将来、われわれは本当に十分な年金を受け取ることができるのだろうか?

今月頭、厚労省が5年ぶりに「国民年金および厚生年金に係る財政の現況及び見通し-平成26年度財政検証結果-」を発表した。

日本経済の成長率を8ケースに分類したその検証によると、今後、高成長していく5ケースで、国がひとつの指針としている「所得代替率50%」をクリアしている。

※所得代替率=現役時代の収入に対する年金額の割合

しかし、この「所得代替率50%」にはトリックがあると指摘するのは、元財務相官僚で、日本の社会保障と財政の問題に詳しい法政大学経済学部の小黒一正准教授だ。

そのポイントは基準となる「モデル世帯」がどういう人をイメージしているのか、という点にあるという。

「モデル世帯とは、夫は平均的な収入で40年間働いたサラリーマン、妻は40年間ずっと専業主婦の世帯のことで、年金額は夫が約180万円、妻が約77万円で、合計約260万円(月額21・8万円)としています。

しかし、国民年金や厚生年金を受け取っている人たちの年間受給額別の割合を示したグラフである平成24(2012)年度『男女別の公的年金額の分布』を見ると、200万円未満の男性は全体の55%、150万円未満の男性も全体の40・4%になる。モデル世帯よりも年金額が低い男性が相当数いることがわかります」(小黒氏)

所得代替率50%に隠されたもうひとつのトリック

つまり、「将来、誰しもモデル世帯と同じ年金額をもらえる」とは限らないのだ。加入しているのが厚生年金か国民年金か、また加入年数によってはモデル世帯よりも年金が低くなることは十分あり得る。

「非正規雇用がさらに広がり、将来的には年金額が年間100万円を下回る“貧困高齢者”が増え、生活保護の拡大など新たな社会問題と財政負担を生む可能性は大きいでしょう」(小黒氏)

小黒氏が続ける。

「しかも、『所得代替率』の計算にはもうひとつのトリックが隠されています。それは、分母となる『現役男子の平均月収』が税や社会保険料を払った後の“手取り額”なのに対して、分子となる『夫婦の年金月額』は“額面”、つまり税や社会保険料を差し引く前の金額になっているのです。当然、分母も分子も同じ条件で計算しなければ正しい数字とは言えません。このカラクリで『所得代替率』を大きく見せているのです」

そこで小黒氏が、2014年度のデータを基に分母の「現役男子の平均月収」を“額面”に換算して計算し直したところ、現在62 ・7%とされている所得代替率はなんと一気に約2割減の50・2%にまで急落。そう、現時点でも実質的な所得代替率は50%ギリギリという状況になっているのだ。

もちろん、今回の財政検証で示された8ケースすべてに、この「分数のトリック」によって“水増し”された所得代替率が使われている。

今から10年前、自民・公明連立政権下で行なわれた年金制度改革「年金100年安心プラン」。「安心」どころか突っ込みどころ満載なのが現実だ。

(取材/川喜田 研)