2015年度から小学校で使われる社会科の教科書で、竹島と尖閣諸島を「日本固有の領土」と明記したものが文部科学省の検定に合格したことに対し、中国がさっそく反発を強めている。

予想通りの“嫌がらせ”、もしくは外交上の“駆け引き”といったところだが、懸念されるのは、近年、中国が尖閣諸島に対して実力行使にも出ているという点である。

尖閣の近海では、中国公船の出没事例が後を絶たない。同海域で今も操業を続けている与那国島与那国町漁業協同組合の中島勝治組合長は、その実態をこう説明する。

「『中国公船が領海侵犯を行なった』というニュースが報じられるときは、日本の漁船が尖閣周辺の日本領海内で操業しているときなんだよね。中国公船は、われわれ日本漁船を見つけると追いかけてくる。海上保安庁の巡視船が間に入って、体を張って守ってくれていますよ」

さらに、中国の漁船も大挙して尖閣近海へ押し寄せている。2010年に尖閣近海で中国漁船が日本の海保船に体当たりした映像を公開した、元海上保安官の一色正春氏はこう説明する。

「東シナ海の北緯27度以南における排他的経済水域(領海は除く)の大半では、日中漁業協定により、日本では違法とされる漁法で中国漁船が操業していたとしても、日本の官憲はそれを取り締まれない。その結果、数に勝る中国漁船に漁業資源を好き放題に獲られているのが現状です。その不利な条件のなかで、沖縄の漁民の皆さんは頑張っています」

それでも与那国漁協の中島氏は、「われわれは『尖閣に行き続けることこそ意義がある』と思っている。これからも行くよ」と言う。

しかし、最前線に立つ海保と漁民は、中国の物量作戦の前に消耗戦を強いられている。さらに実効支配が既成事実化してくれば、日本漁船が中国公船による臨検(船に乗り移って行なう立ち入り検査)の対象となるのも時間の問題かもしれない。

尖閣上空も、完全に中国が抑えている

また、海だけでなく、上空でも事態は緊迫化している。例えば今年1月7日、尖閣付近の日本の防空識別圏に、中国海監のY-12航空機が侵入した。各国海軍の取材経験が豊富なカメラマン、柿谷哲也氏はこう語る。

「尖閣を自国領土と主張するからには、正確な地図を作る必要がありますが、中国はそれに必要なデータを得られる写真偵察衛星を持っていません。だから、専用の航空測量カメラを搭載したY-12を尖閣諸島の真上に飛ばして撮影を繰り返さなければならない。今後も確実に飛来してくるでしょう」

ほかにも防衛省は、昨年9月に中国の無人機が尖閣付近を飛行したと発表しているが、尖閣を舞台にした軍事小説を多数執筆している作家の大石英司氏は次のように警告する。

「現在、中国はさまざまな無人機を尖閣エリアに出撃させて、どのタイプなら日本側のレーダーに発見されずに深く潜入できるかをテスト中です。防衛省が公表しているよりはるかに多くの接近事例が発生しているとみていい。今後の出方としては、例えば無人機でこっそり撮影した尖閣の写真を突然公表し、実効支配をアピールする方法が考えられます。上空を自由に飛び回っていることを世界に誇示すると同時に、日本のメンツを潰せますから」

“実効支配”してしまえば「自分たちのものだ」とは、まさに暴論。毅然(きぜん)とした態度で立ち向かわなければ、竹島と同じ道を歩むかもしれない。

(取材協力/世良光弘、小峯隆生)