「維新の会」は連携を模索中。一方、「結いの党」……は? 古賀茂明氏が占う! 「維新の会」は連携を模索中。一方、「結いの党」……は? 古賀茂明氏が占う!

政治資金の不正疑惑により、「みんなの党」の渡辺喜美(よしみ)代表が辞任することになった。かつては有力野党だった同党も渡辺氏の辞任劇によって支持率を大きく下げている。

そして、そんななかでほかの野党たちはどのような動きを見せるのか。混迷する野党再編の行方を、経済産業省の元・幹部官僚、古賀茂明氏が占う!

■渡辺喜美氏の「復活のシナリオ」

化粧品会社会長から8億円を借り入れた問題で、4月7日、みんなの党の渡辺喜美代表が辞任した。 渡辺氏は借入金はすべて個人の借金であり、未返済の5億5000万円も全額返済したとして、「法的にはまったく問題ない」と釈明しているが、受けたダメージは計り知れない。

早期に代表を辞任することによって金銭スキャンダルを収束させ、政治的影響力を温存しよう――それが渡辺氏の計算なのだろうが、周囲の目は厳しい。仮に政治的影響力を行使できたとしても、その途端に、世間からも党内からも批判が再び噴出する。さすがの渡辺氏もしばらくは表舞台での活躍は望めないだろう。

もしそのチャンスが巡ってくるとすれば、次の国政選挙後である。今回の辞任劇で、みんなの党の支持率はガタ落ちとなった。来春の統一地方選挙、そして3年以内に行なわれる国政選挙で、みんなの党が大敗する確率は高く、そのとき、難局を打開できる強力なリーダーはそうそう見つからない。そこで「渡辺喜美待望論」が高まり、復活を遂げるというシナリオだ。

渡辺氏もそのあたりを見越して、「みんなの党と安倍政権の政策は近い。新代表は安倍政権との協力関係を継続してほしい」と、会見でわざわざ発言している。集団的自衛権の行使容認を目指す安倍・自民に、今後とも力を貸す用意があると伝えることによって、これからは表舞台ではなく、もっぱら水面下で与党との裏パイプ役を務めると、アピールしたのだろう。

ただ、次の国政選挙までみんなの党は存続しているのだろうか? 何しろ、みんなの党の議員の大半は、渡辺人気の風に乗って当選した人たちだ。自力当選できそうなのは、浅尾幹事長と東京地方区を勝ち抜いた松田公太参院議員など、ごくひと握り。その不安につけ込まれて、ひとり、ふたりとほかの有力政党に引き抜かれる議員が現れ、みんなの党は“草刈り場”になってしまう可能性が高い。

合流をめぐり、均衡する結いの党と旧太陽グループ

その後に待ち受けるのはみんなの党の消滅である。そうなれば、しばらくは安倍・自民との裏パイプ役として影響力を維持しながら、次の国政選挙後に復活を期すという渡辺氏の思惑もご破算になる。いずれにしても政治家・渡辺喜美氏の前途は多難だ。

こうなるとがぜん、次の関心は今回の辞任劇が、野党再編にどのような影響を及ぼすのかという点に移ってくる。

■一番“高笑い”をしているのは……

結いの党、そして日本維新の会とは連携しない――渡辺氏が代表としてにらみを利かせている間は、それがみんなの党の方針だった。

しかし、渡辺氏が代表を辞任して表舞台から去ったことで、みんなの党が維新、結いの党と連携に動く目が出てきた。みんな、維新、結いの党がまとまれば、民主党を抜いて衆院で野党第一党になる。

注目すべきは現在、第一段階として、参議院での維新と結いの党の統一会派づくりが進んでいることだ。その先には、今国会中に合流する構想があり、道州制の導入など、61項目の基本政策で大筋合意している。

これに不満を募らせていたのが、石原慎太郎(しんたろう)共同代表率いる維新の旧太陽グループだ。リベラル色の強い結いの党に対し、石原代表は「われわれの目標は改憲。結いの党は護憲の政党じゃないか」と、合流に不満タラタラだった。

それでも渋々ながら結いの党との合流を認めているのは、あまり突っぱねすぎると、維新そのものが旧太陽系グループと大阪維新の会グループに分裂しかねないと危惧したためだろう。分裂すれば、旧太陽グループも弱小政党となり、消滅の危機に陥る。今は黙って結いの党との合流を認め、そのうち時間をかけて丸め込んでしまえというのが、旧太陽グループの本心だ。

それに対して結いの党も橋下代表との連携を深め、とにかくリベラル色、改革色の強い政策を押し込んでゆく。それで旧太陽グループが反発し、党を割ってくれるなら儲けものくらいのことは考えていたはず。いわば、合流をめぐり、結いの党と旧太陽グループは緊張をはらみつつ、均衡していたのだ。

一番“高笑い”をしているのは……?

しかし、これからは渡辺氏抜きのみんなの党が維新に秋波(しゅうは)を送ってくることもあり得る。このまま座して他党の草刈り場になるよりは、衆参22人の議員がひとつにまとまっている間にできるだけ高く「身売り」し、今後の勢力を保ちたいと考えるのは合理的である。

そうなると、高笑いするのは石原代表と旧太陽グループだ。みんなの党の取り込みに先んじれば、橋下代表率いる大阪維新グループに対して優位に立てる。

そして、結いの党は旧太陽グループとの均衡が崩れ、苦しい立場になる。勢力を強めた旧太陽グループが結いの党との合流をいやがれば、結いの党としては維新との合流を確実なものにするため、旧太陽グループの要求を受け入れ、あいまいにしてある安保政策について右寄りの政策をのむことを迫られかねない。結いの党・江田憲司(けんじ)代表にとって“宿敵”である渡辺氏の辞任だが、皮肉にも自身の政局を不利にしかねない要素になってしまったのだ。

民主党はどうか? 今のところ、大きな動きは見えない。渡辺氏の辞任によって他党がどう動くのか見極めているといったところだ。ただ、低調が続く民主党は次の国政選挙の候補を絞りきれずにいる。野党第一党の座を死守するために、みんなの党の議員引き抜きを狙うのは確実だろう。

とはいえ、今回の辞任劇で政界が液状化するような野党再編は起きないだろう。しょせんは「コップの中の嵐」にすぎず、“一強国会”を謳歌(おうか)する安倍・自民を脅かすような波乱ではない。

それどころか、維新とみんなの党が合流すれば、その憲法観や安全保障政策は安倍政権と極めて近いものになるはず。つまり、野党再編が起こったとしても、それは自民党の補完勢力を生み出すだけなのだ。そう考えると、今回の辞任劇で一番高笑いをしているのは安倍首相なのかもしれない。

■古賀茂明(こが・しげあき) 1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元幹部官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して2011年退官。著書『日本中枢の崩壊』(講談社)がベストセラーに。新著は『原発の倫理学』(講談社)。『報道ステーション』(テレビ朝日系)のコメンテーターなどでも活躍

(撮影/山形健司)