は、近年の歴代首相の中ではトップクラスだ。
だが、安倍首相の前に立ちはだかっているのが、実は来年9月の自民党総裁選だ。国民が投票できる衆院選は、任期満了の場合、2016年。自民党の党員や党友からの支持率は石破幹事長がナンバーワンなので、もし国会議員票が離れてしまえば、来年の総裁選で安倍首相が負ける可能性も大いにあるのだ。
そこで、安倍首相が党内の不満を抑えつける強力な武器が、衆議院の“解散カード”だ。300人近くいる自民党議員の約半数は民主党政権時代に浪人生活を経験しており、任期ギリギリまで選挙をやりたくないのが本音。だから安倍首相は、「四の五の文句言うなら解散しちゃうぞ!」という脅しを身内に向けて黙らせることが可能なのだ。
しかし、今の安倍首相は解散カードを持っていないという。いったいどういうことか? 大物の自民党関係者M氏が解説してくれた。
「この前の衆院選挙は、司法から“違憲状態”との判断が下されました。最大で2・43倍に開いた“1票の格差”が理由です。それを受けて衆院は次回の総選挙から議席数を『0増5減』することを決め、1票の最大格差を1・998倍とした。
これで違憲状態ではなくなったと考えている人が多いようですが、そうではありません。裁判所は、『0増5減』という努力をしたことを評価して経過を見守っているにすぎない。現状でもほぼ2倍の格差があるので、今のままでは再び違憲状態との判断が下されるかもしれない。
このように世論からの批判を浴びそうな状態で解散総選挙をすることは非常にリスクが大きいので、任期満了の少し前や政権が本当に追い込まれたとき以外での解散は難しい。つまり、党内の不満分子を黙らせる目的で解散カードをチラつかせることは事実上不可能なのです」
選挙制度改革で与野党の逆転が起こる?
M氏が続ける。
「安倍首相もそこらへんは十分理解しており、解散カードを使用可能にするべく動き始めています。まず、衆院の選挙制度改革の具体案を有識者が話し合う第三者機関を国会に設置することで、野党5党(共産党と社民党以外)と合意しました。
しかし、自民党は小選挙区に議員を多く抱えるため『比例区のみ30議席削減』を主張している一方、野党側は小選挙区の定数も削減すべしと『5増30減』と『3増18減』の2案を共同提案しています。さらに公明党は、本音では中選挙区制の復活を望んでおり、意見の一致は簡単にいかない様相です。
ただ、野党としては、やはり早く次の選挙をやりたい。安倍さんに解散カードを持たせておけば、いつ錯乱状態に陥ってヤケクソ解散してくれるかもしれない。だから野党側が安倍さんに歩み寄り、意外とスムーズに選挙制度改革が進む可能性もある。逆にそうはさせたくないのがつまり自民党内のアンチ安倍派という、与野党が逆転した現象が起こる場合もあり得るんですよ。
安倍さんとしては、解散カードは来年9月の自民党総裁選の前に“使える状態”にしないと意味がない。選挙区の区割りを変更するには国会で可決・成立させる必要があるので、第三者機関の答申は今年の夏か、遅くても秋の臨時国会に間に合う形で出される必要があると思います」
長期政権に向けて安倍首相がやらねばならぬことは、いろいろある。
(取材/菅沼 慶)