安倍晋三首相が日本国憲法の解釈を変更してまで行使しようとしている「集団的自衛権」。適用範囲は「わが国の安全に重大な影響を及ぼす可能性のあるとき」に、“限定的”な武力行使を行なう場合に限る、としている。

では、具体的にどのようなケースで自衛隊の出動が考えられるのか?

●米輸送艦に対する攻撃への対処

紛争地域から脱出する日本人を乗せた米輸送艦が、敵国軍から攻撃されたというケース。「個別的自衛権」では日本の領海内でしか自衛隊の防護活動(反撃も含む)が認められないが、「集団的自衛権」なら公海上でも可能になる。

「ただし実際には、日本人が乗っていようがいまいが、日本近海で同盟国の米軍艦が敵国から攻撃を受ければ、防護へ乗り出す可能性が高い。ひとつの問題は、敵艦との距離をどう考えるかです。最新の対艦ミサイルは120km以上の射程があり、かなり遠くから撃ってくるかもしれない。現場の隊員は『どこまで反撃すべきか、どこまでが“必要最小限の武力行使”なのか』という判断を突きつけられるかもしれません」(軍事ジャーナリスト・世良光弘氏)

●米本土への弾道ミサイルの迎撃

従来は、日本に対して発射されたミサイルしか迎撃できなかったが、「集団的自衛権」なら、アメリカ本土に向けて発射されたICBM(大陸間弾道ミサイル)を、自衛隊の護衛艦が撃ち落とすことも可能になる。

「しかし、護衛艦に搭載されている対空ミサイル『SM-3』では、アメリカ本土へ飛行中のICBMは高度が高すぎて迎撃不可能です。かといって、弾道ミサイル発射直後の“ブーストフェーズ(加速段階)”を狙おうにも、この段階ではどこの国へ向けて発射されたのかわからない。あまり現実的な話ではないでしょう」(軍事ジャーナリスト・清谷信一氏)

南シナ海で中国海軍と自衛隊が衝突する?

●紛争周辺海域での掃海活動

現在、南シナ海で緊張関係にある中国とベトナムが交戦状態になり、中国海軍が周辺海域に機雷をバラまいたとする。仮にベトナム側を米軍が支援していれば、その同盟国の日本は、「集団的自衛権」を行使して掃海活動(機雷を取り除くこと)を行なうことが可能となる。

南シナ海にしても、あるいはアメリカとイランが戦争に突入し、イランがホルムズ海峡に機雷をバラまいたとしても、そこは日本のエネルギー輸入のために重要なシーレーン。これは「日本に重大な影響を及ぼす可能性がある」と解釈できる。

「とはいえ、紛争中の掃海活動には危険が伴う上、この行為によって相手国から“敵”と見なされる可能性もある。攻撃能力のない掃海艇を守るには護衛艦も出動しなければなりませんが、艦隊の規模が大きくなればなるほど、よけいに敵と見なされやすい――というパラドックスに陥ることも考えられますね」(前出・世良氏)

第二次世界大戦の終戦から69年、日本は大きな岐路を迎えようとしている。

■週刊プレイボーイ23号「憲法解釈変更でもこれだけ残る、自衛隊『出動あり・なし』グレーゾーン」より