この夏にも拉致被害者が帰国することになるかもしれない――。そんな期待が高まっている。

「拉致被害者など、すべての日本人を対象に再調査する」と、日朝が合意したのは5月29日のこと。これを受け、7月初旬に北朝鮮が約束どおりに特別調査委員会を立ち上げ、その見返りとして安倍政権側も対北経済制裁の一部を解除する動きに出たためだ。

しかし、やはり心配の声は絶えない。それは、「いざフタを開けたら、日本人の遺骨ばかりが大量に戻ってくるのではないか」というものだ。どういうこと?

7月3日、日本政府は「特別調査委員会に関する北朝鮮側からの説明概要」というタイトルの文書を公表している。そこでは調査対象ごとに4つの分科会が設置されることになっており、その順番は「拉致被害者」「行方不明者」「日本人遺骨問題」「残留日本人・日本人配偶者」となっている。

ところが、北朝鮮が同じ日に発表した文書ではその順序がいささか違っている。「日本人遺骨問題」「残留日本人・日本人配偶者」「拉致被害者」「行方不明者」の順に記されているのだ。

北朝鮮ウオッチャーが話す。

「日本側は分科会の筆頭を拉致被害者としているのに対し、北朝鮮が筆頭に打ち出しているのは日本人遺骨問題。そのため、北朝鮮は拉致被害者の再調査を行ない、生存者がいれば日本に帰国させると約束しながら、実は日本人遺骨をメインに返還する腹づもりではないのか? そう心配する声が少なくないのです」

厚生労働省によると、日本人戦没者など、北朝鮮からの未帰還遺骨は2万1600柱。日朝間に国交がないこともあり、これまで遺骨収集は行なわれてこなかった。

「北朝鮮は日本人遺骨の収集・返還に熱心です。というのも、北朝鮮は朝鮮戦争で戦死した米兵の遺骨も収集してアメリカに返還し、収集費用として1柱当たり100万円から200万円の謝礼を受け取っている。2万柱以上の日本人遺骨にも同額を日本側に請求すれば、最低でも200億円から400億円の巨大ビジネスになる。外貨不足の北朝鮮にとって、この稼ぎはおいしい。北朝鮮が分科会の筆頭に日本人遺骨問題を置いたのは、『行方不明者の調査はまずは遺骨から』というシグナルと見なすべきです」(北朝鮮ウオッチャー)

表記の順番を変えたのは日本の側だった!

これでは日本は北朝鮮の遺骨収集・返還ビジネスの片棒を担がされかねない。ここは仕切り直しをして、合意内容を再検討することも必要なのではと心配していたら、とんでもなかった。

実は分科会の順番の表記を変えたのは北朝鮮ではなく、日本政府の側だったのだ!

「5月29日に公表された双方の合意文を見れば、一目瞭然。分科会に関する記述はないものの、調査の内容として4つの項目が明記されている。その順番は『日本人遺骨問題』『残留日本人・日本人配偶者』『拉致被害者』『行方不明者』の順です。分科会の順番に関する表記を変えたのは北朝鮮でなく、実は日本政府のほうなのです」(北朝鮮ウオッチャー)

その表記順の変更には安倍政権のある思惑が秘められていると、テレビ朝日コメンテーターの川村晃司氏が指摘する。

「分科会の設置に関する文書は、日朝政府がそれぞれに勝手に作成して発表しているもの。双方が文言を突き合わせたり、調整した文書ではありません。つまり、拉致被害者の分科会を一番最初に表記したのは、なんとしてでも拉致問題を解決したいという安倍政権の思惑、熱意を表すものであって、日朝間の合意ではないのです。おそらく安倍首相は拉致問題を解決してみせると、国民に強くアピールしたいのでしょう。その狙いはズバリ、長期政権です」

来年秋、安倍首相は自民党総裁選を控えている。もし、この総裁選で再任され、その後の衆参両院の選挙でも勝利できれば、安倍内閣は2018年9月までの長期政権となる。

「安倍首相は拉致問題で強硬姿勢を貫くことで人気を高めた政治家。今回も自ら平壌(ピョンヤン)に乗り込み、政府専用機で拉致被害者を連れ帰れば熱烈な支持を受け、長期政権を維持できると計算しているのでしょう」(川村氏)

そのためには、消費税UPや集団的自衛権の行使を強引に閣議決定するなどして下降している支持率を回復すべく、なんとしてでも“国民へのアピールありき”というわけだ。

だが、再調査は拉致被害者の生命を救出することが第一義のはずだ。政権を延命したい安倍、“遺骨ビジネス”を目論む金正恩両政権の外交ゲームに翻弄(ほんろう)されることがあってはならない。

■週刊プレイボーイ31号「拉致再調査 『北朝鮮が返すのは大量の遺骨だけ』情報の真相!!」より(本誌では、安倍政権が奪還カードを切るタイミング、北朝鮮の深い思惑も詳説)