5月15日、「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(通称“安保法制懇”)の報告を受け、安倍首相が集団的自衛権の行使容認に関する記者会見を行なった。

集団的自衛権を行使するには、日本国憲法の解釈を変更する必要がある。また、実際に行使されれば、自衛隊が海外に出動して活動することも大いにありえる。つまり、戦後日本の一大方針転換になるかもしれない判断というわけだ。

反対意見も多いなか、なぜ安倍首相は性急に事を進めようとしているのか? 記者会見のあった日の夜にアップされた、安倍昭恵夫人のフェイスブックに、その謎を解くヒントがあるかもしれない。

「今日は主人の父である安倍晋太郎の命日。 例年通り『安倍晋太郎氏を偲(しの)び、安倍晋三総理と語る会』が開催されました。

総理大臣目前と言われながら、無念の中で他界した父。 どんな思いで主人を見守っているのだろうか…

父や祖父やご先祖様のお陰で今の主人があることに感謝します」

あの記者会見が行なわれたのは、安倍首相の父・安倍晋太郎氏の命日だったのだ。

総理大臣目前と言われながら、67歳で病に倒れた父。そして祖父は、1960年に新日米安条約を締結した岸信介元首相。「自主憲法制定」への強い意欲や、「東京裁判」の評価を含めた歴史認識の見直しなど、安倍首相の政策や歴史観については、この祖父への強い意識を指摘する声は多い。

しかし、「現実には安倍と岸ではやっていることがまるで逆」と指摘するのは、ジャーナリストの田中良紹氏だ。

アメリカに主張した岸。従属する安倍

「吉田茂や岸信介を『対米従属』というくくりで語る人がいるが、忘れてはいけないのは、日本は太平洋戦争で『無条件降伏』したということ。敗戦国という、アメリカの言いなりにならざるを得ない状況のなかで、表面上はそれに従いながらも必死に抵抗をし、日本の国益を追求してきたのが吉田や岸であり、戦後の自民党だった。

例えば、現在の自衛隊の基になった警察予備隊を組織したとき、アメリカが32万人規模の戦力を整備するように迫ったのに対して、『憲法9条』をタテに『11万人規模で十分』とそれをはねのけたのが吉田だし、60年安保でアメリカに基地を提供する代わりに『日本の防衛』を背負わせたのが岸。それほど彼らはアメリカに対してしたたかに立ち回っていた」

国際的に日本の立場が弱かった時代に、国益を最優先に考え、外交を行なっていたのが岸元首相だった。

「一方、今の安倍は完全な『対米従属』でいいようにされているだけ。集団的自衛権も、今後アジアでの紛争で自国民の血を流したくないアメリカが、日本人にやらせようという話。TPPも自分の国とは『異質』な日本という国の仕組みをアメリカ流に変えるのが狙いなのに、それすらまったく理解できていない」(田中氏)

安倍首相が、あえて父の命日に重大発表を行なったのか、それとも「単なる偶然」だったのか、それは彼にしかわからない。

(取材/川喜田 研)

■週刊プレイボーイ23号「日本を巻き添えにする“安倍一族の愛”」より