「年金100年安心プラン」という言葉を聞いたことがあるだろうか?

これは2004年に、自民・公明連立政権下で行なわれた年金制度改革の別名で、その名のとおり「今後100年間、現役時代の収入に対する年金額の割合(=所得代替率)を、最低50%保証するから安心していいよ」というものだ。

むろん、100年後の日本経済など誰にも予想できない。そこで2004年の年金制度改革では、5年に一度、年金財政に問題がないかをチェックする「財政検証」を行なっていくことも決められた。

そして今年6月3日、5年ぶりの「財政検証」の結果が厚生労働省から発表された。

今回の検証から、将来の年金財政のシミュレーションを行なう際の前提条件となる「物価上昇率」「年金積立金の運用利回り」「経済成長率」などの想定を細分化しており、今後、日本経済が順調に成長を続けるAからEまでの5つの「高成長ケース」、経済成長が伸び悩んだ場合の「低成長ケース」としてFからHの3ケース、合計8ケースの見通しを立てている。

結果は、日本経済が順調に成長を続けるA~Eの5ケースで、51.0~50.6%とギリギリで所得代替率50%をクリア。ひとまず安心かと思いきや、そうでもないらしい。

「今回の財政検証は厚労省が政治に一定の配慮をしつつも、現行の年金制度に対して突きつけた事実上の“イエローカード”だと受け止めるべきでしょう」

そう語るのは、元財務相官僚で、日本の社会保障と財政の問題に詳しい法政大学経済学部の小黒一正准教授だ。

「前回(2009年)に行なわれた財政検証では今回のような複数ではなく、ひとつの試算しか示されませんでした。しかし、その数字の前提となった運用利回りや経済成長率などの想定があまりにも現実離れした楽観的なものだったのです。それらを根拠に『100年安心』と太鼓判を押している点に多くの批判が起きました。そのため今回は、高成長ケースから低成長ケースまで8つの異なる条件での試算を示したわけです。

8つのシナリオは政治家たちへのメッセージ

高成長ケースであるAからEの5つのケースを見ると、いずれも『100年安心プラン』が約束する所得代替率50%ギリギリで、現在の62.7%より2割も減っています。一方、低成長ケースのFとGになると所得代替率が50%を割り込んでしまっています。最悪のケースHに至っては、22年後にはもうボーダーラインの50%を下回ってしまい、2055年頃になると頼みの綱である年金積立金129兆円が完全に枯渇するという試算になっています。すなわち、100年安心プランは維持できないということを明確に示しているのです」(小黒氏)

つまり、今回の財政検証は「100年安心かもしれないけれど、安心じゃないかもしれない……」とあえて結論を出さない形になっているのだ。

「厚労省の官僚たちも当然、年金制度の将来に不安があることはわかっているワケですが、政治への配慮からハッキリとは言えない事情もある。そこで今回は8種類の試算を示し、『アベノミクスで順調に経済成長が進めば100年安心プランは大丈夫』という政治家向けのシナリオと、『低成長ならダメかもしれません……』という悲観的なシナリオの両方を提示することで、一定の危機感をアピールするという狙いがあったのだと思います。

私はそれを“イエローカード”と呼んだのですが、多くの人が今回の財政検証結果について危機感を持って受け止めているかは疑問ですし、大手メディアもそこまで踏み込んで報じてはいません」(小黒氏)

楽観的な数字を並べて国民を「安心」させるのではなく、現実的に考え「心配」することが政治家や官僚の役目だ。

(取材/川喜田 研)

■週刊プレイボーイ26号「年金100年安心プランがあまりにウソすぎる!!」より