今、国際社会のルールを自分たちの有利な方向へ変えたいと、3つの“反欧米大国”が手を結び、世界を牛耳ろうとしている。それがロシア、中国、そしてイランの3ヵ国だ。
元外務省主任分析官の佐藤優(まさる)氏は次のように語る。
「3ヵ国には共通の目的がある。国連と欧米が中心となって成立している現在の“国際社会のルール”を、軍事力を使って自分たちの有利な方向に変更したい――そうした思惑が、この新枢軸の背景にあるのです」
佐藤氏が、各国の思惑を解説する。
「ロシアは、ウクライナから分離させたクリミア自治共和国のロシア編入の正当性を認めさせたい。クリミアでは、住民の大半は本当にロシア領となることを望んでおり、住民投票の結果は現実を反映したものでした。このことを根拠に、ロシアは軍を投入してクリミアを取り込んだ。しかし現行の国際法では、これはウクライナの主権を侵害する明確な違反行為です。
中国の場合、ひとつは『人権』という規範への抵抗です。ウイグルやチベットに関する問題、自国内のカトリック教会の人事権を中国政府が握っている問題に対し、国際社会が『人権』を理由に介入してくるのを非常にいやがっている。もうひとつは、『日本の植民地支配で失った』と主張している尖閣諸島の主権の奪取を、軍事力を使ってでも成し遂げたい。
そしてイランは、“中東の大国”という地位を確たるものにするために、現在の国際社会におけるNPT(核拡散防止条約)体制を無力化し、どうしても核兵器を保有したい。
このように、3ヵ国それぞれが、国際社会の“現状変更”への強い動機を持っているわけです」
しかし、たった3つの国が組んだだけで、国際社会のルールを変えることは可能なのだろうか?
「戦争は政治の延長」という時代が戻ってくる
「十二分に可能です。まず、中国とロシアは核保有国で、なおかつ国連安全保障理事会の常任理事国であり、決議に対する拒否権を持っている。これだけで、欧米中心の国際社会で一定の存在感を発揮することができます。その上、この3ヵ国にはそれぞれの足りない部分を補完し合える“武器”があるのです」(佐藤氏)
それはエネルギー問題、そして経済だ。
「ロシアとイランには、他国に対して大きな交渉材料ともなる豊富なエネルギー資源(石油と天然ガス)があり、中国の需要を満たすことができる。一方、中国には、強力な経済成長が可能なだけの人的資源と、10億人をはるかに超える巨大な市場がある。ロシアやイランの経済規模なら、中国の巨大マーケットさえあれば、国際社会から多少の経済制裁を受けても十分に回していけます」
もしこの新枢軸が力をつけていくと、国際社会のルールはどうなっていくのか?
「現在、国連加盟国は戦争をしてはいけないことになっていて、唯一の例外は『国連軍』だけ。しかし、新枢軸はこのルールを崩しにかかる。今よりずっと広い範囲で、軍事力の行使が認められるパワーゲームの時代となります。国連は次第に機能しなくなり、第二次世界大戦直前の国際連盟のように無力化する。
18世紀の著名な軍事学者クラウゼヴィッツの言葉を借りれば、『戦争は政治の延長である』という時代が戻ってくるのです」(前出・佐藤氏)
冷戦終結以降、長らく続いた欧米中心の国際社会が、今、崩れ去ろうとしている。
(取材協力/小峯隆生、世良光弘)
■週刊プレイボーイ22号「ロシア・中国・イラン『ユーラシア新枢軸』誕生で“世界のルール”が変わる!!」より