7月1日の閣議決定により日本国憲法の解釈が変更され、日本は戦後初めて「集団的自衛権を行使できる国」になった。

未だ反対の声も根強いが、極めて現実的な側面からも危惧(きぐ)されることがある。それは、集団的自衛権の行使容認で日本が安倍首相の言う「普通の国」を目指すなら、それはどれだけの「コスト」を伴うのかーーつまり、どのくらいカネがかかるのか、という視点だ。

各国の防衛政策に詳しい軍事評論家の古是三春(ふるぜみつはる)氏はこう語る。

「日米安全保障条約と関連協定に基づく基地提供をベースに成立している日米同盟も、今回の決定によって変貌(へんぼう)していくでしょう。従来、日本側は個別的自衛権に基づいて国内の米軍基地を守ることはできても、国外に展開する米軍やアメリカの基地、領土を守ることはできなかった。この前提に立つ限り、日米同盟はあくまで『片務(へんむ)的同盟』であったわけです。

しかし、今回の集団的自衛権の行使容認によって、日本は他国と同等の軍事活動を負担できるようになった。アメリカの国力が相対的に低下している現状を鑑(かんが)みれば、日本の自主防衛努力の強化、中東地域に至るまでのシーレーン安全保障など、より多くの役割を求められることは明白です」

では、具体的にどんな活動が増え、それにかかるコストはどのくらいになるのか?

自前で空母を持たなければならない?

まず想像されるのは、軍備の拡張。しかし、そこで必要とされるのは、単に新たな装備や兵器を導入する費用だけに留まらない。「アメリカの戦略転換」も考慮する必要がある。財政難に伴う軍事費の削減によって、これから当分の間、米軍は事実上の戦力ダウンを余儀なくされるからだ。

例えば現在、横須賀の米海軍第7艦隊には空母が配備されているが、米軍には“カネ食い虫”の空母保有数を削減しようという動きもある。仮にこの部分を日本が肩代わりするとなれば、空母を建造する必要に迫られ、艦載する戦闘機の導入・維持費や人件費も含めて莫大なコスト増となる。

「これまで『集団的自衛権行使は不可能』という前提で営まれてきた日米同盟によって、日本はさまざまなコスト的メリットを享受してきました。アメリカの戦略転換、そして日本の集団的自衛権行使容認によって、そのメリットがどの程度失われていくのか。そうした観点からのコスト分析も必要です」(前出・古是氏)

日本はアメリカに基地を提供する見返りに、長年「軽軍備」の恩恵を受けてきた。防衛費は対GNP比で1%という枠内(主要先進国では最低レベル)に収め、その分を経済成長や福祉施策の充実に振り向けることができたのだ。

しかし、もし日本が集団的自衛権の行使容認に伴って「普通の国」になろうとすれば、今後はそうもいかない。新たに発生する装備の導入・運用や人員増のコストを本誌が試算したところ、その総額はなんと22兆円以上となる。

辞職者続出で採用コストも増加?

さらに、試算が難しいためここには含めていない「コスト増要因」もある。

例えば、国連による紛争介入(集団安全保障)への参加で自衛隊が海外に展開するとなれば、莫大な費用がかかる。2003年に始まった自衛隊のイラク派遣では、2006年末までの4年間に854億円の経費がかかったとされるが、このときはあくまでも“後方支援”。単純比較はできないが、アメリカの同盟国としてアフガン戦争に参入したイギリスの場合、特別会計も含めて370億ポンド(約6兆5000億円)をつぎ込んでいる。

また、軍事評論家の菊池征男(まさお)氏は、自衛隊内の“空気”をこう指摘する。

「集団的自衛権を行使すれば、自衛隊員は従来よりも戦死するリスクが高まります。私がそのことを質問したら、『戦争になったら……という仮定で入隊していませんし、そのための契約をしていません』と答える隊員が多かった。これから先、辞職者が続出する可能性もあるでしょう。となると、その穴を埋めるためには新たに採用コストを上積みし、募集をかけなければなりません。また、現在の自衛官は専門職が多いので、新人を一人前に仕立てるまでの養成コストもかかります」

こうしたコスト増を、深刻な財政危機の続く日本は負担できるのだろうか……?

(取材・文/世良光弘)

■週刊プレイボーイ30号「集団的自衛権のお値段、総額20兆円オーバーなり!」より(本誌では、軍備拡張の予測コスト増リストも詳細に掲載!)