12年末、消費増税を含めた「社会保障と税の一体改革」に関する民主・自民・公明の「三党合意」を条件に発足した安倍内閣。しかし、実行されたのは消費増税のみで、その増税分が“適切に”社会保障に充てられているわけではない。
民主党政権下で厚生労働大臣を務め、かつては“ミスター年金”とも呼ばれた民主党の長妻昭衆議院議員が、こう説明する。
「三党合意では消費税を10%に引き上げた際の使途として、増税分5%のうち1%を社会保障の充実、もう1%を年金に充て、残りの3%を国債依存からの脱却、つまり借金返済の原資に回すこととしました」
消費税収の1%分は税収額でいうと約2.7兆円ですが、4月に消費税が3%上がっても、社会保障に充てられているのは5000億円ほどにすぎません。しかも本来は借金返済に回すはずの分までが、結果的に公共事業に使われているというのが現実なのです」(長妻氏)
ちなみに「三党合意」は消費税率が10%(来年10月予定)になったときの使途について約束したもので、現在の8%時の使途に関して触れられてはいない。そのため厳密には現時点で「約束違反」とは言えない。
ただ、仮に来年、消費増税分の5%をすべて社会保障費につぎ込んだとしても、それで解決というわけではない。
「驚異的なペースで進む日本の少子高齢化と、それに伴って伸び続ける社会保障費を考えれば、消費税を10%に上げたとしても焼け石に水です。今すぐに社会保障制度の抜本的な見直しをする必要があるのに、問題が放置され続けているのです」
こう警鐘を鳴らすのは、『財政危機と社会保障』『社会保障亡国論』(ともに講談社現代新書)などの著書がある学習院大学経済学部の鈴木亘教授だ。
「消費税10%でも焼け石に水」と鈴木氏が主張するのはなぜか? その理由は驚くほど単純明快だ。
社会保障関係費と社会保障給付費の違いとは?
世界でも類を見ない急激な高齢化によって、日本の社会保障費は一般的に「毎年1兆円」ペースで増え続けているといわれている。これは国が税金や借金で賄っている「社会保障関係費」から算出した額だ。しかし、実はコレ、社会保障費全体のごく一部。
ここには国民が支払っている保険料(年金、医療保険、介護保険)から賄われている部分は入っていない。それも含めた総額は「社会保障給付費」と呼ばれ、ここから算出すると社会保障費は「年間3兆~4兆円」という驚異的なペースで伸び続けている。
すると、消費税を10%にした際の増税分5%の約13・5兆円をすべて社会保障に投入したとしても、たったの3、4年で食いつぶしてしまう計算に……。
「一方、賃金から徴収される保険料の割合、つまり保険料率は引き上げられているにもかかわらず、保険料収入はここ10年以上、デフレの影響や非正規雇用の増加、現役世代の人口減少などによって、横ばい状態が続いています。そのため保険料収入から社会保障給付費を引いた『社会保障財政赤字額』は膨らむばかりで、2013年度の赤字額は48・4兆円。50兆円の大台も目前です」(鈴木氏)
しかも、その赤字額のほとんどは国債発行による「借金」で賄われていて、すでに1107兆円(13年度末時点)に達している国の借金は「社会保障費の拡大」と表裏一体の関係なのだ。
こうした実際の数字を眺めるだけで、増え続ける社会保障費に対しての5%の消費増税など、微々たるものでしかないのは誰の目にも明らかだろう。
(取材/川喜田 研)