消費税率が8%へと引き上げられて、約1週間が経過した。

ガソリンやトイレットペーパーなど、増税前の駆け込み消費が発生した一部の日用品で売り上げが急落しているとの報道もあるが、これはあくまで一時的なもの。この春闘では各企業が給与のベースアップを行なうなど、アベノミクス効果で日本の景気は上昇中であり、まったく財源が足りていない社会保障費を補うには、今回の消費増税はいい時期に行なわれたようにも見える。

だが、まったく逆の見方をするのは、経済アナリストの森永卓郎氏だ。

「アベノミクスで景気回復だとか、今年の春闘では久しぶりに賃金のベースアップが達成されたとか騒いでいますが、今のタイミングで増税することは自殺行為としか言いようがありません」

どういうことか? 森永氏が続ける。

「ベースアップといっても、トヨタでさえひと月たった2700円のアップです。全企業を平均すると0.5%程度の賃金上昇にすぎません。一方、物価は増税分と合わせて約4%も上昇しますから、実質的には約3.5%も賃金が目減りしたことになるのです。これは戦後最大の所得減少ですよ」

補足説明すると、今回の増税率は3%だが、消費税は保険や医療、教育など、適用外の分野もある。その分を差し引くと、概算で約2.5%、物価が上昇することになる。さらに総務省統計局が発表したデータによると、今年2月の消費者物価指数は昨年の同月と比べて1.5%の上昇だった。

つまり今回、日本の物価は(2.5と1.5を足して)昨年比で約4%上昇した計算になる。一方、賃金は0.5%しか上がらないのだから、日本国民は実質的に3.5%貧しくなったともいえる。景気回復を実感できない人が多いのも当然だろう。

1997年の消費増税以降、日本経済はどうなったか?

さらに安倍政権は、来年10月からの再増税(8%から10%)を今年12月に決断することが濃厚だ。そうなれば日本の景気はどうなってしまうのか?

「日本の経済構造は(輸出産業や外国人観光客に依存する体質ではなく)内需型。約6割は国内消費でもっている経済なのです。急激に消費が冷え込めば影響が甚大なのは明らかです。

しかも今はタイミングが最悪です。ちょうど来年、東日本大震災の復興予算が切れるのです。これは阪神・淡路大震災後の復興特需が切れた直後の1997年に消費税を上げた橋本内閣のときと同じパターン。その後の日本経済がどうなったか、それは皆さんがご存じのはずです」(森永氏)

考えられる最悪のシナリオはこうだ。

「消費がガタ落ちして物価が下がり、リストラの嵐が吹き荒れて失業率が上がる可能性が高いです。つまりデフレに逆戻りですが、もし日銀がデフレを嫌ってさらなる金融緩和を行なえば、所得が下がって物価が上がる、スタグフレーションに突入する恐れも考えられます」(森永氏)

不況(スタグネーション)にもかかわらず、物価が上がり続ける(インフレーション)、いわば最悪の経済状況ともいえるスタグフレーション。見せかけの景気回復と立て続けの増税で、日本経済は戦後最大の危機を迎えるかもしれない。

(取材/菅沼 慶)

■週刊プレイボーイ16号「『将来世代のため』なんて真っ赤なウソ!! 消費増税分8兆円はアベノミクスの“数字合わせ”に消える……」より