南シナ海に点在する島々の領有権をめぐり、ベトナム、フィリピン、マレーシアといった沿岸諸国と長年対立している中国。今年5月以降は特にベトナムと一触即発の緊張状態が続いているが、実はその裏で前代未聞の“軍事拠点建設計画”が次々と進行していた。

6月7日、香港の英字紙『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』は、中国が南シナ海・南沙諸島の暗礁(満潮時は水没し、干潮時は水面から顔を出す岩礁)であるファイアリー・クロス礁を埋め立て、軍事拠点として大規模な「人工島」を建設する計画を立てていると報じた。

軍関連企業である「中国船舶重工業集団公司」が所轄の海南省や共産党本部などに建設許可申請を提出したという事実から、米軍筋もすでに中国政府の“ゴーサイン”が出たと判断しているという。

こうした人工建造物で“既成事実”を積み上げていくやり方は、中国にとっては定番の得意技だ。軍事ジャーナリストの古是三春(ふるぜみつはる)氏はこう語る。

「南シナ海の北部、ベトナムと領有権をめぐって争っている西沙諸島ではすでに、多くの岩礁が船着き場やヘリパッド付き哨所(しょうしょ)に“改造”されています。なかでも有名なのが、岩礁を埋め立てて建造された半人工島の永興島(英語名・ウッディー島)です」

この島にはSu-27戦闘機が発着可能な2000m級滑走路、5000tの船舶が停泊可能な港湾施設があり、さらに銀行や図書館を含む市街地まで建設。中国本土から定期船が運航し、観光客も誘致しているそうだ。

「中国政府は西沙諸島、中沙諸島、南沙諸島を海南省に属する『三沙市』として、永興島に市の地方政府を設置。2012年時点で島の人口は444人と発表されています」(古是氏)

では、今後新たに南沙諸島のファイアリー・クロス礁を埋め立てて造られる人工島は、どんな施設になるのだろうか?

南シナ海に“不沈空母艦隊”が形成される!

「中国国営第九造船開発研究所のレポートと関係者の話によれば、総工費は50億ドルで、広さ5平方キロメートルの予定地をすでに埋め立て造成中。10万tクラスの空母(2020年までに完成予定)が寄港可能な港湾施設と、少なくとも2000m級以上の滑走路が2023年に完成予定です」(古是氏)

ここまでくると、もはや単なる軍事拠点ではない。南シナ海のど真ん中――東にフィリピン、南から西にマレーシアやインドネシア、北西にベトナムという、中国にとって最高の場所に、巨大な“不沈空母”が誕生すると考えるべきだろう。

しかも、南沙諸島における中国の軍事拠点建設はこれだけにとどまらない。

そのひとつが、ファイアリー・クロス礁から東に約150kmの地点にあるジョンソン南礁だ。ここでも現在、大規模な埋め立て工事が急ピッチで進んでおり、滑走路建設も時間の問題だという。

また、そこからさらに東へ約150kmの地点には、中国が1990年代末に鉄筋コンクリート製の施設を建設して実効支配しているミスチーフ礁がある。

西から順に空母(ファイアリー・クロス礁)、ヘリ空母(ジョンソン南礁)、軽空母(ミスチーフ礁)と、絶妙の距離間隔で東西に並んだ3島からなる“不沈空母艦隊”がフィリピンやマレーシアにニラミをきかせ、ベトナムには西沙諸島・永興島に配備された戦力が対応――。9年後にファイアリー・クロス礁の滑走路が完成すると、南シナ海周辺の軍事バランスは劇的に変化することになる。

もちろんこれは、マラッカ海峡から南シナ海を通るルートを主要なシーレーンにしている日本にとっても決して人ごとではない。例えば現在、日本が輸入する原油の約8割、天然ガスの約6割は、このルートを通っている。

それだけに、ルートが遮断された場合、日本と東南アジアや中東を行き来する船舶はフィリピン海を経由する太平洋ルートへ迂回して航行することになり、通常より約3日間のロスになってしまう。さらにそこで紛争でも起こったら……。

日本経済への影響も計り知れない中、わずか9年後、南シナ海が中国に完全制圧されてしまうのか?

(取材/小峯隆生 取材協力/世良光弘)

■週刊プレイボーイ31号「中国の『人工島=不沈空母』建設で日本の生命線は寸断寸前!」より