日本にとって日米関係はあらゆる外交問題の礎となる最重要事項ですが、相手にとってはそうではない。この現状をどう考え、戦略を練っていくべきでしょうか?

4月24日、アメリカのオバマ大統領が訪日する予定です。2010年11月以来3度目の訪日となりますが、特筆すべきは「国賓(こくひん)待遇」という日本側の受け入れ姿勢。米首脳としては1996年のクリントン大統領以来、18年ぶりのことといいます。異様なまでの“歓迎ムード”と言わざるを得ません。

こうした流れをつくり出したひとつの引き金は、安倍晋三首相による昨年末の靖国(やすくに)神社参拝でしょう。首相個人の思想の是非以前に、周辺国――特に中国との関係を悪化させ、北東アジア情勢を不安定化する行動だとして、日本は同盟国アメリカからの信用を落とした。米紙『ワシントンポスト』や『ニューヨークタイムズ』などでは「日本の右傾化を警戒すべきだ」という論調が散見されましたし、ぼくもアメリカの“知的集積地”であるボストンで、そのような空気を感じていました。

さすがに対米関係を不安視したのか、去る3月14日の参議院予算委員会で安倍首相は「『河野談話』を見直すことなく継承する」と答弁しました。これを聞いて、ボストンの日本人コミュニティでは「これで日米関係は首の皮一枚つながった」と安堵する声も聞かれたほどです。

ただ、日本の“対米アピール”はこれだけにとどまりませんでした。オバマ大統領が求めた日米韓3国首脳会談の実現へ積極的に協力した。ウクライナ情勢でも足並みをそろえた。武器輸出三原則に代わり、米軍需産業への技術供与の可能性がより広がる「防衛装備移転三原則」を閣議決定した……。悪い言い方をすれば、オバマ大統領の顔色をうかがい、国賓としての訪日に「こぎつけた」というのが実情でしょう。

しかし、少なくともぼくが見聞きする限り、こうした姿勢はむしろアメリカに潜むある種の不信感――「日本という国は、自らの戦略に基づいて物事を判断する気がないのか?」という疑念を増殖させているように感じる。これでは対等な同盟国ではなく、単なる“イエスマン”としていいように扱われてしまうリスクも否定できません。

歴史問題をどうにかしない限り、安全保障問題は前に進まない

そう考えたとき、オバマ訪日までに日本側が整理しておくべきなのが、日中関係をどう再構築するかという議論です。残念ながら、アメリカはすでに日米関係を「米中関係という“最も重要な2ヵ国関係”の枠組みにおけるひとつの要素」にすぎないと認識している。だからこそ、日本は「日中関係における自国の国益をどうとらえ、戦略をどう立てていくのか」をアメリカに丹念に説明し、「戦略的に協力し、役割分担していきましょう」と具体的に発信する必要があるのです。

日米関係についてもうひとつ、ぼくがアメリカにいて痛切に感じるのは、「歴史問題をどうにかしない限り、日本の安全保障問題の議論は前に進まない」ということです。

ボストンである海洋安全保障問題の専門家と会った際、「日本で集団的自衛権の議論が本格化したら、同盟国としてアメリカは支持するか?」と聞いてみたところ、回答は次のひと言でした。

「日本次第だ」

政策サイド、研究サイドを問わず、アメリカでは「安全保障と歴史問題はリンクしている」と見られている。安倍首相が本当に憲法改正や集団的自衛権の議論に踏み込みたいなら、靖国参拝や従軍慰安婦問題を含め、歴史問題で足をすくわれるようなリスクを冒すべきではない――彼はそう言うのです。

歴史問題で強硬な主張をするのか、それとも憲法改正や集団的自衛権の議論を本格化させるのか。究極的にはそういうことなのです。これは日本の針路を左右する重大なテーマです。それでも周辺国との関係を顧みず歴史問題で強硬な主張を繰り返すべきだというなら、その理由を逆に教えて!!

●加藤嘉一(かとう・よしかず) 日本語、中国語、英語でコラムを書く国際コラムニスト。1984年生まれ、静岡県出身。高校卒業後、単身で北京大学へ留学、同大学国際関係学院修士課程修了。2012年8月、約10年間暮らした中国を離れ渡米。現在はハーバード大学アジアセンターフェロー。最新刊『不器用を武器にする41の方法』(サンマーク出版)のほか、『逆転思考 激動の中国、ぼくは駆け抜けた』(小社刊)など著書多数。中国の今後を考えるプロジェクト「加藤嘉一中国研究会」も活動中! http://katoyoshikazu.com/china-study-group/