隣国アメリカとの国交を長年にわたり断絶し続け、独自路線を歩むキューバ。そこには、いわゆる“先進国”とはまったく違う豊かな世界がありました。

前回のメキシコに続き、今回はカリブ海に浮かぶ島国で“楽園”とも称されるキューバを訪れた話をしましょう。約1週間かけて、首都のハバナ、美しいビーチのあるバラデロ、中部の旧市街地で世界文化遺産にも登録されているトリニダードなどを陸路で回ってきました。

チェ・ゲバラの活躍で有名な1959年のキューバ革命以来、この国はフィデル・カストロの指導の下、社会主義をかたくなに貫いてきた(国家トップの地位は2011年から弟のラウル・カストロが継承)。北朝鮮と同じように食物は配給制で、トウモロコシや塩、大豆、卵などが定期的に配られている。個人が食料を購入するための市場も散見されますが、キューバ国民の固定月給は平均25米ドルと、自由に買い物ができる状況にありません。キューバは医学分野の技術が発達しており、医療関係者は社会的地位が高いようですが、彼らでさえ固定月給50ドルというのが相場だそうです。

革命以来、アメリカと国交を断絶して独自の国家運営を続けるキューバ。ハバナ旧市街の雰囲気は、率直にいって「古い」のひと言です。革命以前にアメリカから輸入された50年代のクラシックカーが今も現役で道を行き、家並みはスペインの植民地時代のままで、今にも崩れそうな建物が少なくありません。

一方で、前述の医学分野をはじめ教育には力を入れており、国民の識字率は99.9%と世界最高レベル。誰もが教育を無料で受けられる社会主義の利点を生かしています。キューバの知的中枢であるハバナ大学を訪れましたが、エリートのにおいをプンプン出していました。治安もアメリカやメキシコといった隣国よりはるかに安定しており、夜のひとり歩きも基本的に問題なし。会話をしたキューバ人のほとんどが「安全な国」を誇りにしていました。

キューバは“幸福の国”ブータンに似ている?

社会主義国家といえば、日本人がまず思い浮かべるのは中国でしょう。ぼくも中国とキューバを随所で比較しながら日々を過ごしたのですが、結論としては「比較性に欠ける」というのが正直なところです。

キューバは中国以上に徹底した社会主義国家で、現地のジャーナリストも「言論の自由はない」と断言していました。そう聞くと、中国以上にガチガチの統制社会を想像してしまいますが、街を行く人々の様子はハッピー。子供たちは草野球やストリートサッカーに興じ、女性は化粧をして着飾り、踊り、男性は海岸や道端で名物の葉巻をくゆらせながらおしゃべりを楽しんでいた。

なぜ、そんなに笑顔でいられるのか? 彼らにそう聞くと、

「俺たちはダンスとミュージック、ビールと葉巻があれば満足なのさ」

と口々に言います。そして、彼らは物質的には恵まれていないけれど、カストロやゲバラの悪口を決して言わない。監視されているからではなく、本当に悪く思っていない。ここが中国とは違うところ。中国で「毛沢東(もうたくとう)は好きか?」という話になれば、必ず論争が巻き起こります。

キューバのある政府官僚は次のように言っていました。

「われわれは中国のようになりたくない。伝統を忘れ、物理的欲求のみを追求するまねはしたくないのです。観光分野で市場開放を進めていますが、慎重に慎重を重ねています」

たとえ社会主義国家であっても、部分的な市場開放をしていくのが世界の潮流。それでも、彼らは国策として性急に市場を開放することで、豊かな国民性や安全といった“キューバらしさ”が失われてしまうことを懸念しています。

ぼくはキューバで、アジアの“幸福な国”ブータンと同じにおいを感じた。独自の価値観で己の道をいく国家があるからこそ、世界は多様性を維持できる。それを「時代遅れ」「未開発」などと一刀両断できるというなら、その理由を逆に教えて!!

●加藤嘉一(かとう・よしかず)日本語、中国語、英語でコラムを書く国際コラムニスト。1984年生まれ、静岡県出身。高校卒業後、単身で北京大学へ留学、同大学国際関係学院修士課程修了。2012年8月、約10年間暮らした中国を離れ渡米。現在はハーバード大学アジアセンターフェロー。最新刊『不器用を武器にする41の方法』(サンマーク出版)のほか、『逆転思考 激動の中国、ぼくは駆け抜けた』(小社刊)など著書多数。中国の今後を考えるプロジェクト「加藤嘉一中国研究会」も活動中!http://katoyoshikazu.com/china-study-group/