近年、ヨーロッパのさまざまな国で活発に活動している「ネオナチ」とは、いったいどんな集団なのか?
そもそも、このネオナチという言葉の定義にはさまざまな解釈があるが、ここでは、ナチスへの共感を持ちつつも、外国人排斥、民族的純血主義など「現代社会においても適用可能な主張」を中心に据え、武力闘争を含む過激な活動を行なう政治的集団という“広義”のネオナチのことを指す。
こうした「広義のネオナチ」が、欧州の若者を中心に勢力を拡大している理由を、国際ジャーナリストの河合洋一郎氏が解説する。
「移民の増加により社会が多民族化しているヨーロッパでは、経済状況が悪化し失業率が上がると、移民排斥を訴えるネオナチの人気も高まります。典型的なのがギリシャですが、ハンガリーでもここ数年でヨッビクという極右政党が急成長し、先日の総選挙で23議席を獲得している。イギリスでも反移民を掲げる政党が多くの支持を集めているとの調査結果が出ています。
また、ネオナチは経済状況の悪化を『国際ユダヤ資本の陰謀』と説明します。現実はそんなに単純なものではありませんが、事の真偽は別として、この説明は極めてわかりやすい。怒りやフラストレーションを向けるべき“敵”がなんなのかを教えてくれる。こうして失業者、特に若者がどんどんネオナチ組織に吸収されていくわけです」(河合氏)
各国で勢力を広げるネオナチ組織は、一部で連携の動きも見せているという。
「ヨーロッパには各国の政党が国境を越えて連合し、EU公認のもとで資金を提供され活動する『欧州政党』という仕組みがあります。極右勢力の欧州政党には、自由ヨーロッパ連合(EAF)とヨーロッパ国民運動連合(AEMN)があり、ほかにEU非公認の極右欧州政党も複数存在します。彼らには移民排斥、反ユダヤ主義、反同性愛者といった共通の目標があり、これらの政策をEU全体のレベルで達成するのが長期的な目標であると思われます」(河合氏)
また、ヨーロッパ以外にもネオナチ的思想は広まっている。複数のネオナチ組織が存在するというロシアの現状について、モスクワ在住の国際政治アナリスト、北野幸伯氏はこう語る。
「彼らに共通するのは『ロシア人のためのロシア』という主張。ここでいうロシア人とは、いわゆる『スラブ人種のロシア人』のことで、ロシア国籍を持つイスラム系やアジア系は含まれません。10年ほど前からコーカサス、中央アジアからの移民が増えたことでロシア人の反発が強まり、ネオナチと呼ばれるスキンヘッド集団が外国人を殺害する事件が頻発しました。ちなみに私自身も2010年、民族主義者に襲われて死にかけたことがあります」
移民の増加、世界的な不況という大きな流れが、各国でネオナチの台頭を生んでいるのだ。将来に不安を抱えた若者たちという構図から見れば、日本も他人事ではない。
(取材協力/川喜田 研)