たびたび「アジア重視」を強調するオバマ大統領ですが、その本音はどこにあるのか? 今週と来週の2回にわたり、アメリカの対中戦略について考えていきましょう。

日本、韓国、マレーシア、フィリピン。4月下旬、アジア4ヵ国を訪問した米オバマ大統領の狙いはなんだったのでしょうか?

ひとつは昨年10月、APEC(エイペック/アジア太平洋経済協力会議)に合わせてアジア各国を訪れる予定だったにもかかわらず、自国の財政危機の影響でドタキャンとなったことへの“穴埋め”。そしてもうひとつは、自身が掲げる「リバランス政策」を強調することだったと思われます。

アジア太平洋地域の重視をうたい、2011年頃からたびたび言及されている「リバランス政策」は、北東アジアや東南アジア地域において、あらゆる面で影響力を拡大している中国への対策を念頭に置いたもの。その2本の柱が、今回のアジア歴訪でも各国で話し合われたTPP(環太平洋経済連携協定)と安全保障です。

オバマ大統領が訪れた4ヵ国のうち唯一、アメリカの同盟国でないのがマレーシアで、米大統領の訪問は1966年以来。なぜ、この国を訪問先に選んだのか? オバマ大統領の東アジア・太平洋外交におけるブレーンのひとりはこう言います。

「マレーシアをはじめ、ベトナムやミャンマー、ラオスなど東南アジアの新興国がこれから経済発展していく過程で、どのように『自由』や『民主主義』といった価値観、システムを採り入れていくのか。われわれはそこに関心を持っている」

補足すれば、アメリカとしては中国とある程度うまくやっていきたい半面、まだ発展途上の東南アジア諸国が“中国的な価値観”に染まってしまうのは避けたい。特に、マレーシアは経済発展が目覚ましくTPPの交渉にも参加している一方、イスラム教徒が多く住むなど多様性も備えている。この国が今後、どのように発展していくのか―。アメリカにとっても関心は強く、同盟国ではありませんが、「パートナー国」という認識があるようです。

「リバランス」は方便

同じ東南アジアでも、同盟国のフィリピンとは新たな軍事協定を結ぶに至りました。米軍は冷戦終結後の92年にフィリピンから完全撤退していたのですが、新協定により22年ぶりに復帰。向こう10年間、フィリピン軍の全基地の使用が認められることになります。フィリピンと同様、中国との間に領土問題を抱えているベトナムなどは、このアメリカの動向を強い関心をもってウオッチしていることでしょう。

そして、日本と韓国。今回のアジア歴訪に先立ち、3月にはオランダのハーグで日米韓3ヵ国首脳会談が実現しましたが、前出のオバマ大統領の外交ブレーンによれば、「あれは絶対にやっておかなければならなかった」とのこと。アメリカの対中国戦略において、日韓はともに重要な同盟国であり、歴史問題で仲違(なかたが)いしてもらっては困るのです。

オバマ政権の「リバランス政策」は、必ずしもアメリカという国がアジア太平洋地域(対中国)に全力を注ぎ込むことを意味しない。この点を勘違いしてはいけません。むしろ、その本質は「いかに他国に頼るか」ということなのです。

現実的に考えて、オバマ大統領の一番の関心事はアジア太平洋地域にはない。プライオリティが高いのは、あくまでもアラブ中東問題や国内経済、あるいは医療問題です。少し極端な言い方をすれば、アメリカは政治的な資本をアジア太平洋地域に注ぎ込むことができないからこそ、同盟国やパートナー国の協力を最大限に得るために、方便として「リバランス」を強調しているわけです。

では、オバマ大統領の訪日を通じて、日米関係に変化は生まれたのか? その点は次回に分析したいと思いますが、いずれにしても日本メディアによる「オバマ歓迎報道」は異常でした。相手方の本音を知らずして外交戦略を読み解けるというなら、その理由を逆に教えて!!

●加藤嘉一(かとう・よしかず) 日本語、中国語、英語でコラムを書く国際コラムニスト。1984年生まれ、静岡県出身。高校卒業後、単身で北京大学へ留学、同大学国際関係学院修士課程修了。2012年8月、約10年間暮らした中国を離れ渡米。現在はハーバード大学アジアセンターフェロー。最新刊『不器用を武器にする41の方法』(サンマーク出版)のほか、『逆転思考 激動の中国、ぼくは駆け抜けた』(小社刊)など著書多数。中国の今後を考えるプロジェクト「加藤嘉一中国研究会」も活動中! http://katoyoshikazu.com/china-study-group/